ガシューナッツに殺される「ニ」

 怖くない。全く怖くない。いくらガシューナッツが強い主人公とは言え、戦闘力は私の考えたフォルリーナのほうが上だ。そもそもヤマサトの『砂塵は笑う』に出てくる生体兵器やキャラクターは、私の書く小説よりもだいぶスペックが低めなのだ。

 ガシューナッツがおもちゃのナイフを手に私に向かって走り込む。そしてその距離が詰まりきる前に、私に向けたそのおもちゃを投げた。


「がはっ」


 おかまいなし、それがおもちゃだとわかっている私は自らの顔に当たろうともおかまいなし。きっと彼は私が避けると予測していただろう。でも私は避けない。そして私は叩き込んだ。硬い金属の拳をガシューナッツの顔面に。


「どこだっ!」


 狙ったのは顔の中央より少し上、彼の視界を奪うためだ。どうだガシューナッツ、私は小説書きだ。戦闘シーンでを考えることには慣れている。万に一つも、あんたが私に勝つ理由はない。


「あああっ!」


 この雄叫びは私の声。私はガシューナッツの背後に周って襟首を掴み強引に引きずり倒すと馬乗りになる。


「がっ! うがっ!」


 何度も、何度も殴る。いくら私が今フォルリーナの断罪の腕を持っているからと言って、油断はしてはいけない。なぜなら私は戦闘の経験がないただの人間。きっと戦闘のプロであるガシューナッツやフォルリーナのような動きはできない。だから間を空けちゃだめなんだ、隙を見せちゃ駄目なんだ。殴れ、殴れ殴れ殴れ殴れ殴れ。


「……」


 さすがフォルリーナの身体。全然息があがったりしない。疲れもしない、血で滑って間違って地面を殴っても痛くもない。私の安心感は殴るたびに増す。


「あ、あれ」


 視界が変わり、見えたのは部屋の天井だった。


「やった……!」


 勝ったんだ、私はガシューナッツに勝って日常へと帰ってきたんだ。

 時計を見ると午前四時。まだ眠りについてからそんなに時間が経過していない。でも勝利のせいか私の調子は良く、すんなりと起き上がれる。(いつもなら睡眠薬が残っていてだるくて仕方ないのだけれど。)


 なんとなく私はパソコンを立ち上げ、カクヨムを開く。そして『砂塵は笑う』のページを開く。


「え、嘘」


 そこにあったのは『最終話』という文字。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る