最終話に殺される「一」
完結した。あのヤマサトの小説、私が憧れすらしたあの『砂塵は笑う』が突然最終回を迎えたのだ。
「なにこれ……」
理不尽、主人公はなんともあっけなく殺され長く続いた砂塵は笑うは完結した。全十七章、エピソード数三百九十五。
これだけ長いのにもかかわらず私は一度もこの小説を読みたくないと思わなかった。(正直に言えば三度くらい中だるみはあったけれど、それでも読ませる力があった。)とにかく、この小説はレベルが高いのだ。フォロワー数も多い、評価も高い。だからこの小説が優れているというのは、私だけの勘違いではない。なのに何だこの終わり方は。まるで打ち切りの漫画のようだ。決められた枠に無理やり収めた不本意な終わり。まるで小説を投げ捨てるかのような終わり。
「……え、ヤマサト?」
私の携帯がなったのは、ヤマサトからメールが来たから。内容は一言「会いたい」とだけ。でも今は深夜だ。会いに行くのは無理だ。しばらくどう返していいか悩んでいると、ヤマサトからもう一通メールが来る。「明日会いたいんだけど時間ある?」と。
翌日、私とヤマサトが待ち合わせしたのは普通の公園。さすが平日の昼間なだけあって、幼い子を連れた母親か老人くらいしかいない。(ベンチは私が独り占めだ。)
「悪いね急に呼び出して」
「うん、ヤマサト学校は?」
「休んだ」
そういう彼女が制服を着ているのはなぜだろうか。
「小説辞めることにしたわ」
「それで最終回なの?」
「あ、読んだんだね。さすがニート、暇だね」
きっとこの嫌味はヤマサトの強がりなんだろう。私は今の彼女に怒れる気がしなかった。
「私小説よりやりたいことあるんだよ」
「何?」
「料理」
センスがあるのにもったいない、憎たらしい。これが私の素直な感想。ヤマサトが小説をやめればライバルが減るとせいせいする気がしていたけれど、そんなことはまるでなかった。
「じゃあ……私に小説のアドバイスをしてくれない?」
アドバイスが聞きたいわけじゃない。この時私が思いつけた小説の話題がたまたまこれだっただけ。
「……嫌だよめんどくさい、と言いたいところだけど一個だけアドバイスをするよ。あんたのキャラクターはインパクトに欠ける。あんたならもっと強烈なキャラクターが作れるはずだ。人の目とか世間の評価とか気にせず、あんたの思う強烈なキャラクターを作ってみなよ」
「ヤマサトはやっぱり小説を書くべきだよ」
本当にそう思う、なんだか泣けてくるくらい私はヤマサトに小説を辞めてほしくはなかった。
「私もそう思う。でも情けない話なんかね、続きが思い浮かばないんだ。急に才能もセンスも無くなっちゃったんだよ。だから実家でも継ごうかと思ってね」
「実家が料理屋さんなの?」
私は涙を拭う。ハンカチを忘れたから袖で。
「うん、結構昔から続いてる料亭だよ」
「なんでさっき嘘ついたの? ねぇ! さっき小説より料理がやりたいから小説辞めたって言ったよね! 友達なのになんでそんな――」
私は思わず立ち上がり大きな声を出してしまった。公園にいた何人かが、その声に反応して振り向き、立ち上がったせいで鳩が逃げていく。
「あんただって嘘つくでしょ? ネコロネコ。きっと私に隠していることもたくさんある」
「はぁ? 喧嘩売ってんの?」
ネコロネコとわざわざペンネームで呼んだヤマサトに怒る私のせいで、鳩がまた一匹、逃げていった。
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