第60話こんばんにゃ!

 ぜんぜんことがうまく運ばない気がしてるんだよね。

 つ大吟醸

 :あ、ども。

 今日は寝倒しちゃってさ。朝ごはんも食べられないくらい。

 :あっちゃー。

 ヨーグルト食べたいのに、冷蔵庫からきれいに消えてるし。

 :だれか食べたんでしょーよ。

 そう思うけど、それが自分でなかったことが残念で。

 :ふーむ。

 高校講座NHKをPCで検索したら、オンラインでやってて。結構面白い。

 :なーんだ。

 なーんだって?

 :面白いことあったじゃん!

 そういう話じゃない。本筋は……また小説が書けなかったってこと。

 :そっち!?

 うん。欲しいものも、来月の予定も決まってるんだけれど、小説だけが予定通りに進まない。

 :やれやれ。

 どーして神様は人に欲望だけ与えて、才能はくれないの?

 :才能って……あんた、今に見てろって。

 なあに?

 :頑張れば頑張るほど、日記に書けるんだよ。

 小説は書けばかくほど、無口になるわたくし。

 :日記に書け!

 んんー。ここに書いていい?

 :いいよ!

 …

 一昨日は雨の中、銀色の国産車でT県に行ったの。父がすんでいるところ。七月には大きなお祭りがあったの。だけど本筋はそこでなくて。

 :本筋はどこなの?

 今年もお芋ほりに行ったんだよねー。ジャージを履いて、黒い長靴借りて。だけど、今年はあまりとれなかった。かわりにじゃがいもを袋に二つ分とお米をもらってきた。大変助かるので来月も行くことになりました。そのときだったらもっとサツマイモもとれるんじゃないかって。まあ、今年は紅ハルカの苗が手に入りづらかったらしいんだけど、母は紅ハルカのねっとり甘いのが子供と年寄りには良いってTVで観たので大はりきりでいたんだけど……掘ってもほっても痩せたのがひょっくり出てくるばかりで、袋の底に十個くらい? あまりにあまりだった。

 :ああ……。

 まあ、ダウンしなかっただけいいんだけれど。農家にとってなにがダメージかって、農作物がとれないことよね。

 :どちらかといえばね。

 今年は雨で柿も甘くならなかったっていうし。畑からはカエルやカメムシばっかり出てくるし。コオロギがピョンピョン逃げ回るから、てっきりGが出たのかと疑ったりして。

 :それは面白いね。

 :面白い表現。

 まあ、趣味は極めるところまで行くのが大変で。父は土木工事までやってて。今は土手を手入れしてるんだって。家は相変わらずで、部屋も埃っぽいから、母が昨日ずっと掃除してて。わたくしはNEWTON(科学雑誌)読んでいて手伝えなかったんだけど、父がそれを読みたいらしかったから、読了しなくちゃならなかった。行く途中のコンビニで手に入るものだったんだけどさ。

 :うん。ニュートン。

 人工光合成の可能性とか。おもしろいよ。なぜ西日本が大災害にあったのか、とか。オホーツクの高気圧と太平洋の高気圧が北と南に居座ったからなんだって。間に出現した前線がずっと動かなくって、積乱雲が生まれては風で移動し、うまれては移動し、ってやってたから、低気圧の上昇気流の影響もあって激しい雨が続いたらしい。

 光合成の仕組みについては、これも楽しかった。PS2っていうたんぱく質の結晶構造が植物の葉緑体にはあるんだけれど、その仕組み、主に水を分解するしくみについて研究者は知りたがっていた。PS2はそれまで存在していた、

 :寝よ。

 あれ? 聞いてくれるんじゃないの?

 :世話がかかるのう、おぬしは。

 光合成の話面白くない?

 :面白いけどPS2はわけわかんない。

 研究者はそこをおもろいと思ってるらしいよ。PS2で行われる光合成、SOからSO3までの過程を知りたくてたまらないらしい。

 :頭が高い。

 まあ、呑んでのんで。

 :うん。そして?

 葉緑体に光を当てると光合成が行われる、その結果はわかるけれども過程がつまびらかでない。そこを知りたい、という話だった。

 :うん。

 話を読む限りでは、もう到達したも同然みたいに思える。

 :自分だけが思ってるだけじゃないのかね。

 そうかな。そう思わせる書き方してるんじゃないのかな。

 :別に超能力とかじゃない、「むしろ」昔からある光合成を人口に膾炙する話。

 まあ、そうね。でも、そうだな。人工光合成で酸素やグルコース(ブドウ糖)以外の物質を生み出そうというのはとても意義のある研究だと思うよ。

 :そう言ってくれれば。

 :それを最初に。

 ああ、説明の仕方が悪かった。ザックリ言うとそういうことなんだよ。だから、研究の成果が上がってくると盛り上がっちゃって。

 :そうか。そういうことかね。

 ソーラーシステムで電気を産むとか。どういう構造かわかんないでしょ? 興味のない人には。でも光合成という単語を使えば見えてきやすいじゃない。

 :そう、か……。

 今温暖化でヒートアイランドになってきてるけれども、太陽の熱と光で物質うみだせるなら、ヒートアイランド防げるかもしれないよ?

 :うん。そうするとね、世界に広がるガスとか、どないするの?

 個人的見解だけれど、そういうガスを別のものに変化させる物質をうみだせばいいんじゃない? 

 :光合成で?

 光合成で。

 :うん、その後はどうするの? ヒートアイランドが防げたとして。つまり、形ばかりの対策はとれても、根本から覆す対策にはならない。

 うー、現在有害だといわれている化学物質を有効利用できれば、違った見方ができるんじゃないかと。

 :そうか。必ずしも同じことを繰り返さないように気を付ける、とかじゃないんだね。

 新しい手段が見つかれば、新しい結果が導き出されると思うよ。ただし、科学が産んだ奇跡を戦争に使われるなんてことにならないといいなあって思ってる。

 :ちびちびやる?

 あ、わたくし肝臓悪くなるから呑まないの。

 :そうかあ。しかしねえ。もっとも、光というありふれた景色がこれからは違って見えるんだなあ……。

 ふふ。科学者は詩を詠んだりはしないものだよ。そのときどきで、違う見解をもつものさ。ホーキング博士だって、考えを改めざるを得なかったときがあったんだから。ブラックホールの消滅に伴う情報の消去はあるかないか、とか。

 :うん。景色が違う。

 わたくしはホログラフィー原理がどうしてブラックホールの仕組みに応用されるのかの訳がわからないんだけれども。なんで二次元の仕組みを三次元にまで広げるのか。四次元は時間の観念を加えたものだっていうけれど、ブラックホールはむしろ四次元の問題なんじゃないの? 星が寿命を持つなら、ブラックホールにだってあるんじゃないの? 時間と共に衰弱するんじゃないの? つまり、四次元。

 :親の顔が見たくなった。

 なぜ?

 :とんま。

 :四次元てねえ、知ってる?

 ?

 :四次元てねえ、ポケットに入ってるんだよ。

 それは科学でなくて、詩だよね。ポエム。

 :頭くる。

 なんでー?

 :つまり、天才のいう詩人と、凡人の言う詩人と、どちらがいい?

 ?

 :つーまーりー、わたしたちと同じ目線で話さないで欲しいの。

 はい……。

 :つまり、神と同じ目線で、詩人を語らないでほしいの。

 神がかった詩人は科学者に勝るんですか?

 :そして、わたしたちはユニークな考えを天才に与える。凡人には与えないの。

 うーん。

 :かといって凡人をコケにするんじゃないわよ?

 :もっともらしくいえば、先人の知恵を無視するんじゃない。

 :はい、わかりました、といいなさい。

 はい、わかりました。

 …

 神ってつまらないなあ。わからないことがないって、つまらなくないですか?

 :なにー!?

 :神を侮辱するの!?

 そうでなく、退屈そうだなって。

 :そうか。エネルギーを注入するときがきたのね。

 ときめきがないのでは?

 :確かに。

 わたくし人間でよかった。ときめきがあってよかった。驚かされることがいっぱいあって、楽しくて。

 :あーあ。たった二年で育っちゃったよ。

 :巣立ちのときです。ちゃんちゃん。

 また来ます。

 :はいはい。

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