第53話~邪との紡ぎ目~

 俺はしばらく愛美に抱き締められていた。

 胸板には愛美の比較的大きい胸の膨らみが強く押し付けられている。

(当たってるんだが……)


「とりあえず離してくれ、俺はここで何をすればいいのか憶測でしか分からない」

 俺は軽く焦りながらも離れてほしい趣旨を伝える。

 何故か分からないけど、城で仲直りをしたこの前の時とは違う感じがした。

(俺……また意識してるのか?)


「っぐ、はぁ……分かってるわ」

 彼女は泣き止んで腕をほどくと、背を向けて立ち上がる。


 目に映るのは彼女の金髪の長い天然パーマ。揺れる髪は母親とは違う勝者の風格を漂わせる。


 そんな後ろ姿を見た瞬間……

「あっ……」

 声が漏れてしまう。


「ん?」

「何でもない」

 振り向く彼女にそう告げて立ち上がる。


(俺やっぱり……迷ってたのか)

 自分では気付かなかった……ふりをしていたんだろう。


 結局ジーニズの指示通りに力を付けて、襲ってくるであろう敵に戦いを挑むことに勝手に疑問を抱いていた。


“本当にやらなければならないことなのか”


 でも彼女の背中を見て、今分かった。

 意識が足りなくてベルフェゴールに遅れを取った理由も。


愛美姉ちゃんなら絶対にやる”

(俺は黙って見てるだけでいいのか……?)


 知り合って間もない銀髪の少女に指摘されたあの時も、姉ちゃんは背中を見せていた。

『それでいいの……?』

(良いわけないだろ……!)


「そんなに真顔でジロジロ見ても二度はしないわ……!」

 ジト目で睨まれている。


「いや、なんかごめん……」

 俺は照れながら頭を掻く

「俺、今……強くなれた気がした」


「ふーん……でも、あんたはそれでいいのよ」

 彼女は何かを察したのか、嬉しそうに口角を上げて再び背を向ける。


 幼い頃から見てきた。

 全てを託せるような……親とは違う強い意思の籠もったその態度。

 そして時折見せる、俺を奮い立たせる僅かな見下し。


「で、どうして奴の心の中に俺達と愛美がいるんだ――」

 俺がジーニズに問いかけて説明を求めようとすると……


「あたしがあんたにその傷を付けて、お守りを施した。そのお陰であんたは生き返りの反動を免れてあたしたちとここにいる」

 ハッキリと言い切った。

 重要な部分は反動の一言に纏められる。


「そうだ……ね」

「そうだね、じゃないんじゃないか?」

 自信無さげに相づちを打つジーニズを、刀を拾い上げながら目を瞑って問う。


「まあ帰ったら、ゆっくりこれからのことを決めよう」

 俺は言い方を変えた。

 ジーニズも俺に向き合ってくれなければ勝てる戦いも勝てない。


 愛美は無言で前に進む。

 早くしろと急かされているようだ。

「頼むぞジーニズ」

「あぁ……!」


 真っ黒な世界をしばらく前に歩き続ける。

 でも俺と愛美の姿はハッキリと見えていた。

 意識を失った後、マンモンと同じような行動を取ったのだろう。


「んで、記憶の欠片ってのはどれ?」

 愛美は俺に問い掛け、周囲に目をやる。


(き、記憶の欠片……?)

 疑問に思いながらマンモンの時に見たあのモニターを思い出す。

(あれのことなのか?)


 モニターは無いが、何十もの宝石のような透明な欠片が周囲に浮いている。


「おそらくアレ……だろ」

(見えない場合もあるのか……)

 周囲のものが記憶の欠片と断定し、抜刀の構えを取る。


 ジーニズが特に何も言ってこないなら間違いないだろう。


 愛美はしゃがみ、右足を踏み出してクラウチングスタートの体勢を取る。

 両指は白い雷爪へと変化し、虚無の大地へ突いている。


 俺は目を瞑って心刀をする。

 髪色は白く変化し……

(3……2……1……!)

 数えたカウントと共に開いた瞳は赤い。


 俺と愛美は駆け出すと、闇に潜む透明な欠片の目の前まで瞬間移動する。

 俺は抜刀した炎の斬撃で欠片を斬り裂き、愛美は白い雷爪と黒雷翼の攻撃で欠片を破壊する。


 欠片をいくつも割るが空間に変化は無い。

 攻撃中の彼女とふと目が合った。

(一気にか……!)

 コクリと頷き、欠片達の中心で止まる。

 欠片達は一斉に俺達の元へ集まり始めた。


 足を開き、強く地面を踏み込んで背中で受け止める体勢を取る。

 彼女が俺の背中に飛び付く。

 枝分かれしていた黒雷翼が、左右一本ずつの太い雷柱翼へと変化する。


 俺の用意していた炎を纏う刀身に片方は巻き付き、鞘だったはずの黒い炎を纏う刀へも巻き付く。


『はッッ!!』

 二人で息を合わせて叫びながら、ニ刀を振り回す。


 ほとんどの欠片はぶつかった瞬間、透明な外殻は割れる。

『パリィィィン!!』


 欠片は有視化して遠くに弾き飛ばされる。


「どれも違う……!」

 過去に家族と幸せな生活を送っていた男の子。 マンモンと同じような感じなのだろう。


 割れたガラスのような破片が全て散ると、壊れていない白い結晶がある。


「あれか……!」

「そうみたいね」


 急いで俺達は近寄る。そして無言のまま、二人でその結晶に触れる。


「――――!」



 深い眠りの中。

 少年は今日も病院のベッドで眠り、目を覚ます。


 何もない。


 記憶は存在せず、自分がどうしてここにいるのかも分からない。


 現代的な風景が窓の外から見えるが、どこが現代的なのか意味が分からない。


「はぁッ……! はぁはぁッ! ひっ、はあぁッ……!」

 何故か胸の動悸が激しくなる。

 呼び起こされる記憶はフラッシュバックし、飛行機の中が目に映る。


 意識が遠退き、また目を閉じる。


 またすぐに目を覚ます……ガラクタの山の中にいた。

 体が痛い。痛みは分かるも声に出すことができない。


 周囲には破片しか残っていない。


 起き上がった時に地面の破片がバランスを崩してよろける。

 瓦礫に手を突き、また痛みを感じる。


 赤い液体が少しずつ漏れだし、その視界の向こうには……見慣れた指輪を付けた腕が見える。


 衝動に刈られて瓦礫を掻き分ける。

「はぁっ、らぁっ…………」

 言葉にならない声を上げて瓦礫を退け続けると……


「…………」

 自分のいつも側にいた人がいる。

 名前も分からない。

 思い出せない。


「うがぁあああッ!!」

 少年は声にならない声で叫ぶと、涙を流してその場にうずくまる。


 空中から集まった緑色の液体がその背中に集まり始め……変色して形となった紫色の山羊の怪物がその子を食べた。



「はぁッ……!」

 愛美が俺の服にしがみつき、息を整えている。


「え、姉ちゃん……?」

 俺は戻った勢いで困惑し、昔の呼び方で呼んでしまう。


「大丈夫……! だからッ! はぁッ、はぁ……」

 彼女は息を切らしているというより、何かに苦しめられている様子だった。

 目を剥き出し、こちらを掴む握力もいつも以上に強い。

 どこからどう見ても不自然だった。


「あんたら……! 無茶し過ぎよ……!」

 数秒待つと彼女は少し落ち着いたのか、顔を上げてこちらを向くなり怒っている。


 俺は彼女の態度に感付いてしまった。彼女が俺に行った何か。

 それは俺の負担を軽減させるような物だったのではないのか?


 それを真っ向に考えたのは愛美だとしても、何故……それを許した?

 彷彿と怒りが沸いてくる。


「おいジーニズお前ッ!」

 俺は感情的になり納刀した刀を両手で掴んで怒鳴る。


「筋違いよ……! それはあたしが、あたしの意思でそいつの反対も押し切ってやったこと! 例えあんたが相手でもよ!」

 彼女に両腕を掴まれ、面と向かって説得される。


「あたしが何度も力を暴走させても覚えた、闇属性雷術はその為にあったわ。何でか分かる……? あんたがそいつを……乱暴な扱いばっかしてるからよ!」

 彼女の言う言葉の意味が分からなかった。


(乱暴な扱い……?)


 確かに時には乱暴だったかもしれないが、俺はしっかりとジーニズの言う通りに、思う通りに動いてきたつもりだ。


 切磋琢磨で難敵を退けたり、仲間が来るまで持ちこたえた。

 乗り掛かった船にしてはやり過ぎている方だ。


「愛美ちゃん! いいんだ。ここを越えれば……!」

 ジーニズは俺の心情を察したのか、フォローをしてくれる。


「越えれば……? 現に越えられてないじゃない! それに、こんなやり方で……! ベルフェゴールから記憶の整理を早める力を手にしたとしても……! それでこいつはのうのうと暮らして、あんたにもし何かあったらどうする訳……?」

 容赦の無い問い詰めに彼はすぐに黙ってしまう。

 俺は黙って突拍子な話を理解するので精一杯だ。


「はぁ……また話してないのね。乱威智!!」

 突然名前を強く呼ばれ、体を震わせて驚いてしまう。


「あんたこんなことも聞かずに……記憶の整理も全部背負わせて……! あんたのために眠いのに休まず力を使ってるのに……! あんたがそいつにやれることって、そこまでして願いを叶えることなの……?」

 両肩をがっしりと掴まれ、目を見つめられて……真剣に怒られる。


「…………」

 言葉が出なかった。


 一緒に戦っているのに、面倒なことは背負わせてばかり。

 話したくないことは話さなくていい。それが正解だと思ってた。


 でもそれは……第三者から言わせれば、切れもしない関係を長く続ける為の逃げ。

 傷付けないようにと相手のことを知るのを避けていた。

 その事に若干気付いていたけど、分かっていなかった。


 大丈夫だろうとタカをくくっていた。


「そんな軽い気持ちなら……そんな信念誰かにあげなさいよ! あたしがあん時に首を絞めてまで言った理由ちゃんと分かってる!?」

 彼女に肩を大きく揺らされ、大声で問い詰められる。


「だって……俺だって短期間でこんな無茶をするつもりじゃ無かった! でも皆を守るためには……」

 でも出てくるのは結局言い訳ばかり。

 俺は間違っている。分かっていたけど、全然受け入れられなかった。


「だから無茶させてんのはあんたって言ってるでしょ!!」

 彼女は手を思いっきり振りかぶり……


『バンッッ!!』

 重い平手打ちが頬へと打ち付けられて、撥ね飛ばされる。


「父さんも同じよ……! あんたがそいつを止めるのを分かってないから、今回の試練を用意させた……あたしがそんな危ないこと黙って待ってる訳無いでしょ……?」

 彼女は倒れた俺の胸ぐらを掴むと、泣きながら体を揺らしてくる。

 そして頭を押し付けて再び泣いてしまう。


「あんたさぁ……! ほんとに、おかしいなって……思うこと、無かったの……?」

 震える声で問われる。


 丸一日眠り続けていたことも、その後に父さんが一人で刀の様子を見せに行ってしまったことも……思えば周りの人間がどうしてここまで俺を止めるのか分かっていなかった。


 強くなれるから、人を助けたりどんなことをしてもいい。

 でも、いずれはどんなこともしなければならなくなる。


 そして何より、戦闘でジーニズとの意志疎通が少なくなり自己判断が増えていた。


「ごめん……」

 謝ることしかできなかった。

 ジーニズだけじゃない。

 ここまで怒らせて心配をかけてしまった。

 そんな姉の顔を見れないほど、恥ずかしかった……


「もう金輪際、人を助けないで……? 守ることがあんたの夢であっても、やるべきことじゃないから……! 我慢しなさい!」

 彼女は震える声で、俺に約束を言い付ける。


「やくそくよ……!」

 あの時と同じ震えた口調。

 彼女は小指同士を合わせて指切り拳万をする。


 昔、あの絶対能力の木から落ちた後のこと……病室で目を覚ました俺に泣いてえづきながらした約束。

『あたしの負けでいいから……!無茶なことしないで……』



 呆けている間に、今度は両手を頬に添えられる。そして彼女は泣きながらこちらを見つめる。


「ぐすん……あんたのその夢を支えるために……いや、叶えるためにあたし達仲間がいるの!」


「でも、あたしたちの夢そのものを……あたしたちの未来を守ることが出来るのは、あんただけなの……!」


「悔しいけど……はぁっ、ずずっ。あんたが生きてなきゃ……! 例え叶った未来だとしても……生きる価値なんか無いわ!」


 もう一度抱き締められる。

 いつも守ってくれる、前にいてくれた人の愛しい香りがする。


 もっと大切な、根本的なことに気付いた。

(俺……姉ちゃん悲しませて、心配させて何やってんだ……?)

 俺の目からも涙が溢れる。


「兄弟とか……あたしが姉だからとか……関係ない! クソ兄貴が逃げたって……未来が危なくなくなったって……! あんたがやるなら、あたしはずっと……それを守る!」

 彼女は心配ないと、ひたすらに気持ちを伝えてくる。


 ここまで言ってくれるのは……そしてそれがであると確信を持てるのは、彼女しかいないだろう。


「だからあたしの想い、無駄にすんじゃないわよ……! 手抜こうとか、無理してもいいかなとか……絶対許さないから! したら殴りに行くから覚悟しなさい!」


「分かった」

 俺は彼女の言葉にようやく返事をする。

 彼女の溢れる涙を手で拭ってみる。

 まだ温かい。この温かさは本物だ。

 彼女の俺を守りたいって気持ちも本物だ。


「で、でも変なことしたら許さないから……!」

 眉をしかめてこちらを凝視して怒っている。

 この表情だけ見ればが、さつなことなんて気にならないほど可愛らしいだろう。


「そしたらまた殴るのか?」

 ちょっと意地悪をしたくなって聞いてみた。


「ち、違うし……」

 顔を赤らめてこちらの手を振り払う。

 そして立ち上がり背を向けると……


「んでさ……」

「え、何?」

 彼女が何か疑問を抱いたような声を上げるので、聞き返してみる。


「ここからどうやって出るの?」

「あ……」

 完全に話に夢中で忘れていた。


「あーだってそれは……」

「確信的な記憶を見てないからか?」

 ジーニズが口を挟もうとするが、俺はその予想を先に言ってしまう。


「そう……かもしれないが、それ以前の問題だ……」

 彼は暗い口調でその予想を否定する。


「まず彼は起きた後の記憶が無い。惰眠なんて甘いものなんかじゃない。あれは……絶望だ。かなり重い話になるが……」


「聞く」

 俺は愛美が答える前に言葉を発する。

(俺がやらなくちゃ……いや、俺にしか出来ない役目……!上等だッ!)


「まず、彼は起きた後の記憶が無い……風景を見て現代的と感じたことから記憶が曖昧になっている。そしてそれは二度も続いた。まずひとつが前向性健忘症ぜんこうせいけんぼうしょう。」


 俺達はその説明が追い付けなかった。

「ぜんこうせい?」

 愛美が質問をし、分かるようにと説明を促す。


「脳の側部にダメージを負ってからの記憶が曖昧になる症状だ」


「そして彼は飛行機のトラウマを思い出して恐怖を感じた瞬間、意識をもう一度失った。更に入院もしていることから、睡眠障害であるナルコレプシーも起こしている」


(それは聞いたことあるような……)


「居眠り病だ。その中で情動脱力発作……カタプレキシーというものを起こし、空を見て瞬発的に事故のトラウマを思い出した。それに喜怒哀楽を感じて……また眠りについた」


「普通、ナルコレプシーと言うのはある神経伝達物質が脳の一部分から足りなくなることから起こる」

 ジーニズは少し気を遣って詳しい説明を省いてくれた。

(疲れてるのにほんとに悪い……)


「事故によって失われるものなの?それは」

 愛美が自分じゃ思い付かなかった良い質問をする。


「仮説だ。ある神経伝達物質……オレキシンと言うんだ。それのある視床下部……目ん玉の奥の脳の部分だ。その神経が損傷を受けたことによる発症なんて、日本人ではほとんど無いそうだ」

 ジーニズは説明をするも、説明補足だけでとても大変そうだ。


「待って、日本人……なの?」

 愛美が当然の質問をする。


「間違いない。僕は……間違いなくあの景色が日本であることを知っている」

(あ……)

 俺も今気付いた。あの風景にあった赤と白のタワー。フルカラー漫画でのみ、見覚えがある。


「なんで?」

 愛美はまだ気が付かない。

「赤と白のタワーがあったろ?」

 俺は補足説明で、彼女に分かりやすく伝えた。


「え、あれって……」

(はぁ……そっか、そうだった。この人すぐ漫画飽きちゃうんだ……)


「東京タワーだ。そうだよな、説明不足だった。お前あんま漫画読まないもんな」

 こればかりは自分の非を認めるしかない。


「だって少し見たら感動してやる気が……じゃなくて!」

 彼女は両手を振って感動を表し、話が逸れたことを気にする。


「その絶望に奴が……」

 俺は話を戻し、分かったことを呟く。

 シュプ=ニグラスのターゲットにされたと考えるのが妥当だ。


「あぁ……やっぱりあっちの人間もターゲットにし始めたな……」

 ジーニズは想定していたけどあまりよくない事態だと……多分そう言っている。


「策はあるの?」

 愛美は俺の方へ向き聞いてくる。


「ない」

 突然過ぎてないと答えてしまう。


「おい」

 半笑いで突っ込む。そんな反応が見たかったのもある。


「まあ……一番手っ取り早いのは、現実を受け止めさせることだな」

 俺は簡単に一番難しい手段を取る。


「できんの?」


「やるしかない」

 また彼女との他愛ない力の抜けた会話に突入する。


「そーよね」

 彼女は腕を組んで頷いている。


「なるべく奴とサシで話せる時間を作ってくれ」

 重要なとこは頼ってみたりする。


「覚めたら宇宙船に戻っちゃうかもしんないのに?」

 彼女はジト目で意地悪そうに言ってくる。


「も、もうちょっと考えても良いですか?」


「…………」

 すごく哀れんだ瞳で見られている。


「嘘ですやります」

 思いの外、すぐに返事が口から漏れてしまう。


「ま、無理されても困るし……一緒にいたら手伝ってあげる。ただし……!」


「ただし?」


「そいつに無茶は……」

「またキスしようとか?」

 彼女がジーニズのことを心配した一言を放つ瞬間、彼自信は冗談を挟み込む。


「ガンガン能力使いなさい」

 彼女は眉をひそめて言葉を変える。


「元からそのつもりだ」

 俺は正直にそれを肯定する。

 そうでなければあんな相手気を抜かずに勝てる気がしない。


「はぁ……」

 溜め息を吐かれた。


「そろそろいいか?」


「ああ」

「ええ」

 ジーニズの質問に俺達は返事をして……


「良いならお二人さん手を繋いでくれないか?」

 彼は困った口調でお願いしてくる。

(歯切れが悪いな……)


「あ、はい」

 普通に返答し、普通の素振りで彼女の手を掴む。

「う、うん……」

 それに気付いたのか、彼女は恥ずかしそうに返事をする。


「そのままキスを……」

 ジーニズはまたおふざけをして時間を引き伸ばそうとする。

(まさか……)


「いい加減に……」

 愛美がそう答える中、俺は気遣ってみることにした。

「もしかして……お前、この時間を有効に使えるタイミングを利用して休みたいのか?」


「いえ、昨日のをもう一回見たかっただけです。行きましょう」

 彼は敬語になりながらも意味不明な理由を答えてくる。


「昨日……?そういやお守りって……おま!てかベルフェゴールが言ってたセック……」

 不思議に思ったところを掘り下げて聞くと……

「殺すわよ!!そんなことしてないから!!」

 言葉を遮られて手をギュッと握りしめられる。


(あっ……いてぇ)

 眼前に広がる光に薄々気付きながらも、最後まで俺達はコミュニケーションを楽しんでいた。

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