キリシマ・サトカに殺される「五」

「オマエやけに今日は執筆速度早いですね」

「うん、ごめんねカクヨム、今すごく集中しているから答えられないかも」

「別に気にしなくていいです。カクヨムは小説を投稿するサイト、オマエのやってることはとても正しい」

「うん、ありがとうカクヨム」


 私は今カクヨムに直接小説を書き込んでいる。キリシマ・サトカをモデルにした小説を。(もちろんサトカが見ても自分がモデルになったと気がつかないくらいアレンジは加えた。)

 私はサトカがクラスで私のことを誰かに聞いたということに、寒気を感じていた。普通なら、突然休学した人間のことなんて話題にできるはずがない。まして私が通学していた頃、サトカとは全く仲良くなかったのだ。

 そんな事ができるのは、サトカがクラスの人気者だからだ。サトカだから許される。サトカだから「休学したクラスメイトを心配している」と純粋な評価を受ける。

 多分、サトカと喧嘩したというヤマサトは今息苦しい日々を送っているだろう。サトカが相手ではかなり分が悪い。例えその喧嘩が二人きりの時に行われたものだとしても、ヤマサトが良い気分ではないことは明らかだ。


「よし、よし!」

「いい感じですね、ネコ」

「ありがとう、カクヨム」


 今日のカクヨムは私を小説世界の中に引きずり込もうとする様子はない。ただパソコンの中から私に語りかけるだけ。これはとてもありがたい。私は母にもう二度と「一人でパソコンに向かって喋っていた」なんて思わせてもいけないし。一応対策として、ネット上の友人と音声通話をしているということにしておいたけれど。

あの日から私は、わざわざヘッドセットをつけてパソコンに向かうようにしている。耳は塞がれた上にマイクはむき出し。そんな状態で会話をしていれば、勝手に友達同士の会話を聞いてはいけない、音を立ててマウスに拾わせてはいけないと、話の内容が聴こえる距離には母も妹もよってこないはずだから。


「約2,000文字をこえましたよネコ」

「ありがとう、カクヨム」


 今回の小説はとても良い。私はそう確信していた。ジャンルはサイコホラー。サトカのようなクラスの人気者が無自覚に誰かを追い詰めてしまい、復讐されるというストーリー。普通の発想で行くなら、サトカをにするのではなくストーカー化させたりしてにしたほうがわかりやすくてよいだろう。でもそこは外す。

 優等生が実はサイコパスだったという図式は、ありふれ過ぎているから。


 文字数にして五千文字、時間にして一時間。ちょうどいい感じにキリがついた時、妹に夕飯ができたと呼ばれた。通話中という設定である私を気遣ってか、家の中で電話をかけてくるという方法を使って。


「うん、今行くからありがとう」


 妹からの着信を十秒くらい放置してからとったのは、通話中であるリアリティを出すため。そしてその気遣いは家族に余計な心配をさせないため。


 食卓に向かう短い間に、妹は私に謝り、私は妹に謝り小説を応援してくれていることに感謝をした。そんな二人を見て母は「今日は仲良いね」と嬉しそうに言った。


 食後の片付けを妹が自ら「私がやる」と言い出したのは、私が今執筆中だと知っているからだろう。私はその言葉に甘えて、キリシマ・サトカをモデルにした小説の続きを書くために部屋へと戻る。

 まず、タイトルを書こう。夕飯を食べている間に思いついたタイトルを『タイトル未定』といれてある欄に入力しよう。


 その時、机の上のスマートフォンが震えた。サトカからのメールが来たらしい。

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