デビュー話に殺される「ニ」
それからヤマサトは淡々と、そして冷静にサトカの新作の欠点を述べた。私は正直、ヤマサトを尊敬した。こんなにも小説を冷静に見つめることができる人間がいるだなんて。
「ありがとうございます」
涙を拭いたサトカがヤマサトにお礼を言ったけれど、ヤマサトは何も言わなかった。
「ああ、あとついでに言うけどネコロネコの新作小説あれつまらなかったよ。ソネミといっぱいのロリだっけ? あれはホントダメ。なんでつまらないのか聞きたいなら話すけど、いる?」
「うん、お願いできるかな」
ネコロネコとわざわざペンネームで呼んだこと。ソネミと私の思いの詰まった作品をけなされたこと。苛立ちと悔しさが入り交じった感情を私は押し込める。デビュー話が来ている作家、ヤマサトの意見が聞きたいから。
「二人は小説に何を込めて書いてるの?」
そんな私の心意気を無視し、ヤマサトはそう私とサトカに問いかけた。
「私は……希望だよ。何にとらわれているかもわからない、自分が特別でありたいと思いながら、特別でないこともよくわかってる。でも、それでも生きていきたい。ただ生きるんじゃなくて……そんな救いを私はキャラクターたちと求めてるんだ」
サトカは黙ったままだったけれど、私はなぜか言い切ってしまった。自分が小説に何を込めているかもわからないくせに。
「言うじゃん。なかなかいいと思う。ネコロネコのほうがサトカよりよっぽど見込みあるよ」
デビュー話が来ている作家に褒められて嬉しい、サトカより上に見られて嬉しい――とは思えなかった。耐えきれず顔を抑えてしまったサトカの姿を見たせいなのか、私はヤマサトと、ヤマサトに媚びようとした自分に心底腹が立っていた。
「お、ムカついてる? いいじゃんそういう感じ、小説に書きたくなる顔してるよ今」
私の表情を見て、ヤマサトは嬉しそうに言った。
「勝つ、必ず超えてやる」
私の目にも何故か涙が浮かぶ。
「何を基準にそれを計るつもり? PV数? ★の数? それともレビューの質? いいよ私はなんでも」
「それでいい、いつかカクヨムであんたの評価を超えてやる」
いつかと言ったのは、私の弱さのせいかも知れない。でも私は思う、いくらデビュー話が来ているからと、その態度はないだろうと。
「じゃあ勝負しようかネコロネコ。私が負けたら私の負け、ネコロネコが勝ったらネコロネコの勝ち。いいんじゃない? まぁ、有意義な作家同士のディスカッションを投げ捨てて友情ごっとこしているネコロネコが私に勝てるわけ無いだろうけど。ねぇ、ネコロネコ」
私が涙を拭かなかったのは、ヤマサトから目をそらさないため。自信があるんだろう? 私を何度もペンネームで呼んで煽って、馬鹿にしているんだろう? いいさ、そうしていればいい。私はカクヨムと話せるんだ。いつか、いつかあんたなんて絶対に超えてやる。
どうせ私には小説家になるしか道はない。いつまでだってあんたを超えようとしてやるよ。
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