勝負に殺される「ニ」
「ちょっと見せてほしいんだけどいい?」
身内になんて見せたくはなかったけど、ここで見せないと言うようであればヤマサトに勝てない気がした。誰からも評価を得られるようにならないといけないのだから。
私は妹にカクヨムと、自分のアカウントの探し方を教える。進めたのは一話完結で読みやすい『ソネミとイタリアの吸血鬼』だ。
「ありがとう。登録しなくても読めるんだね」
「うん、これまだ五人しか見られてない小説なんだけど……いいかな?」
「うん」
妹が黙ったままスマホを見つめて、十分が経過した。そこで私は気がついた、妹は相当真剣に私の小説を読んでいる。だってこの小説は、流し読みをすれば五分かからないはずだから。それに昔から勉強ばかりしてきた妹が読むのが遅い訳がない。
「これ面白いのになんで五人しか読んでくれないんだろう。このピンク色の字で書いてあるのも目立つ気がするし」
妹がピンク色の字と言ったのは、この小説のキャッチコピーだ。
『その少女は、とても臭そうだった――――。』
言われたとおり、私がこのキャッチコピーで重視したことは目立つことだ。
「なんか私にできることないかな?」
スマホを画面を下にして置いた妹は、私の方を見てそう言った。
「ほら、私学校やめちゃったし……でもなんにもやりたいこと思いつかなくて。だけど一生懸命小説頑張ってるお姉ちゃん見てたら勇気が出てきて。だから――あれ?」
私の周りはよく泣く人が多い気がする。私はなんて答えてよいか悩んでいる間に妹は、勝手に話を続けて、勝手に泣き出した。私はそれが、嬉しかった。
「なんていうかさ、とりあえずおかえり」
学校をやめて戻ってきた妹は、どんな気持ちで今日まで過ごしてきたのだろう。私は泣きじゃくる妹を、優しく、そして強く抱きしめる。そうだ、私はこの子の姉だと自分に言い聞かせながら。
泣き止んだ妹は、私にある告白をした。少し前に勝手に私の部屋に入り私のカクヨム、そして小説を見たと。だからソネミを読むのは二回目だと。
私は妹を攻めることはなかった。なぜなら妹は、私の小説をなんとか成功させるために役に立てることはないかと――私の小説を知ろうとして、それをやったから。確かにあの頃の私は、妹から今日と同じ申し出を受けたら拒絶しただろう。いや、今でも言われ方、タイミング次第では拒絶したかもしれない。
「客観視してもらえるだけでもありがたいし……あんたは賢いからなんか思いついてくれるかも」
「お姉ちゃん、私お姉ちゃんが思ってるより賢くないよ」
この日私は、ヤマサトという敵を倒すために妹と共闘することを受け入れた。
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