マオ・シャガットガートに殺される「三」
「ネコロネコ、私は貴女よりカクヨムと深く関わっています。貴女は外、私は中」
マオ・シャガットガートは言った。そしてその言葉は私とマオの周囲の世界を変える。
「ここは……」
長く白い廊下に私達はいた。
「HAPPY・HARDCORE・HEAVENという巨大航空機の中です。貴女がカクヨムに来る以前に書いた、とある賞の落選作品」
マオの言うとおりだ。この廊下は確かに私の書いた『HAPPY・HARDCORE・HEAVEN』という名の短編SF小説の舞台になった、タイトルと同じ名を持つ巨大航空機の中だ。
「この小説は貴女が、これは自分の考えたものだと最も主張したいアイディアを軸に書いた作品ですね」
「……よく知ってるんだねマオ」
「ええ、貴女がこの小説のタイトルを私の登場する小説の第一章の名前に使用したせいでよく知っていますよ」
私はこの『HAPPY・HARDCORE・HEAVEN』という小説を本当に気に入っていた。アイディアだけでなくこのタイトルも。だからこそ私はこのタイトルを、万が一他人が思いついてしまう前に自分のものとしたかった。
だから、マオの登場する小説の『章』にその名前を使った。
「この航空機で開発されているのは、無限増殖する少女でしたっけ」
「うん、細胞が身体から離れるとそこから自分をまた複製して、どんどん増え続ける。それはある科学者が、海底に沈めて水圧で潰し続け、増やし続けいずれ石油として使用するために開発したもので――」
そこまで言って私は、マオの目が私を蔑んでいるような光を湛えていることに気がついた。つい、熱く語りすぎてしまった……私はこのアイディアを本当に、本当に気に入っているから。
「無限増殖、本当にありふれた設定ですね。それが石油になったという案を思いついただけでそこまで盛り上がれるなんて。ネコロネコ、貴女の頭は稚拙すぎますよ」
「なっ……え?」
それだけ言うとマオは、スッとその姿を消した。私は白い廊下にただ一人残される。
直後、爆発音がした。ああそうだ、この航空機は爆破されるんだ。
海に向かって落下していくのは恐ろしかった。途中で私の意識が途切れたのは、他の落下物にぶつかったせいか何かだろう。
「おかえりネコ」
「うん、ただいまカクヨム」
きっと私は死んで、また小説世界と現実世界の間にあるこのよくわからない空間に戻ってきたのだろう。(つまり航空機を爆破した人に殺されたということ。)空中にはいつものように、喋るカクヨムロゴが浮かんでいる。私は真っ白な空間で仰向けになりながら、一緒に海へと落ちていった無数の同じ顔をした少女たちを思い出していた。
「ねぇカクヨム、私はマオに恨まれているのかな」
「オマエは自分の生まれを嘆いたことはないのか?」
私が聞くと、カクヨムは少し威圧的にそう言った。
「妹のように優れた頭脳もなく、街中で騒ぐ不良たちのような思い切りもない。キリシマ・サトカやヤマサトのような人に読まれる小説も書けていない。そんなオマエの生まれを嘆いたことはないのか?」
「私はお母さんを恨んだことなんて!」
思わず強く言い返してしまった。まさかカクヨムが妹のことや、私が家に引きこもる前に学校の帰り道で見てムカつきつつも憧れた自由そうな不良達のことまで言うと思わなかったから。
「誰も母を恨んでいるなんて言っていない、もしかしてオマエは自分の母親にこんな風に生みやがってとでも思っているですか?」
カクヨムの問いかけになんて答えようかと悩んだ瞬間、私の視界は真っ黒になった。
その後私が見たものは、自分のパソコンのモニター。
「あれ?」
自分の部屋に戻ってきたことは間違いないけれど、やけに暗い。
「……」
窓の外は夕方の曇り空。それからしばらくしてからようやく、ブレーカーが落ちていることに気がついた。
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