マオ・シャガットガートに殺される「ニ」
今日のマオは今まで以上に感情的だった。マオは私が作者だとわかってからずっと、いろいろな感情をぶつけてきてはいたが今日は特に、強い。
「貴女は何故私をこんな不完全な性格にしたのですか? 思いも、強さも、愛情もどれも中途半端、きっと私はダリルダリル達にも、外から見ている読者たちからもそんなに愛されませんよね?」
マオの言うことは、多分正解だ。私自身、マオをそういうキャラクターになるようにしたという自覚があるし、それをある程度は形にできたとも思っている。
「しかも貴女は私の物語の続きを放棄しましたよね。私が微妙なまま時間を止めたんです」
何も言い返せない。
追い詰めるように言うマオの口調は淡々としていて、抑揚がない。でも私はここに、表に出せない激情が込められていることをよくわかっている。
「私に後で付け加えたダジャレ好きという設定が使いこなせなくて第二部をお蔵入りにしたこと、私は知っているんですよ? 第二部はシリアスな話ですからダジャレを入れる隙間が少なかったんですよね?」
「違うよ、第一部にダジャレを取り入れたりして、色々修せ……改善していったら良いものになったから……第二部も力を入れていかないとと思って公開を諦めたんだよ」
なんだか嘘くさい返事をしてしまった私の逸らした瞳を、マオは冷たい瞳で見ている。
「力を入れて? 今違う小説を書いているのにですか?」
「それは、間をあけたほうが……粗を見つけやすいから」
「アラアラそうですか」
「うあっ」
マオが私の髪を強く掴む。
「そう言えば私こうやってアンネに髪を掴まれていましたね。お蔵入りになった第二部で」
「い……痛いよマオ」
「私も痛かったですよ、髪も何本もブチブチと抜けてしまって」
髪がちぎれる音はこんなにもうるさいものなのか。
「ほら、私またこんな読者に嫌われそうなことしてしまいましたよ? それもこれも貴女が決めた設定のせいですよネコロネコ」
「ううっ、ごめんなさい」
マオの握力は人間を超えたもの。身体をいじっているから。それもこれも私の作った設定……。
「貴女、小説好き好きと言いつつ自分の妄想をただ書きたいだけじゃないですか? 今までどのくらい本を読みました? ●●●●は? ●●は? ●●●●は?」
マオは私が読まずに避けてきた、有名作家の名前を出す。全て現役の超一流、しかも個性的な作品を作ることで知られている作家たち。これもカクヨムに教わったのか、それともマオの時代にまで名を残すまでにその作家たちが有名なのか。
「ネコロネコ、貴女は自分より優れたものから学ぶことから逃げているくせに、劣等感をごまかして生きる自分自身を私に押し付けましたね?」
その静かな威圧に、私の呼吸は苦しくなり始めていた。
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