第82話私の道

 今日はブックオフに資料を買いに行った。未来のわたくしよ、苦しんだ時はこれを見てくれ。そして、自分の原点はここにあったと、改めて気づいてほしい。


 帰りの道のり、16号線を母の車の助手席で前方を見たら、遠く道行く先はまっすぐだった。こういうつまらない構図を写真に収めてしまう人というのは面白い文章を書く。そこに様々な想いを抱くことができる、想像力の持ち主なのだ。


 私の道。まっすぐに続く。だが向こうに信号が見える。そこを左に曲がるのだ。ゆるやかに、ゆっくりと。前方を行く車のテールランプがわたくしをにらんだ。目がくらんで瞬くわたくし。しかし強いて前をむけば、恐ろしいこともない。

 母が、北の空を見て、東の空は曇っているのに、むこうは青い空がのぞいている、と話しかけてくる。ああ本当だ。わたくしは路面しか見ていなかったので気づかなかったが、母は空の話をする。西日の照り返しが雲をうっすらと薔薇色に染めている。角を曲がったら、母が夕焼けが綺麗、というので西の空をふりかえって見た。母はバックミラーで知ったという。どこか、暗く、青ずんだ空に茜の雲がたなびいている。わたくしは姿勢を正した。この道を進むのに、背筋を伸ばさずにはいられない気がしたのだ。うねる道、二十年前は舗装もされていなかったのではないのか。土埃にまみれた路面を車で何度も行き来した。閑静な住宅街になった地区。まっすぐに、何の苦労もなく進む道。けれど、姿勢だけは正しておこうと思った。

 近所の公園には、植え込みのあじさいの木に、ひと房だけまだ白っぽい花が咲いていた。お隣さんの庭にはチロリアンランプの赤い花弁に黄色の雄しべが、小人のもつランプの灯のようにちらりほらりと咲いていた。

 今日は朝から冷え込んだけれど、わたくしには着る毛布があるのだ。エアコンを21度に設定して今日もころッと眠れるといいな。みなさん、おやすみなさい。

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