キリシマ・サトカに殺される「ニ」

 学校に通っていた頃の私は、サトカのことをいろいろと誤解していたのだろう。彼女が私にとってとても素敵な友達になってくれる存在だったことに、今の今まで気がつかなかったのだから。


 店内で盛り上がっていると、サトカの親が出てきてせっかくだから二人で遊んでおいでと、サトカと店番を交代してくれた。私はできたばかりの友達の、アイスクリームを買おうという提案を笑顔で受け入れる。

 歩く途中も、私達は語り合う。


「私ね、本当は小説を書いていること誰にも知られたくなかったんだ。なんか恥ずかしくって。でも、そんな自分じゃいけないかなって思って学校で話したの」

「それすごいと思うよ。私はできなかったし」


 サトカの勇気を私は純粋に称賛した。


「でもやっぱりやめとけばよかったかな」

「え?」


 暗い顔。きっと何か学校であったのだろう。


「私で良ければ聞くよ、もう学校行ってないし」


 私はサトカを気遣って、冗談っぽくそう言ったつもりだったのだけれどサトカは笑わなかった。


 サトカの話を聞けば、あのカクヨムブームとも言える空気は数日で収まったのだという。やはり小説は読むのに手間もかかるし、読める人も限られている。だからクラスの奴らはカクヨムを話題にし続けることはできなかったのだろう。


「実はさ、ヤマサトさんと小説のことで喧嘩しちゃって」

「そうなんだ」


 サトカはそれ以上語らなかったし、私もそれ以上は聞かなかった。


「私カクヨムのアカウント消したんだ。だから✕✕✕✕さんの小説読んだのに評価できなくてごめんね」

「うん、気にしないで。あ、あとさん付けじゃなくていいから」


 私がそう言ったのは、ヤマサトやクラスの同級生と差をつけたかったからかも知れない。サトカはほとんどの人をさん付けで呼んでいた気がするから。


「うん、✕✕✕✕。話を聞いてくれてありがとう」


 ちゃん付けではなく、呼び捨てなのには少し驚いたけれど、悪い気はしない。


「じゃあ私もサトカって呼ぶね。あ、連絡先交換しても良い?」


 同じ教室にいたのに一度も知りたいと思わなかったサトカの連絡先を、今は知りたいと思う。


「うん! 私小説書いてる友達できたの初めてだよ。昔からずっと一人で書いてたんだ」

「そっか。私もだよサトカ」


 今名前を呼んだのは、ちょっと強引だったかな。嬉しくて、ついサトカの名前を呼びたい気持ちが前に出すぎてしまったのかも。


「よろしくね、✕✕✕✕」


 そんな私の名前を呼び返してくれるサトカのおかげで、今日外に出てきてよかったと、私は心底思ったのだ。

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