妹に殺される「二」

 私はサトカの電話に出た。


「今大丈夫?」

「うん、大丈夫というか……まぁ大丈夫」


 つい、そんな返事をしてしまう。


「明日の夕方って何してる?」

「明日は……ちょっとわからないかも」


 もしかしたら妹がまた泣き出すかもしれない。だから私は、そう言うしかなかった。


 サトカとの電話は早々に切り上げ、妹の部屋に様子を見に行く。


「さっきはごめん」

「いいよ、電話でしょ」

「話す?」

「寝てるからいい」


 布団にくるまったまま答える妹の声は聞き取りづらい。


『 妹は壊れてしまったのだろうか。』


 頭の中にふと、こんな言葉が思い浮かぶ。小説の一節のように。



 結局妹は、母が帰ってきて夕飯を食卓に並べるまで寝続けた。


 夕飯を食べながら、妹は母にいろいろな話をしていた。学校に通い続けれなくて申し訳ないとか、落ち着いたら大検を受けるつもりだとか、そんな話だ。

 どうやら妹はもう退学したらしい。私の知らない間に母との間でいろいろ進めていたのだろう。


「急がなくてもいいからね。しっかり考えてくれてるのはわかるから」


 母が投げかけた言葉に、この話題に無関係の私の胸が痛んだ。仕方ない、妹は昨日帰ってきたばかり。気を遣ってあげないと。


 ♦♦♦♦♦♦


「お姉ちゃんは休学だっけ。学校には戻るの?」

「は?」


 歯磨きをしている私に妹は聞いた。


「いや、このまま小説を本気で頑張るのかなって……」


 きつい反応をしてしまったせいか、妹は申し訳なさそうに――――。


「あんたになにがわかるの。私のことなんて全然知らないでしょ」

「うん、知らない。でも応援してる」

「そういう中身がない反応いらないから!」


 つい、怒鳴ってしまった――。


「私は本気で応援したいって思っただけだけど。夢を追うお姉ちゃんはすごいって思ってるし」


 あんたこそ夢を追っているくせに、わざわざ高い学費のかかる全寮制の学校に行くやつなんて、目標があるからだろう。家から通える同レベルの学校もあるのに。

 気持ちの抑えが、どんどんつかなくなっていく。でもこれは私のせいじゃない。妹が私を煽るからいけないんだ。


「あんたはいつも冷静だよね、相手を分析して距離とって。はぁ、優秀な人の言うことは違いますね!」

「いつも冷静なんかじゃない!」

「あんたは私に比べればずっと冷静だ! 自分が私より勉強ができることも昔から理解してただろ! さっさと大検とってご立派な大学でも行きなよ!」


 バタンと大きな音がした。寝ていた母が起きてきたのだ。


「やめなさい!」


 その言葉は確実に、妹ではなく私に向けられていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る