アニメ化に殺される「ニ」
私は一人、真っ暗な空間にいた。私のお腹に刺されたナイフから真っ黒な霧のようなものが吹き出して一瞬で全てをかき消してしまったんだ。
「痛い、痛い……」
お腹を触るとナイフがなくなっていた。
「ひぐっ」
ゴボゴボと恐ろしい音と、腹部の異常な感覚。傷口から何かが溢れ出している。
「それはオマエの中の小説です」
「か……カクヨム、助けて」
聴こえたのはカクヨムの声。でも暗すぎて、あの水色のロゴがどこにあるかは見えない。
「オマエは小説を失うんです。もう書けなくなる、書きたくなくなる。オマエのあの時の願いが叶うんです」
「ちがう……私は……」
身体がどんどんしぼんでいくようだ。もうどこが痛いのかすらわからない。
「何が違うですか キャラクターを生み出し、そのキャラクターを生かせず殺し続け、そしてその罪悪感で書けない姿をキャラクターに見せ続ける。そんなこと何が楽しいですか?」
「私は……」
確かにカクヨムの言うとおりだ。私は小説を書くことが苦――――。
「おい! 先生!」
――…………。――――。
「おい! おい! 先生大丈夫か!」
――誰? 誰? 私もあなたも誰?
「手を伸ばせ先生!」
――手はないよ、さっきなくなっちゃった。
「先生! 先生は俺たちのことが本当に嫌いなのかよ!」
きらいじゃないよすきだよ。だいすきだよ。だってわたしがしょうせつをあきらめられないのは――――。
「なぁ! なんとか言えよ先生! 俺も先生からキリシマ・サトカのものになっちゃうのかよ!」
――――。
バカバカしい話だけれど、夢でした。お腹の痛みは、一言で言うなら下痢です。
急いでトイレに駆け込んだ私は、悪い夢を忘れるために今日何をするかを考える。そうだ、小説に関係ないことをしよう。妹でも誘ってなにか食べに行こうか。近所の人は私と妹が一緒に歩いているのを見るのはいつぶりなんだろう。
「お姉ちゃん!」
まって、私まだトイレだから。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
そんなに私とご飯を食べに行きたいの?
「お姉ちゃん! 大丈夫? あけて! あけてくれないと無理やりあけるよ?」
何を言ってるの? ねぇ……トイレだからここ。
「お姉ちゃん!」
「うるさいよ! トイレくらい静かにさせて!」
それからしばらくして、外から小さな声で「良かった」と聴こえた。そして私はようやく、自分がトイレの中で倒れていたことに気がついたんだ。
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