ガシューナッツに殺される「一」
目覚めた私は、カクヨムを見た。昨日なんか夢を見た気がするけれど、あまり覚えていない。(どうせヤマサトの小説の世界の中で殺されたのだろうけど。)
「更新されてる……」
ヤマサトがカクヨムに連載している小説『砂塵は笑う』の最新話を私は読む。とても嫌な汗をかきながら。
主人公のガシューナッツ(この名前を生み出すセンスは正直羨ましい)は傷ついた仲間を逃がす時間を作るために、敵対している生体兵器(このあたりの設定は私の小説と近いところもありすごく嫌だ)におもちゃのナイフをもって挑む。最新話の展開はおおまかにこんなかんじだ。
この話のラスト、圧倒的な戦闘力を誇る生体兵器を前に、おもちゃのナイフを持って立つ主人公の姿がはっきりと思い浮かぶヤマサトの圧倒的な文章力。きっとこのシーンは誰もが胸を震わせたことだろう。
この後この世界の中に放り込まれるかもしれない私ですら、この後どうやってガシューナッツが勝つのか知りたくて仕方なかったくらいだ。
その日の晩、私は以外にもすんなりと眠りについた。睡眠薬の効果もあるだろうけれど、一番はカクヨムが私を「死なないように」してくれたこと。ヤマサトの小説の世界で殺されるのは嫌だけど、そこで死んでも現実世界で死なないならばそう怖くはない。
だって私は、自分の書いた小説のキャラクターに何度も殺されてきたから。小説は所詮フィクション。だからきっと私の恐怖感もフィクションなんだ。
「……うん、やっぱりそうか」
私は眠った。眠ったのだろう。だから私はここにいる。ヤマサトの小説の世界『砂塵は笑う』の中に。ああ、この景色はあれだ、今日読んだ最新話の情景だ。(初めて見る景色だが、ヤマサトの表現力が私の脳裏に想像させた世界とまるで同じなのだ。)
つまりもう少ししたら右側にある建物の影から、ガシューナッツが現れるということか。
「殺されるんだろうな」
ガシューナッツが対峙した生体兵器ならいざしらず、私はただの一般人だ。例え彼の武器がおもちゃのナイフだとしても、私が勝てる理由がない。
カチン。
私の手が何かの金具にでも当たったのか、とても金属的な音をたてる。
「え?」
何だこの腕は、鈍く光を反射する手のひら、手首、腕は……明らかなる金属だ。
ガチ、ガチ、ガチ、カチン。右手で左腕、左手で右腕を触ると金属をぶつける音がする。目視でも確認した、私の指先から肩までは、完全なる金属製だ。
「断罪の腕!」
フォルリーナ・ダ・アルベローニ。またはアンネ。途中から名前を変更した、私の考えた小説のキャラクター。彼女の両腕は金属、稼働する義手。そしてこの義手は武器だ。
ふいに私は昨日の夢を思い出す。フォルリーナが私に言った言葉。
「私はね、あなたに能力を与えに来たの」
これが……フォルリーナからのプレゼントということか。そしてその時、ガシューナッツの姿が見えた。
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