アニメ化に殺される「一」

「あと、この作品アニメ化しますから。もうチョロチョロしないでください。貴女がいると邪魔なので」

「え?」


 食事を終えて水を飲んでから、マオはそう言った。


「あああと、貴女の書いた黒の国のアリスという長編小説、あれもサトカに渡して下さい」

「どういうこと、あれは……」


『黒の国のアリス』

 それは私が出版社に送ったけれど、結果のでなかった作品の名前。そして私のとっておきでもある小説の名前。いつか、修正を加えてカクヨムに投稿しようとすら思っていたものだ。

 本当に本当に私の大切な小説。


「ネコロネコ、貴女にはもう小説を書く資格はないんですよ。貴女はいたずらにキャラクターを生み出しそれを放置する。一体どのくらいのキャラクターを殺せば気が済むのですか?」

「そんなつもりじゃ……」


 ふわり、急に身体が軽くなった。


「え、腕が」


 無い、両腕がない!


「あら、私と同じになってしまったのね。よかったわ、もうこれであなたに書かれなくて済む」


 後ろからした声に振り向くと、そこには金属の両腕を持つ白髪で灰色の瞳を持つ女性がいた。アンネ、彼女も殺罰のキャラクターだ。


「私さ、アリスは好きだけどおまえの書くアリスは好きじゃねぇや」


 また別の方から声がした。

金髪、青い瞳、そして水色のエプロンドレスを着たダリルダリル。マオと並ぶ殺罰のメインキャラクター……。


「あれだけ書いた私の話はいつ公開してくれるのかね?」


 今度は白衣の女。彼女の名前はランジョー・ミチコ。私がお蔵入りにした殺罰の第二部に登場する女。


 気がつけば私は、殺罰のキャラクターたちに囲まれていた。(ぐるり囲まれ後ろに誰がいるかわからない。)


「その点よいのう、キリシマ・サトカは。ワシらの話をアニメ化までもってくなんて大したものじゃ」


 この話し方は腕の三本ある老婆、三本ババアことメアリー……のはず、あれ? どうして腕が二本しか無いの? あれ? そもそも老婆じゃない。なんで若いのだろう。


「そうですね、本当にキリシマ・サトカは優秀ですね。ネコロネコが密かに憧れ続けたアニメ化の夢も叶えてあげるなんて」


 マオの声とともに、ドンという音がお腹の当たりで聴こえた。


「え?」


 私のお腹に、太いナイフ。


「いいいいっあああああっ!」


 痛い、痛い、痛い。あれ、小説の中で殺されるのってこんなに痛かったっけ。


「ああ、ネコロネコ、貴女はここで普通に死ぬんですよ。貴女が小説世界から出るための条件を忘れてなんかいないですよね?」

「……小説のキャラクターの殺される……」

「ええ、自分のキャラクターに殺されること。それが条件です。でももう私達は貴女のキャラクターじゃないんですよ。その意味はわかりますよね? ネコロネコ」


 私は――――。


 

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