カクヨムに殺される「ニ」

 どうやら私は知らない間に、だいぶ小説家らしくなったらしい――――と言いたいけれど、これはただ精神が壊れていただけだ。鬱というやつなのか、なんなのか。


 私は通院の回数と、薬の種類と量と、嫌な症状が増えた。(症状は今まで自覚していなかっただけかもしれないけれど。)


 特に耐え難いのは、扉の向こうで母と妹の声が聞こえること。私の悪口を言っている、正確には私のこの異常を憂いている声が聞こえる。


 でも、これはただの症状。現実には存在しない声だ。

 私は何度も確かめた。母と妹に怒鳴って問いただしたり、泣きながら問い詰めたり、こっそり扉を開けて様子を見てみたり。

 その全てから推測するにこれは、幻聴の類。何かの物音を私の脳が話し声だと勘違いしてしまうのだろう。


「はぁ」


 医者は私に病名を言わなかった。だから私はこれらの症状を『強い被害妄想(或いは自意識過剰)によるもの』と定義した。


 でも、これはなんだ。

 ただの被害妄想なら、これはなんだ。


 何故私はまた、白と濃いめの水色カクヨム色の空間に一人で立っている?


「先生、少しは元気になったのかよ」

「ソネミ」

 

 その空間に入ってきた(突然現れた)のは、ソネミだ。


「うん、なんか私壊れちゃったみたい」

「先生は壊れてなんかねぇよ」


 何故か私は泣いていた。ボロボロボロボロと涙を流しながら。


「ねぇソネミ、あなたは私の幻覚なの?」

「いや、違う」


 それからソネミは少し黙った。


「先生、驚かないで聞いてほしい」


 そこからソネミが語った話は、今更ながら本当によくわからない話だった。

 私をこの世界に呼び込んだのは、間違いなくカクヨム。そして呼んだ理由は、小説世界を守るため。守るためには小説に対する強い思いが必要らしい。でもその強い思いで小説を、何から守るかも、守る方法も不明。


「先生、俺に初めて会った日に一体何を願ったんだ?」


 カクヨムに小説の世界へ初めて連れてこられた日、私はソネミに出会った。今日と同じような、白と濃いめの水色カクヨム色の空間で。


「えっと私は……」


 今はっきり思い出した。私が嘆いた、そして願ったこと。小説家になりたい、小説家になって、生かすことが出来なかったキャラクターたちを……生かしたい!

 カクヨムからプロになれば、カクヨムからデビューすれば、その勢いで私の作品を全部公開してしまえば、全部注目させることができるはずだ!

 何か一つでも書籍化すれば、その他の作品にも目を通してくれる人がたくさんいる。私の書いたキャラクターたちに生まれてきた意味を与えられる!


「私は、あなたたちに、ソネミたちに生きていてほしい」

「そっか」


ソネミは優しく笑う。


「なぁ先生、フィクションって言葉知ってるか?」

「……うん」


 ソネミは少し寂しそうな顔をした。


 

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