カクヨムに殺される「三」

「俺達はフィクションだからさ、先生がいないとどうにもならないんだよ。えっとなんだっけな、ニジソウサクとかいうのをされれば先生じゃなくても生きる時もあるってマオが言っていたけど」

「マオ……」


 私は思い出す、マオが私にぶつけた言葉を。


「ああ、気にすんなよ。マオたちも別に先生のこときらいじゃないからな。特にマオは……性格歪んでるからなぁあいつ」


 ソネミは私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「まぁとにかく先生、当分小説には触れるな。俺たちは先生が完全に消しちまうまで残ってるし変わらねぇ。だから問題ねぇよ」

「え……」


 そのあまりにも真剣な顔に、私はソネミから目をそらせなくなってしまった。


「先生はちょっと今、俺のいる世界みたいに限界が近い。でも先生は知ってるだろ? そんな世界でも生きられる俺達を」

「うん……」

「だからカクヨムには当分近づくな。今のままだと先生はカクヨムに――――」


 そこでソネミは消えた。代わりに現れたのは、いつもの生きているカクヨムのロゴだ。


「ネコ、オマエは小説を書きたいですか?」

「書きたい」


 私は即答した。


「そんな状態になっても書きたいですか?」

「書きたい」


 即答、即答だ。


「オマエでは勝てないかもしれないですよ?」

「うん、それでもいい。私は確かに小説で勝ちたい。何が勝ちかはわからないけど。でも、勝てなくても私は続ける。そうしなきゃ絶対に勝てないから」


 即答だ! どうだカクヨム、これが私だ!


「そうですか。ならもっとオマエは小説と深まればいい。カクヨムは小説投稿サイト、だからオマエが小説を書くのを止めない」

「ねぇカクヨム、あなたは本当のカクヨムなの? それとも私が勝手に思い描いたカクヨムの姿なの?」


 答えを聞いたって、それが真実かなんてわからない。でも私は、カクヨムに対し受け身でいてはいけない気がしたんだ。


「ネコ、カクヨムは小説投稿サイトですよ。それを勝手に思い描いたなんて言われたら寂しいです」


 カクヨムが何をいいたいか私にはわからなかった。


「ねぇ、カクヨム。少し話をしない?」

「いいですよ、ネコ。カクヨムは公的なサイトなので、個人に関する情報は答えられませんです。いいですか?」


 業務的なその言葉は、照れ隠しかもしれない。私はなぜか、そう思った。


 その後、私とカクヨムは少しだけ会話をした。残念なことに私はそれをぼんやりとしか覚えていない。

 でも一つだけはっきり覚えていることがある。


「ネコ、小説家は狂っている人もいるけれど、狂っていない人もいるです。小説家になるために狂おうとするのは正しいことなのです?」


 そう問われた時、私は思ったんだ。このカクヨムが、本当のカクヨムなのか、私の脳が生み出した幻想なのかなんて、どうでもいいことだと。

 そして、小説を書いた結果狂おうが、狂った結果小説を書こうがどちらでもいい。とにかく、私は書く。私が私であるために。




 だから、狂えよ私――――

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