アンネに殺される「一」

 私がいつ眠ったのかはわからない。でもとりあえず私は異世界に来ていた。


「えっ」


 だがその世界はヤマサトの小説『砂塵は笑う』の世界ではない。なんの小説かはわからないけれど、これは私の書いた小説の世界だ。


「あら、突然現れたあなたは誰?」


 眼の前にいるのは、白い軍服の女。上から下まで真っ白で、真っ白な手袋をした、首から下の露出が一切ない女。髪も白く、目は灰色。なんとも色素の薄い感じがするこの女は……アンネ。私の考案したキャラクターだ。

 この世界がなんていう小説だったか断定できないのは、アンネの登場する小説は何度も何度も書いたから。公開に至ったのはカクヨムで連載している『殺罰』という小説だけで、後は全部ボツなのだけれど……とにかくアンネの出てくる小説は多いのだ。


「あ、えっと私は……あのあなたはアンネ――さんですよね?」

「違うわ。フォルリーナ。フォルリーナ・ダ・アルベローニよ?」


 作品の正体を余計につかめなくなった。フォルリーナ・ダ・アルベローニというのは、アンネがアンネという名前になる前、アンネのもとになったキャラクターの名だからだ。少しややこしい話だけれど、アンネと言うのは元々このフォルリーナ・ダ・アルベローニの出てくる物語に登場する別のキャラクターの名前だった。それを私が、フォルリーナの名として使うようになり……とにかくそんな経緯のあるキャラクターなのだ。


「へぇ、あなたは私の作者というものなのね」


 フォルリーナは勝手に私が何者かを認識してくれたようだ。


「え、ええ。それで……」

「作者ということは相当強いのでしょう? 私の隊で働いてくれないかしら? 今ね最悪の相手を追い詰めている最中なのよ」

「えっと、その……」

「今私が戦っているのはクロナ・クローナ。作者のあなたならわかるわよね?」


 ちょっとまってと私は言いたかったが言えなかった。なぜならクロナ・クローナという名前は、には登場しないからだ。その名前が出てくるのは、アンネという名になった後の最新作『殺罰』の……。つまり、この世界は私の小説が入り混じっているということか。

 

「からかうのはそろそろやめるわ。私はね、あなたに能力を与えに来たの。あなたはこれから寝るたびにある小説に送り込まれる。かなり危険なね」

「え、なんでそんなことを……」


 フォルリーナは私がヤマサトの小説『砂塵は笑う』の世界に行ったことを知っているのか。


「私はあなたの書いた小説の登場人物よ? 知っていて当然でしょう?」


 そう言ってフォルリーナは、そのキャラに似つかわしくない優しい笑顔を私に向けた。

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