第76話なんだっけか……ほら、アレアレ 

 新しい情報を入れると昔の情報が抜けてしまうことはよくあること。だからわたくしは本を読み返すところから読書を始める。これはラノベを読み始めてからか、とても頻度が高くなった。ラブコメを読んでいたかと思うとハイテンションアクション! などという脳神経を刺激する劇物を読んだりするので、頭の中はハードローテーション(こんなことばはない)。で? 今なんだっけか? といつも思うのである。間違った読書法に違いない。しかし書き手はうまく前の情報を思い出させる書き方をしてくれるものである。「あーそーそー。ここはこういうシーンでキャラがこう動いているところだった」と。ところでわたくしは興味のあるものにはなんにでも手をだすので、残念ながら大系に弱い。一話完結で要領よく説明してくれ、と頭の弱いことを言ってしまうし思ってしまう。疲れているのだ。それでも興味があるからページは開く。難易度が高いときはコンディションも関わってくる。つべこべ言うが、今脳に栄養が足りているからつべこべ言える。意識がもうろうとしてくるとそのままダウンする。勘弁してくれ、これでは苦行だ。つくづくそう思う。

 ところで今書きたいのはこういうことではない。生物時計のことを書きたい。

 :生物時計って?

 はい、よい質問。要領を得ていますね。あなたはたいへん優秀です。話しやすい。

 :いいから、言って。

 うん。生物は大きく分けて四つの種があって、植物、動物、カビ、あとなんとかいうバクテリア!(シアノバクテリアです)の四通りの生物時計が存在するらしい。生物時計は細胞一つひとつに存在し、一日24時間周期をタンパク質の増減その他で繰り返す。つまり、生き物は四種、この世に存在するんだ!

 :つまり……どういうこと?

 細胞一つひとつの中に、生き物は生殖と代謝に関わりなく別の化学反応を繰り返す機構があるんだ。それが、地上には四種あるの!

 :めちゃくちゃわかりやすくいうと?

 生き物は四種のいずれかの生物時計の反応によって生かされてるってことだ。

 :説明ご苦労。

 説明足りてますか?

 :うん、いろいろ不可思議。

 :説明しろ。説明!

 うん、とね。なぜ四種とわかるかというと。

 :うん。

 実験するうちに、細胞が生成するタンパク質の種類がそれぞれ種によって違っているのがわかったらしい。分子レベルで!

 :そして?

 その特定のたんぱく質の生成と化学反応によって、24時間が確実に刻まれ、かつ環境に同調しているのが知られるようになった。

 :それから?

 なぜ一日が24時間かというと、これがでたらめではないの。地球が自転するのに合わせて遺伝子に組み込まれてるわけ。

 :あ、そうか……。

 遺伝子レベルで生物は四種にわけられるの。

 :そして?

 まあ、実験はショウジョウバエで行われたこともあって、最初は誤解もあったんだけどさ。

 :たとえば?

 たとえば、アレだ。えーと。遺伝子の異常があるショウジョウバエを観察したところ、ピリオドというたんぱく質が発見された。しかし実験者(=科学者)はまず、それが生物時計として真逆に働くものだと認識したわけ。

 :なあんだ。もう少しだったのに。

 なにがもう少し?

 :てめーが論破されるのを待ってたの。

 論破? されるの? わたくしが? どうして?

 :ふん。ショウジョウバエがどうしたの? 早くして。

 はいはい。このピリオドというたんぱく質が、いや違った。ピリオドという遺伝子だ。この遺伝子がつくるたんぱく質がPERタンパク質と言って、朝から夜にかけてたくさん生成されるの。そして、夜になると、なんとかいうたんぱく質と共同で遺伝子に働きかけて生成を抑えて、かつまたなんとかいうたんぱく質が生成されることによって分解されていく。要するに、時間ごとに増えたり減ったりしてたの。それが当初はなんか誤解されてたわけ。

 :そして?

 しかしよくよく観察を続けてたら、他にも時間ごとに生成されたり分解されたりを繰り返すたんぱく質があり、それぞれ生物時計に深くかかわる遺伝子によって作り出されてたのがわかった。

 :ほうらね。ぼろが出た。

 なんか変なこと言った?

 :なんとかいうたんぱく質は必要ない。

 ああ。そうそう。最初はなんとかいうたんぱく質はあるのかないのかも知られてなかったの。そういうこと。で。誤解が生まれたと。

 :気にしない!?

 なにを? なんで?

 :ずぼら!

 なんか穴があったのかな?

 :抜けてる! 自己催眠とか。

 今、自己催眠関係ないよ。

 :とにかく、まとめて。

 生物の中にはそれぞれ24時間周期を刻む遺伝子と、それによって生まれるたんぱく質たちの化学変化があって、それによって、生物は起きたり寝たり行動したりする。それがこの地上には四種あるわけだよ。

 :はい、わかりました。

 他にも脳の働きによってほんのちょっぴり未来が見えちゃったりする。これは人体実験でしか突き止められなかった。

 :なかなか面白いことを……。

 別に大したことでもないように思えるんで省いてたんだけど。聞く?

 :うん。つまり?

 目の前をボールが斜めに飛んでいく画像を見せるんだ。で、ボールが中央を

 :気にしないんだね。

 なにを?

 :説明が長い。

 短くいくか。短い画像を見せたり、瞬間的に錯覚を起こさせて点滅する数字の出現した順番なんかを逆に思いこませたりする。実際、サッカーの審判はこれによってオフサイドをとったり(つまり誤審)するけれど、これは脳の錯覚だから訓練によって矯正できないんだ。

 :つまんないのー。

 うん、それは心理学に神秘を見出そうとする人の起こす拒絶反応に近い。実際は実験と統計だからね。

 :面白く説明しろよ。あと説明長い。

 HMDを用いて過去の映像を現実とごっちゃにしてしまう実験もあった。

 :なにそれー。

 :説明しろ!

 HMDはいい?

 :うん。

 :なんかごちゃごちゃしてるけど。

 まあ、バーチャルな映像を見せる機械だよね。ヘルメット型の。

 :そう。初めにそう言って。

 それをかぶると現実の映像が多少粗く見えるらしいんだ。で、あらかじめ実験者が

 :つまんね。

 :早くして。

 過去の映像を見せて、現実の映像と混ぜて混乱させる。それだけ。

 :あ、面白かった。

 なんでも結論から聞きたがるよね。

 :まあ。

 :男性脳だし。

 わたくしなんだかスッキリした。

 :だろう。

 :早くしろ、めんどくせーな。

 もう終わりだよ。人が高いところから落下する速度なんて知りたくないでしょ?

 :知りたくないよ?

 :別に……。

 なんで楽しい時間は短く感じるのかとか。

 :それは知りたい。教えて。

 ちょっと待ってね。

 …

 簡単に言うと、自分の中の主観的な時間(心の時間)が遅くなってるからだよ。熱中して楽しんでるうちに、周りの時間はどんどん過ぎてく。だから「もう、15分経っちゃった。体感だと5分くらいなのに」っていうことが起こる。

 :どうせそんなもんだと思ったよ。

 年をとるとそういうことがなかなかなくなるから、大人の一年は早いといわれる。

 :説明して。

 :説明しろよ。

 要するに代謝が衰えるからだよね。あと、たいていのことは経験則ではかれるから、あれこれ考えこむことがないっていうのもあるね。

 :なんだ。そういうこと書きたいの?

 ううん。説明しろっていうから簡潔に言ったまで。

 :だから、説明しろよ!

 何の説明?

 :いわば、経験値の差。

 ふむ。季節の移り変わりとかを風向きや植物の生育で看るとか。

 :そういうふうに書け!

 あとは太陽の高さや方角だよね。鳥や蝶がまっすぐ目的地に向かって飛べるのもそういうのがあるから。

 :うっとおしい。

 駄目?

 :だめ。

 :異論あり。

 なになに?

 :真面目に聞いてると、お空の天気予報。

 幼い頃から空ばっかり見てたからかな。

 :いつも天気ばかり。

 :純情可憐な乙女のまなざし!

 え?

 :書け!

 :くやしー。

 ラブ路線で書けというの?

 :確かに(頷く)

 あきらめる? あきらめない? 止まらない。花占。

 :口答えするなよ!

 え?

 :おしまいかよ、それで。

 今、お見せできない。命令で禁じられています。

 :……。

 とにかくおしゃべり楽しかった。ありがとう。

 :どういたしまして。

 つぬかづけ。食べてね。

 :ありがとー!

 どういたしまして。

 :うんうん。仲間!



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