駄作に殺される「一」

 新作を書いた。久しぶりにカクヨムの外で。私は荒削りなそれを妹に見せて感想を聞く。


「うーん、なんかいまいち。殺罰とかソネミのほうがおもしろいかな」


 妹の反応は悪い。


「そっか」


 ここ数日でわかったことがある。妹の言うことは的を得ている。確かに妹がつまらないという小説を読み直してみると、つまらないのだ。書いている時は集中しているせいか私はそれに気がつけない。妹に見せる時も、まだその高揚が続いているのか気がつけない。でも妹の意見を聞くと、私は自分の小説を冷静に見つめることが出来た。

 まるで冷却装置。こんな短時間で自作を客観視できる状態にしてくれる妹は今や私の創作に欠かせない存在だ。


「次、書いてくる」

「うん、がんばって」


 意見を言うのにはまだ遠慮があるようだ。できればもう少し踏み込んだ感想も聞きたいのだけれど、妹の負担になりすぎてもいけない。



『そこの父親に殴られ欲情しているイカれた少年を譲ってくれないか? これはいい兵になる。私のところでなら。』

『おまえの目は世界を憎んでいる、そしてそれに悶えるほど狂っている。』

『暴力を愛せるなら。』

『優れてもいないし劣ってもいない。強いて言うなら少しだけ優れている苦痛。それがおまえの力だ。』


 たくさんの言葉を生み出し、それを軸に物語を構築する。

 その手法が悪いのか、書けども、書けども妹を納得させる小説は書けなかった。それでも私が続けられるのは、小説が好きだからだろう。そして妹ががんばってくれているおかげで、くじけられないのだろう。

 私はこの作業を「小説で賞金をとったら妹に何割あげようか」なんて謎の皮算用をしつつ、進めていった。


 

 その日の晩、私は地獄を見た。


 深夜に執筆していると、カクヨムが話しかけてきて久しぶりに私を小説の世界へと誘った。連れて行かれた先は、少しだけ執筆してボツにした『少女になる魔法』という小説の世界。


「あぐっあうぉえっ」


 腹を殴らて吐くのはこんなにも苦しいのか。私に暴力を振るうのは、その小説の主人公である少年エルデバンド。


『そこの父親に殴られ欲情しているイカれた少年を譲ってくれないか? これはいい兵になる。私のところでなら。』

『おまえの目は世界を憎んでいる、そしてそれに悶えるほど狂っている。』

『暴力を愛せるなら。』

『優れてもいないし劣ってもいない。強いて言うなら少しだけ優れている苦痛。それがおまえの力だ。』


 これは全てエルデバンドの事を指した言葉だ。もうどのくらい経っただろう。私は延々とその幼い手により振るわれる暴力を体験していた。


「怖くて小説なんて書けなくなるくらいにしてあげるから」


 彼の目的は一つ。私に徹底的な恐怖を与え小説を書けなくすること。カクヨムの体験させる小説の中で地獄を味わいたくなければ、もう――カクヨムのアカウントを消せと。


「うぐ……う……う」


 今私はどんな姿になっているのだろう。血溜まりに浮かぶ、異様な量の自分の髪を見ながらそう思う。

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