第81話調子のいいときは書かない

 今日はめちゃ聞いて。調子悪い。気分よくない。昼間からお風呂に入ったし、髪も洗ったし、なのになんでスッキリしないの!? なんでプロット進まないの――?

 …

 こういうことは調子よく書いているときには書かないし、思わない。調子よくいかないのでぶつくさ言って『創作についてのエトセトラ』を書いてしまう。ようするに、女神の加護が欲しいのではない。文句を一番に聞いてほしい。不満を片付けてしまいたい。それだけである。

 …

 いろいろ仕組みを考えているとき、煮詰まるか煮詰まらないかがわからないとき、うんと苦しいのですよ。

 :いいなあ、おまえって。

 はい? どうしてです?

 :やすっぽい考え持たないから。

 やすっぽいって、たとえばどんな考えですか?

 :暇だからとかさ。

 そんなんだったら、今頃文句もいわず書いてます。書けないからこうして…

 :あー、同じおなじ。

 なにとおなじ?

 :前と同じ。

 同じ努力をして、違う結果を望むのはおかしいとだれか言ってました。

 :なんでおまえのこと拒否しないと思う?

 わかりません。

 :お金持ちだからよ。

 お金、もち……? もってませんよ、お金なんて!

 :そうかな。

 :なにやってんの?

 お悩み相談室。女神様助けて!

 :はいはい。ヤな感じの気配がすごくする。

 危険が?

 :ハイ。

 父ですか?

 :はい。

 彼に取りこまれないようにしないと。

 :そっち。

 父が来てからというもの、書けなくなったんですよね。

 :そっちだ。危険、きけん。

 ドアに張り紙してるんですけど『男子禁制』って。

 :同じおなじ。

 父、わたくしのおやつまで欲しがるんですよ?

 :同じ同じ。

 何が同じなの?

 :愛されてるフリ。

 だれが?

 :君のお父様。

 ああ、あの人愛されてないのか。

 :そうです。

 危険というのは?

 :危険です。危険人物。コンプレックス持ってるから。

 ああ……そういう人って、女性を傷つけるんですよね。

 :おそらく、勘違いじゃありません。作家になったら、まず初めに父親に縁切りを。そうしないとボロボロだったあの頃のことを言い始めます。

 わたくしがボロボロだったのは、くたくたになって英国から帰郷したのに、雑言ぶつけられたからじゃないの? 父親じゃないよ、あんなの。

 :あんたの父親は鬼です。

 惨たらしく死になさい、って感じですかー?

 :今に見ておれ……よくもわたしを困らせて、教養がないからっていじめやがって、と。おまえのお父さんは恨みに思ってます。

 教養がないなんて言ってないでしょう? なにを勝手なことをいっているのか。

 :そうです。勘違いではないのです。おまえがいじめたはずはない。周りが冷たいので甘ったれるなって……、

 やはり、自分が言われたことをわたくしにぶつけているのですね。

 :うんうん。おまえが一番よく知ってる。おとうさん、おまえが最初に言ったことを……いつもあんなに怒られて、よくもよくもって思ってた。

 人間の狭い人だ。

 :裏目に出てるよ。おとうさん、しっかりもののおまえを認めようとしないのは、みじめに甘えて泣きそぼらないから。のろまな亀に何を言っても反発するだけ。

 最近はおばあちゃんもおかしなことになっている。

 :あの人は駄目よ。全員味方とは思いもしない。

 助けに来たのに、攻撃してくるんですよお。

 :確かに。

 いじわるばあさんだ。

 :いじが悪いんじゃない。性格がおまえとは合わないの。

 そうかー。

 :いじわるも愛情の内と思い始めるはずだから、きっぱり嫌といいなさい。親ではないんだから、破たんしても大丈夫だから、初めからきっぱりと。そうすれば、わかんないことを言わなくなります。

 はーい。ありがとうございます。っハブ酒

 :ぐほぁっ!

 え? なんか悪いことした?

 :ハブ酒だけは……キョーレツ。

 本醸造にしておきますか。

 :ありがとうございます。

 本当、大丈夫ですか? ほんとほんと。

 :ぬかづけは?

 あ、これ祖母が漬けたんですよー。漬けとくだけのぬか床で。どぞ。

 :ありがとうございます。

 どうしてしおれてるの?

 :おまえが心からくれたものを拒否するわけにいかないから。

 来年の一月は、おさい銭いくらがいいですか?

 :おまえが良いって思う額でいい。

 ダジャレでも?

 :二円がいい。

 にえん。煮えん。は! 富士だから?

 :ふつうはそんな感じです。

 うーん。普通ではいけないんだけど。

 :緊張する。

 お餅はやめとこう。

 :はい。決して我慢して受け取っているわけではありません。

 おさい銭でご挨拶。

 :もう止め!

 失礼いたしましたー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る