キリシマ・サトカに殺される「六」


『新作を書こうと思うんだけど、お願いしたいことがあります。実は自分をモデルにしたキャラクターが出てくる話を書いてみたいと思ってて。ジャンル的にはちょっと怖い感じのライトノベルかな。サスペンスっぽいやつ。そういう雰囲気にしてみれば私でもライトノベルが書けると思って。でも一人では不安だから、✕✕✕✕に見てもらって意見を聞かせてもらいたいんだけど、いいかな?自信なくて悩むと思うから見てもらいたくて。』


 


 サトカが送ってきたメールのせいで私のカクヨムアカウントの中に、下書き状態のまま公開できない小説が増えた。サトカがモデルのキャラクター、そしてサイコホラーに近いジャンルサスペンス。これだけ要素がかぶっていたら、全く違う話だとしても似通ってしまうところは出てくるだろうと。

私には、あんな素敵な小説が書けるサトカと真っ向勝負する度胸はない。


 そしてもう一つ、私の心を酷く締めつけたことがあった。サトカが送ってきたメールは『?』の後ろにスペースが空いていなかったんだ。私はサトカにメールを送る時いつも『?』や『!』の後にスペースを開けていた――――それが小説の作法だから。

今私はその行為が、小説家気取りのその行為が異様に恥ずかしい。


「じゃあ行こうかネコ」

「え、ちょっとまって!」


 カクヨムの一声とともにモニターがぐにゃりと歪み私の周囲が白を基調とした空間に変わる。そして目の前に現れたのは、黄色い何か。それは多分、いや確実にキャチコピー。最初はぼんやりしていたけれど、段々とはっきりと文字らしくなっていったから。




「死ぬこと」を選択しなかった。だから私には毎日がある。



 ああ、これは私の小説『殺罰―さつばつ―』のキャチコピーだ。ということは私は今日はあの世界に飛ばされるのか。あの、マオ・シャガットガートのいる世界に。


私の視界が黄色く支配される中に、灰色があった。その灰色は文字で……シマサト・キリカと……。


♦♦♦♦♦♦


「貴女誰ですか?」

「え? 私だよ、ネコロネコ。この作品の作者」


 私は殺罰の世界の中の場面の一つである、『三本ババア』の経営するお店の席についていた。そして目の前にいるのは、マオ・シャガットガート。そしてネコロネコと言うのは私のカクヨム上の名前、つまりペンネームだ。


「? この世界の作者はシマサト・キリカですけど」


 マオは目の前で美味しそうなラーメンを食べている。その美味しそうな匂いに食欲が刺激されないほど、私は衝撃を受けていた。

シマサト・キリカ?

殺罰は私の小説のはずだ。殺と罰でさつばつと読ませる記載が他に使われていないか、しっかり検索をかけた上で使用した。だから絶対に私の……。

私の頭の中で、シマサト・キリカという文字がばらばらになり、並びを変える。

キリシマ・サトカ。どういうことだ、これはまさかサトカが私の殺罰をパクったということか? そして私はそのサトカ版の殺罰の中にいるってことなのか?


「そんなことをしてももう遅いのに」


 席を立ちこの世界を確かめるべく外へと向かった私を、マオがそう言って止める。


「マオ、あなたは知っているの? さっき私のことを知らないって……」

「覚えていないんですか? 貴女はもうこの小説は手に負えないとサトカに続きを書いてもらうことを頼んだことを」

「そんなことしてない!」

「静かにして下さい。食事中です」


 私はもう一度席に着く。


「ズズッ……サトカはこの作品に不思議の国のアリスの要素を取り入れました。そのおかげでだいぶ面白くなりましたよ」

「え、それは私も……やったはず」

「貴女のは不完全です。ズズッ……あんなの取り入れたうちに入りません」


 マオは食事のついでに私の相手をしているといった感じだった。私に対して、もう、なんの感情も持ち合わせていないと言いたげに。



 

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