SNSに殺される「一」

「ねぇお姉ちゃん、カクヨムってSNSと連携できるんだよね。やってる?」

「いや、やってない」


 正直その存在はわかっていた。呟きを主体とした、もう随分と前から一般に普及しているあのSNS。カクヨムのプロフィールにもアカウントを載せれるあれ。


「うーん、まぁでもこれ更新したお知らせとか手動でやらないといけないからあんまり意味はなさそうだよね」


 私は胸をなでおろす。正直私はああいうのは苦手なのだ。


「でもさ、そうやって外で自分の小説を知ってもらおうとすることは大事なのかもね」

「う……うん」


 確かに、確かに、確かに、確かにそれは私もわかっている。ネット上に小説を載せているのだからそれが効果がないわけでもない。


「というのをさ、ずっと私考えてて」


 私の胸が騒がしくなる。最近ちょっと不安なことがあると、動悸が激しくなるのはなんでだろう。


「やらないとダメかな」

「うーん、やったほうがいいけど負担になって続けれないならやらないほうがいいかな」


 なんて現実的な意見なんだ。あんた辞めたとは言え、まだ高校生だろうと私は思う。


「やれそうな方法考えてみるね」


 頼もしい妹に私は勇気をもらったようだ。それから一時間、私は部屋にこもり――自分の小説を宣伝するためのアカウントを作ることができたから。



「記憶領域?」

「うん、自分のアカウントだとしちゃうと交流とかうまくできなそうだからこうしてみた」


私が作ったアカウントは、設定つきのアカウントだ。名前は『記憶領域』私の小説を記憶として記録し、その情報を流しているというちょっとSFチックなキャラクターのような存在。これなら私自身ではないから、きっとうまくやれる。それにこれは、私の小説の雰囲気にも合わせてある、長い目で見ればきっと楽しんでもらえるはず――。


「ごめんねお姉ちゃん、わかりにくい」

「あ、うん、ごめん」


 そう言われる可能性も考えていなかったわけではない。でも私は一度これを形にして見せたかった、まだ何も呟いていない今なら問題あれば『ネコロネコ』としての普通のアカウントに修正すればいいだけだしと、私は妹にこのアカウントをとりあえず作った理由を説明する。


「よし、これで行こう!」

「え?」


 妹の話を聞いて私は納得した。わかりにくさもあるし、受け入れてもらえないかもしれない。でも、下手に自分名義のアカウントにしてストレスを溜めるよりやれそうなこれで行くのが良いと。

 妹はあくまでSNSでの宣伝は補助だと言い切った。ゆっくりでいいからその補助をどこまで良いものに高められるかが勝負だと。


 私は妹を賢く生んでくれた母に、心の中で感謝した。

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