ここで死んだら私は死ぬ件「一」

 家族は心配しないだろうか。そもそも家の私は、この世界にいる時どういう状態になっているのだろうか。そしてこの世界で過ごしている時間は、私の元いた世界の時間と同じ流れなのだろうか?


 いろいろ考えることはある。でも私が今やるべきことはなんだ――――。


「この世界……」


 私の中で異世界転生ものと言えば、一人称視点の地の文がよく似合うジャンルだ。そう、それなりに過ごしやすく、それなりに楽しく、チートという言葉の似合うエンターテイメント小説。ラノベ、ラノベだ。

 でもこの世界は違う。異世界転生の中では異質になる、ハードな世界観。まるでライトノベルを中心にブームとなった異世界転生ものへのアンチテーゼのような……。


『砂塵は笑う』


 間違いない、視覚的にははじめて見るけれど、これはあのヤマサトがカクヨムに連載しているハードボイルド小説の世界の中だ。人がよく死ぬ、脇役だろうが、背景の一部のような人たちだろうが、わりと主要な人物だろうが。とにかくあっけなく死ぬ、なかなか致死率の高い物語。昨日アップされた最新話でも、容赦なく、の顔を当然のことのように焼けただれさせた、そんな悪魔じみた展開をする作品だ。


「はぁ……」 


 ため息しか出ない。確かにここは私の大好きな作品の中だ。ポストアポカリプス的世界観、暴力性の高いストーリー展開と言った「自分がよく小説として書く系統の話」なのにも関わらず、嫉妬やなどどうでも良くなってしまうくらい面白い小説。それが『砂塵は笑う』だ。


 でも今はそんな事はどうでも――よくない。自分でも同じようなジャンルの小説を書いたことだけあって、私はこの手の作品を書く作者の容赦なさは理解している。

 つまり、要するに私はこの世界であっけなく、なんでもない死を迎える可能性が高い。

 それにこれはどういうことだ。カクヨムが他人の小説の世界に私を送り込むだなんて。この小説は、過去にカクヨム自身が「そんな事できるわけ無いです。カクヨムは公的なサイト、個人の情報を勝手に見せたら信頼を失うです」と私に体験させることを拒否した作品じゃないか。


「あ……あれ?」


 ぐるぐるぐるぐると答えの出ない思考にとらわれていた私の視界が突然変わる。今見えているのは、見慣れた私の部屋の天井。つまり、わかりやすく言うと、私は起きたらしい。(つまり寝ていたらしい。)


「ど、どういうこと?」


 間違いない。ここは私の部屋だ。


「夢?」

「夢じゃないです。そういうルールです」


 パソコンの中からカクヨムが私に答え、私はビクッとする。本当にビクッと。


「ど……どういうこと?」

「オマエの寝ている時間を全て小説にしたです。オマエが望んだことです」


 ああ、そういえば……つい最近、夢の中でも小説について考えることができたら、すごいんじゃないかなぁ……なんてぼんやりと思っていた記憶がある。


「えっと……どういうこと?」

「夢の中で死んだら死ぬです。それだけです」

「ちょっと……」


 私とカクヨムの会話はそれ以上続かなかった。突然パソコンの電源が切れてしまったからだ。

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