あれから二ヶ月「一」
あれから二ヶ月後、私は相変わらず小説を書こうとしていた。ある程度書けたらとりあえず妹に見せて感想と意見をもらう。その繰り返し。私が素直に妹のアドバイスを聞けるのは、ヤマサトと合作をできなかったという心残りかもしれないが、今はそのことについては考えないようにしたい。
「うう……ううっ」
ひどい寝汗と、ひどい夢。私があれからずっと、ヤマサトを殺してしまったという概念にとらわれて抜け出せないでいた。夢の中とはいえ、ヤマサトの小説『砂塵は笑う』の主人公ガシューナッツを殺したのは私だ。(そして私の夢は普通の夢じゃなくて特別な夢のはずだ。)
「ねぇカクヨム」
「なんですかネコ」
久しぶりに来た、白と
「ヤマサトを殺したのってさ……」
「ネコじゃないです。『砂塵は笑う』は終わりかけていたです。小説をテクニックだけで書き続けるのはプロでも難しい」
「そっか」
その言葉に私は救われた。救われた気がしたのではなく、救われたのだ。
「ネコは小説を書いて死ぬですか?」
「え?」
カクヨムの声はいつになく寂しそうだった。
「私は死ねないと思うな」
「死ねないと言うことは、本当は死ねるようになりたいですか?」
「……違うと思う。私は生きて書きたい。書き続けたいよ」
「そうですか、ネコ、小説を書くなら言葉使いには気をつけてください」
「うん、ごめんね」
傍点が見えた気がした。それからしばらくカクヨムは黙ったままで、私も黙ったままだった。
「ネコ、新しい小説を書くです。カクヨムはネコの小説を応援してるです」
「カクヨムがそんなこと言っていいの?」
「カクヨムは小説投稿サイト、小説を楽しむ人を応援してるです」
「綺麗事だけど、それ本当に綺麗でいい言葉だね」
きっと私が話しているこのカクヨムは、私だけの幻想のようなものなのだろう。だってカクヨムは、ただのサービス。角川が提供する小説投稿サイトだ。
きっとこのサイトには、今のカクヨムが語ったような情熱、いやそれ以上の情熱が注ぎ込まれている気はする。そしてきっと商売的な事情も。でもそんなことは私にはわからない。そして大して気にもならない。
私にとってカクヨムとは、小説を投稿して未来を掴むための場所。
「ねぇカクヨム、いなくならないでね」
「いなくならないです」
だからずっとそばに居てほしい。私がプロの作家になるまで。公式連載でも、書籍化でもどっちでもいい。とにかく私は評価、いや許可がほしい。世間が、出版社が、カクヨムが「あなたは小説を書き続けるべきだ」という許可が。
「私はヤマサトみたいに純粋に小説を書けていないのかもしれないね」
「それはわからないです。カクヨムは小説投稿サイト、投稿されている以外の話は推測しかできないです」
その推測がどこにあるのかわからない。ただ今の私はカクヨムに「こいつは価値のある小説を書く」と推測されたい気持ちでいっぱいだ。
どうすればそんな風に思ってもらえる小説が書けるかどうかわからないけれど。
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