一人称に殺される「二」
暗い銅のような色は薄れて消えて、私の目の前に道が現れる。あまり広くない道の両側に並ぶのは、現代的で日本的な一軒家の列。ごく普通の、日本のあちこちにありそうなありふれた風景。
私はこの世界に見覚えがあった。というか、いつもカクヨムに飛ばされる世界には見覚えがある。飛ばされる先はいつも、私が過去に書いた小説の世界だからだ。
でも今回はいまいちはっきりと、なんの話だったかがわからない。
周囲を見渡すと、そこはやはり普通の日本の町だった。誰が住んでいるかわからない家の表札も、空の色も普通。でも、よく電柱についている地名が書いてあるプレートがボヤッとしているのは、私がこの世界に特定の土地を割り振らなかったからだろう。つまりこの小説は、ドコニデモアルドコデモナイ町で起きた話である可能性が高い。
「現代が舞台の話なんて私……カクヨムにアップしたっけ」
ここで私はあることに気がつく。ここは私がカクヨムに投稿も、下書きすらもしていない小説の世界だと。
疑問『 何故、カクヨムに関係ないことをカクヨムが知っているのか?』
(前のカクヨムはサイトのこと、そして後のカクヨムはあの生きているカクヨムロゴのこと。このややこしさは私は結構気に入っていた。いつか彼に名前でもつけてやろうとは思うけれど。)
そんなことより、今はこの世界が何だったのかを思い出さなければいけない。そうしないと私はまた嫌な思いをするだろうから…………と、考えたいにも関わらず私の脳は、ここ数日連続で私を殺し続けていたキャラクターのことを思い出していた。
マオ・シャガットガート。私がカクヨムに公開している『殺罰―さつばつ―』という連載小説の登場人物だ。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
マオの私の殺し方の数々を思い出しながら夕方の道を歩くと、全く身に覚えがない(つまり、書いた覚えがない)老婆に挨拶された。私が挨拶を返すと老婆は、特に何の話をすることもなく、立ち止まることもなくどこかへと歩いていく。きっと、景色のような世界観の一部としての老婆なのだろう。
「よし、がんばれ! 私は作者なんだから」
老婆のお陰で頭の中から、マオ・シャガットガートの姿が消える。私はその隙にと周囲を見渡し、一生懸命この世界がどの小説かを推理していく。
田舎と言うには町。でも、近所の挨拶があたりまえにあるくらいには田舎。そこから察するに、この小説は――――。
「しまった!」
私は思わずそう口にした。私が無意識に足を運んでしまったのは、園芸店。この情景ははっきりと覚えている。
そうだ、この世界は私が人生で唯一、そして、様々なジャンルを書ける自分というものに憧れながら書いたミステリー短編『妖蘭』だ。
「いらっしゃいませ」
しまった、目が合ったどころか話しかけられた。私はその
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