メールに殺される「一」
ヤマサトと私の決着は、あっけなくついた。いや厳密にはついていないのだけれど、勝負自体がうやむやになってしまった。
昨日、私はヤマサトと会ってきた。急に呼び出されたからだ。正直会いたくなかったけれど、行かないと負けた気がする。そんな気持ちで私は家を出て――――。
「呼び出してごめん」
会って早々、ヤマサトが私に謝ったのをよく覚えている。ヤマサトが会う場所として指定してきたのは、公園。何故か私はその時点でヤマサトが周りに聞かれたくない話をすることが予測できた。
「ねぇ、ヤマサトもしかしてさデビューの話なんて来てないんじゃない?」
今思い出しても、私が何故そんな事を言ったのかはわからない。ただ唐突に、私はそう思ったのだ。確信に近い形で。
「うん、クラスのやつの悪戯だったみたい。よく考えたらさカクヨムからのデビューの話なのにフリーメールのアドレスなんかで送ってこないよね」
用意されていた答えは私の想像を上回った。
「なんでそんな話してくれたの」
「いや、ほら私さ、二人に調子こいていろいろ言ったでしょ。だから謝りたくって」
私はその時点で気がつく。サトカがヤマサトと会うことを拒んだこと。
「サトカには私から話しておくよ」
「よろしく」
ヤマサトが受けたのは悪質ないじめ。ヤマサトが見せてくれたメールは、異様なほど悪意に満ち溢れていた。
『オマエみたいなキモいやつがデビューなんてできるわけないだろ。もう学校で小説書くなよ。』
送られてきたデビュー話のメールにヤマサトは返信した。丁寧に、一生懸命に、感謝と、夢と、憧れと、希望を込めて。そしてそこに返ってきたのがこのメール。
「悔しいなぁ」
「うん、悔しいね」
私はヤマサトに同意した。同情ではなく、同意だ。私もヤマサトも、クラスでは目立たないポジション。そういう人間がなにかで輝くことが許せない奴らはいる。
「ヤマサト、学校行くの?」
「うん、私はさ大学行きたいから。あんたみたいに小説一本にする度胸はないんだ」
ヤマサトのこういうストレートな発言を気に食わないとする奴は多いだろう。かつての私もそうだった。でも今は――――。
「そういえばさ、ヤマサト。ヤマサトも人のこと、あんたって呼ぶよね」
私はヤマサトのように真っ直ぐには生きられない。彼女ほど強くない。わざわざ名前を二度呼び、今までの話の流れに全く関係ない話題を出してしまうくらい、私は弱い。
「うん、なんかちゃんと話したいやつにはあんたって言っちゃう時あるな。熱くなりすぎちゃうんだよ私」
「そっか。ヤマサト、あんたかっこいいよ」
想像できなかった、ヤマサトが泣くだなんて。サトカとはまるで違う、不細工な泣き顔。でもその涙は、なんだかとても美しかった。
私達は、感情表現に関しては不器用だ。
だから、つい、人より器用に書けてしまう文章に全て押し込んでしまうのかもしれない。
ついこの前も似たようなことを思った気がする。
でも、その時よりも強く私は確信している。私達にとって小説とは、生きることなのだと。
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