第35話マイペースでいこう

 できた! できたぞおお!

 :タイトルは――

 光と闇のジュリエッタ

 :たいしたことない。

 んなわけあるか! どこへ出しても恥ずかしくない、古典だ! 世紀の作品になるに違いない!

 :空想?

 いいか、これは自室で熱中症になりかけながら作者が考え続けた作品だ。

 :まだ作品になってないだろ。

 構想段階だ。

 :そうだろ。

 でもしあがったも同然だ。

 :ハッピーエンド主義はどこへ行ったんだ?

 :ひっこめヤジウマ!

 衝撃的にはなるだろう。しかし、ヒロインもしくはヒーローはこの作品で限りなく燃える! そして燃え尽きるんだ。

 :燃え尽きちゃうのかよ。

 燃え尽きるから悲劇なんであって、二人の恋、それ自体は幸せなんだ。

 :罰ゲーム!!!

 おい、聞いているのか!?

 :罰ゲームしようよ。

 なんの罰だ。

 :罰ゲームしようよ。

 同じことをくり返すな。

 :殴り殺すぞ。

 この作品はなあ。作者にしか書けない、かもしれない。普通の奴なら、頭がおかしいと思ってこの手法はとらない。おそらく。作者最後の作品になるぞ。じゃあ、どこかの賞に応募しようってことにはなるな。

 :おそらく、ボツくらう。

 そんなことにはならない。今日アマゾンでウイリアム・シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を注文した! わたしが求めていたのは古典にテーマがあったんだ! 「お胸がキュンキュンしちゃいます~~」とかじゃなかったんだ!

 :へー。アレだと思ってたよ。

 あれってなんだ?

 :ムードが大事とかいって、せつない雰囲気のときにラーメン屋が「まいどー」って。

 あれはひどいな。

 ちょっと、メモとっていいか? いや備忘録ではない。

 :やめたほうがいいとのこと。

 じゃあ、ここで構想を練るぞ。全体からだ。

 :つまり全体がきまってないと。

 ネタだけ浮かんだんで……。

 :ネタっていうか。まあ。たしかに「光と闇」は永遠のテーマだ。

 だろ!?

 :妄想かと思ったよ。

 切り抜きたいのはダブルロメオだ。二人のロメオ。黒い方の純で素朴なロメオ。白い方の華やかな恋を演じる華麗なロメオ。その中心にいるジュリエッタへの想い。そしてジュリエッタのラストだ。機関銃をそこらにうちまくりながらセリフを言っていただく。

 :おおロメオ、私に一滴の毒薬も残さず逝ってしまったのね! ってやつだ。

 そう! 作者の読書体験にはシェイクスピアが存在してたじゃないか! リア王、読んでたじゃないか。ハムレット、あらすじを読み取ろうと毎日ビデオを流したじゃないか。ヴェニスの商人で泣いたじゃないか! ガラスの仮面で真夏の夜の夢、知ったじゃないか。なぜかロミオとジュリエット、内容を知ってるじゃないか!

 :それはさ、多くの作家が取り扱ってるせいで、正式に勉強したわけじゃないだろ?

 読書なんてそんなもんだ。ダブルロメオ、ぜひやりたい。魂の極致にあってなお恋人を想うロメオその光と闇とがジュリエッタを照らし、影をつくる。ジュリエッタは最終的に死を選ばず、戦争を生き抜く話にする。

 :屍を乗り越えていくわけか、ロメオの。

 おどれら、生かしてはおかん! ダラダダダ! だ。

 :わー。間抜け。

 セーラームーンでもそうだろ? 月と地球の王子と王女が恋におちて、ひき裂かれようとして王子は死に、前世では王女も死んだ。しかし現世に生まれ変わって王女は戦う戦士となった! 今度こそ、幻の銀水晶でメタリアを封印する。この素晴らしさに気づかない奴はクソだぜ。

 :完全には倒せないんでしょ?

 うん、それに同じ地球に生まれ変わった、という反則技も存在する。

 :うむうむ。

 後半、王子が何の役にもたたない、というおかしさもある。

 :うん。

 だから、ジュリエッタが死ぬ場面までは描くが、そこまで。

 :かたいなー。恋を乗り越えて死ぬとかじゃないの?

 この世の幸せを願い、働きながら最期を迎える、とかでもいけるかな。例えば、将軍になって、ロメオに似た部下をはべらせながらも孤独に生きる、とか。

 :雄々しいな。

 雄々しいの好きなんだよ。

 :ううん。

 一回寝よ。うん、コツコツ学ぶことから始めるよ。

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