同級生に殺される「一」
『 小説書きに安息などないはずよ。だってあなたは小説書きだから、安息を書かなければならないでしょう?』
私はふと思いついた言葉を、スマホにメモする。周りの目を気にしながら。ここは私の通う学校。だから、小説に関する作業はこっそりやらねばならない。
「え、サトカ小説書いたの?」
「すごい、見たい!」
突然、そんな言葉が教室で飛び交った。
キリシマ・サトカ。どうやらクラスで良いポジションにいる彼女が、小説を書いたらしい。一瞬気になってしまったけれど、所謂リア充だの言われる類の女であるサトカのことだ。ブログかSNSにでも、小説風のポエム崩れのようなものを書いただけだろう。
そんな風に思ってしまう自分を少しだけ酷いと思ったけれど、小説を書いている人なら誰だってそう思うはず。
「うん、自信ないから悩んだんだけど見てもらいたくて話しちゃった。読みにくいかもしれないから無理して最後まで見なくていいから、ちょっと見てくれる?」
この人当たりの良さが、キリシマ・サトカの特徴だ。だからちょっと学生にしては派手な見た目をしていても嫌われない。実際私も彼女は嫌いではない。
ここでもっとスムーズな言い回しで謙遜混じりに言われたら「この計算女、小説を甘く見るな!」とでも言ってやりたくもなる。
でもあんな短い会話の中で「見てもらいたくて」「見なくていいから」「ちょっと見てくれる?」と繰り返す、文章の下手さが滲み出る言い回しをされたら微笑ましく感じてしまう。
「自信ないって言えるのがすごいよー、私なんて小説書くことすらできないし」
「うん、サトカが書いたなら絶対面白いよ。どこで見れるの?」
むしろ私が嫌いなのは、サトカの周りの奴らだ。天然とも言える愛されキャラのサトカと絡むことで、自分の評価を上げたがる奴ら。
サトカも不幸だ。もし、サトカの小説を私のような小説と本気で向かい合っている人間が見るのであれば、きっと良い経験になっただろう。でも、あんなサトカというだけで評価するような奴らでは――――――。
「うん、カクヨムってサイトなんだけど見てくれるかな。検索したら出てくるんだけど……あ、うん、それそれ。私の小説のタイトルをそこで検索してくれたら。あ、えっとタイトルはね……」
サトカの周りの、小説に絶対に興味なんかない奴らがスマホを触る。そして、その中の一人が言った。
「これ、登録しなくても読めるの?」
「うん、読むだけなら」
私はこのあと、登録しないと評価はできないという話になることが容易に想像できた。そして奴らは登録して、小説の質などお構いなしに最高の評価をつけるだろう。
仕方ない、カクヨムはオープンなサイト。こういう友情票を獲得する書き手がいるのも、仕方ない。
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