第20話えーと、脳内会議

 進まない。なにをやってもすすまない。どうなってるんだ、プロット通りに書けー。

 :ほほう、自分の体面のためなら「いいこ」だと思ってる人も犠牲にするやつが、俺たちに方策を論じろというのか。

 はいはい。リアルでのストレスはいいの。今、小説が思うように書けないのが問題。

 :はいはーい。ベッドで考えても頭が横になってて、ねむ

 :うるさい。

 :はーい……。

 今新キャラを出してきたところなんだけれども、このキャラ、作者の妄想爆発な容貌をしていて、けっこう遊べるキャラなのね。いろんなことさせて、主人公と絡ませたい。やらしい意味はイッコもなくて、おしゃべりさせたい、対立させたい、それをメインキャストに解説させたい。

 :もっともだ。

 だれ? こんなキャラ考えたの?

 :私わたし。サンバン。

 うまいよ! 超天才児じゃない?

 :セクハラもうまく取り入れてるし、被害者も黙ってないしね。いつもこういうの書けば、まっさらになってもやる気が起きるんだよ。

 やる気かあ。男性ホルモン的ななにかを放出するの?

 :だめだね。もっと大きくとらえて。

 男の夢かあ。

 :そうなんだよ!

 わたくし女だから、きっと限界があるな。まあ、想像力がいるんだろうけれども。なんにでも。

 :そうだそうだ。

 行き詰まったら、男の夢ってなんだろうって考える。

 :そりゃあいいな。

 しかし、夕べから読み返した新井素子さんの『おしまいの日』、最悪。人間関係のドロドロしたのが、垣間見えるのがすごくいや。個人的に作者の文体も作風も好きだけど、このテーマが、「幸せだけどちょっと鬱屈した主婦のとんでもない不幸」っていう感じ? 胸くそ悪くてオエッって思う。今ちょっと解説していい?

 :どうぞどうぞ。

 水清くして、なヒロイン像なんだよな。とにかく夫以外に目がいかない。高校時代の友人も、かわいがっていた野良猫も、結局どうでもいい人。サイコパスかよって。だけど周囲にいる友人っていうのが性質悪い。ヒロインを「絶対おかしい」「ノイローゼなんでは」と思ったら、まず心療内科へ行く気がないのか確かめて! お願いだから素人判断で「外へ出た方がいい」「仕事をして人間関係を作った方がいい」とか言って、変な上役に告げ口しないでほしかった。この上役っていう人も、相手は主婦だって知ってるんなら、「夫の夕飯をつくらないと」「スーパーに買い物へいかないと」っていう断り文句を聞いて「もっと言いようがあるでしょ。慇懃無礼が服着て歩いてるそこのあなた」っていうなら、しつこく何度も呑みに誘うなっての。仮にもヒロインが「ノイローゼの疑い」があるって話に聞いているなら、「あんたの暑苦しさに耐えられる夫がいるか。浮気してるよ、絶対。同じ男としてわかる」とか、口が裂けても出てこないはず。ようするに、幸せな主婦生活を見て嫉妬した友人の口からなにかねたみとかを耳にして、よくない印象を抱いていたんだろう、あらかじめ。いい年して友人ヅラする女も、上役も、悪意と憎悪と親切ごかしをマーブル状にしたキャラで、一見して悪役には見えないの。でもヒロインには悪影響を及ぼす。一言で言えば頭おかしい人種。一人で耐えてるヒロインを無理やり自分の生息地に引きずりこんで「おかしい」「絶対変」とか言っちゃう。ヒロインは距離とってるんだからさ、ああ、自分ってその程度に思われてるんだ。って悟りなよ。頭悪い。そこのところでヒロインが迷惑して腹を立てるのわかるし、追いつめられていくのがひどい。とにかく、ヒロインは負担を一身に抱えこみすぎだし、友人ヅラするおせっかいな女には「悪いけど近づかないで」って警告を発しておくべきだったと思う。十二年ぶりに偶然電車内で顔をあわせただけの友人Aも、その知り合いの上役Bもヒロインの病気を一回でも疑ったんなら自分の尺度で相手を悪者扱いすべきじゃない。ほんとどうかしてる。上役Bのひどさは、別に口が悪いという設定ではないことだ。素であれなんだよね。ヒロインの事「職場の全員に嫌われてる」「学校でいうならいじめられっ子」っていう無神経な言い方が、脳みそが足りてない証拠。うっとおしいわ。ああいう馬鹿な上司がいる職場だから、ヒロインが嫌悪するんだよ。ばーか。そんな職場を紹介してくれちゃう友人Aもおためごかしはよしなさい! って思う。自己満足したいなら子供を産みなさい。すきなだけ自分の遺伝子をかわいがりなさいって。同級生だったんでしょ? ヒロインとは。すると十中八九、同い年。それを「私がなんでも決めてあげなくちゃ」って出張るのは頭悪い。相手の人格を認めてないんだよね。家にまで偶然を装って尋ねて行っちゃう。ストーカーかよ! しかも夫同伴。ひとりじゃ噂話はできないもんね。自分を美化して正当化するのに、自分側の人間を引きずりこまないとやってられないもんね。キタナイ女。

 …

 という感想を、半分まで読んじゃってから抱きました。

 :自分に嘘がつけないヤツ……。

 ムカつくからラストまで読んでから、また感想します。

 :ラストまで読むんだなあ。

 どんでん返しがあるかもしれないでしょ?

 :多分ないと思う。

 すごい書きっぷりだよ、作者さん。

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