第35話~試練前のデート・前編~

 あの決戦から一週間後、俺は宇宙での演習とのお題目の元で七つの悪魔と戦う事が許された。


 その間学校では……

 新入生が英雄に勝ったという話題で持ち切りだった……らしい。

 ヒソヒソ話は聞こえないように出来ている。


「はぁぁ……」

 試練を明日に控えた放課後。

 学校のラウンジで書類整理をする結衣の隣にわざとらしく項垂れる。


「な、なによ……」

 ちょっと驚いた様子で気にかけてくれる。

「まじでなんなんだあいつら……」


 書類を纏めてスクールバッグに仕舞う彼女は、ふぅ……と可愛らしい溜め息をつく。

「仕方無いでしょ。何も知らなければ疑問に思うのは……」


「でもさ――!?」

 どっさりと背中から誰かにし掛かられる。

 それは触れたことの無い位大きな……おっぱい!?


 そして次は腕で首を締め付けられ――柔らかい……!

「女の子の前で怠けた姿を見せない。幸樹ならまだしもあんたは似合わないしダサいわ」

 優華の香りがする。相変わらず良いシャンプーの……


「うっうん、こほん」

 結衣に咳払いをされる。しかも二度も。


「ど、どした?」

 あの時と同じ言葉をかけてみる。


「これから三人で買い物にいかない?」

(げっ、また買い物系か……)


 確かにそういうのは悪くは無いんだけど……

 な、なんか彼女達を服やアクセサリーで釣っているような気がして……確かに悪くはない。


「優華……!その、こ、この前行ったばっかりだから……」

 結衣が気を使ってくれる。でもそれだけでは収まらないようだ。


「そ、そう。じゃあ!えーっと、うーん……」

 中々彼女を前に言い出せないようだ。


「遊びに行きたいって言えば良いじゃんか」

 慌てふためく優華にそう言ってみる。

 優しいのか結衣を置いてなんてことは出来ないそうだ。


「わ、私はこの書類届けなきゃならないから……」

 あっさりと結衣は断ってしまう。でもそれはあまり理由になってなかった。


「そ、そう?ならいいわ!二人でどっか行っちゃうから!え、えーと……今は家に誰もいないから!そこでゆっくりしましょうね~~」


 彼女は結衣を素直にさせる為うまい口実を作る。でもその回答はもうソレである。

「あ、あのー……お二人さん?」

 俺は止めようとするがもう間に合わない。


「い、良いんじゃない?好きにすれば……!」

 結衣は早歩きでその場を去ってしまう。


「うぅ……やっちゃったぁ」

 優華の目には涙が浮かぶ。

「はぁ……待ってるから追いかけておいで」

「うん……」


 そのまま結衣の後を追って走り去っていった。



 結局、二人と合流すると……夕方の都心部へと遊びに行くことになった。


「何ここ……」

「し、知らない……!分かんないぃ……」

 優華が案内した場所は適当で、なんか風俗街っぽい場所に辿り着いてしまう。


 結衣も恥ずかしそうにそっぽを向くと、後ろから優華に胸を揉まれている。

 制服の上からごっそりと……


「み、見るなぁ……!」

 とりあえず可哀想なので目を逸らす。

『パチンッ!』

 何かが弾ける音が結衣の胸から聞こえる。


「あ」

「ふぅえっ!?」

「おい」

 というか……軽く揉んだ程度で外れるものなのか?


「うぅ……」

 結衣は自分の胸を押さえたまま離さない。

「ご、ごめんね?」

 いつも強気な優華は申し訳無さそうに慌てふためいている。


(調子が狂うな……)

 周囲を見ると一軒だけまともなコンビニチェーン店があった。

「うーん……あそこにコンビニがある。トイレを借りよう」


「う、うん……ありがと」



 俺は二人を待っている間にメロンパンと期間限定おにぎりとコーラを買う。

「おまたせ!」

 優華が胸を張って出てくる。だけど結衣はその後ろにずっと隠れている。


「よし、ちゃんとしたサイズのやつ買いに行こう」

 都心ならそういう店も簡単に見つかるだろう。


「ごめん……」

 結衣までも申し訳無さそうに謝る。

「いや、気にしてないよ」


「ひゅ~~」

 優華が俺達をからかう。

「むぅぅ!」

 結衣は頬を膨らませて顔を真っ赤にする。

「わ、悪かったって……!」


「ちょっと!だから!やってないってば!!」

 店内から聞き慣れた罵声が飛び交う。

「君が取ったのは見てるんだ!それに最近これの在庫が君みたいな不埒な若者にどんどん取られてるんだ!」


 トラブルに巻き込まれているようだ。心配になって駆け付ける。

(というか何故ここに?)

「愛美?」


「ふぅぇっ!?」

 驚く彼女の向こう側の陳列品には……

 ワーオな本や消耗品ばかり。

「君達?知り合いかい?」


 店員は少し不機嫌な様子で、目の下にはくまが出来ている。

「その……何を取ったと見えたんですか?」


「あたしはほんとに取ってないから!!」

「わかったから」

 俺は焦って取り乱す愛美をなだめる。


「ええ、これですよ」

 それは間違いなく男性用避妊具そのものだった。

「…………」

 驚きのあまり絶句してしまった。


(な、なんで男用……?)

「どうしてそれだって分かったんですか?」

「それはこの子が商品をバッグに入れようと……」


「バッグなんて持ってないわ!」

 彼女は既に私服に着替えており手ぶらだった。


 格好をよく見ると、布面積の少ない女性用タンクトップブラに半袖ジャケットとショートパンツ。

 おへそに目が移る。手で隠される……


「じゃあ懐にか?すまないが私も仕事で疲れてるんだ!」

「そもそも男用なんて何であたしが!」

 口論は収まることも無くヒートアップしていく。


「そこの子に使う予定だったんじゃないのか?そんなの知らん。ともかく!裏まで来てもらうぞ!」


「なっ……!使うわけないでしょ!ちょっと!やめてってば!」

 店員は無理矢理愛美を引っ張ろうとする。


「でも……あんた以外に店番いなくない?」

 優華がキョロキョロと辺りを見渡し、確信めいたふうに告げる。


「う、裏にいるんだよ……!」

「その……なんでお話し合いにソレ、必要なんです?」

 俺は男の手に持ったままの避妊具を指差す。


「なっ、これは……疲れてただけだ!」

「あ、あとその子。一応能力トップ入りしてますから、あなた危ないですよ……」


 そう言うと……男は愛美に触れていた手をおっかなびっくりに離す。

「ま、また今度やったら承知しないからな……!」

 店員は怒りながらもレジへと戻っていく。


「あ、ありがと……やってないのにまったく……!」

 愛美も不機嫌な様子を見せる。


「で、でもお前……そこで立ち止まってたのは確かなんだろ?」

「あ、こ、これは違くて……!」

 愛美は下の棚にあった生理用の鎮痛薬を取る。


「そ、そっか……買ってこようか?」

 優華がそう勧めるが彼女は首を横に振る。

「別にいいわ。レジに叩きつけてやるから!」


 店内の去り際に何か聞こえた。

「次下手な疑いかけて変なことしようとしたら……!命の保証はしないわよ……!」

(相当イラついてる……帰ってもあまり刺激しないようにしよ……)


「結衣はもうきてるの?」

「ふぇ!?」

(え、遠慮無いな……)


「べ、別に来てないって訳じゃごにょごにょ……」

「え?」

 結衣は恥ずかしいのかどもってしまう。優華は俺の存在に気付かない程天然だ。


『ウイーン』

 愛美はが頬を膨らませながら店内から出てきた。

「何か言ってたか?」

「次は通報するぞだって……!なんなのよもう!」


「でもお前だってなんであんなの手にしたんだ?それにどうしてここに?」

 慌てふためく姿が見たくて、気になっていた事をいっぺんに聞いてみる。


「べ、別に……?は、初めて見てびっくりしただけだし……!あたしは一人で遊びに来ただけよ」

「痛いのに遊びに来るのか?」

 いつも通り疑問をそのまま投げ掛ける。


「没頭して忘れたいのよ!!」

 凄い剣幕で怒られる。

「ご、ごめんて……」


「…………もう行くから」

「待てって……!良かったら一緒に……」

 無視して電磁力でビルを伝って去ってしまう。


「そ、その……帰ったらまた遊べるんだし今はそっとしてあげて……?」

 結衣に手を握られて我に帰る。


「だ、だってまたさっきみたいな事があったら……!」

「心配なのは分かるけどさ……」

 優華も珍しく落ち着いた雰囲気で話しかけてくる。

(そんなに嫌なもんなのか……)



 あれから俺達は服屋のあるデパートへと入りエスカレーターを昇っていた。


 そして目的の階に着くと……

「あれ、先輩方ですか?――っておねえちゃん?」


 寄ろうとしたお店で品選びをしていた誰かに話しかけられる。

 一、二歳年下かと思える銀髪の少女が結衣へと寄っていく。


「な、鳴海……?ってもしかして一人?誰か付き添いはいないの?」

「ひ、一人でも大丈夫ですよもう……!」


「ん?」

「あー、あんた知らないんだっけ。この子は有栖川鳴海ちゃん。ほら、鈴が助けたって言ってた」

 状況を理解できてない俺に優華がフォローを入れてくれる。


「あー!はいはい。なるほどな」

 有栖川という家名に結衣と親しくする理由が分かった。

 そして先日の書類の事も頭に浮かぶ。


 あれから有栖川家についての資料を漁っているが、数年前の計画書以外の情報は見つからない。

 勿論この件は誰にも話してはいない。


 俺はそれより気になって仕方がない事があった。

「んでその……結衣のやつ胸隠さなくて良いのか……?」


 優華も気付いてなかったのか、彼女を見ると目を丸くする。ブレザーから何かが突っ張って……見てるこっちが恥ずかしくなる。

「な、なんで私に言うのよ……!」


「そ、その早く店で選んでやってくれ……」

 目を逸らして彼女に告げる。

「はいはい」


「ほらほら、さっさと選んで付けちゃいなさい」

「……わ、分かってるわよ!」

 彼女は気付いたのか顔を赤くして胸を隠す。


「ふぇ?何を?」

「鳴海ちゃん聞いて聞いてぇ?この人ったらね?小さいサイズの……」

「あーあーあーー!聞こえなーい!」

 耳まで真っ赤にしてしゃがんでるのは凄く可愛い。


「あ、そうだ。私他に買わなきゃいけないものがあるから……!もう行くね?」

 有栖川さんは何かを思い出したかのような素振りでその場を去ろうとする。


「そ、そっか……」

「ご、ごめんねお姉ちゃん!またね!」

 結衣も悲しそうにするけど、俺はちょっとその行く先が気になった。


(買い物なのに上の手続きカウンター……?)

「んじゃ乱威智、ささっと選んで買ってくるから!」

「二十分位か?」

「うん、そんくらいかなぁ……」

 優華は結衣の胸を見つめ直し、軽く考え込んでいる。


「み、見ないでってぇ……!」

「あ!ノーブラでこれつてことは、あたしよりワンサイズ上かな~~?」

 優華がニヤニヤしながら彼女の胸を揉みしだいている。

(くそっ……!羨ましい!)


「ほらほら好きな柄探しておいで~」

「が、柄とか無いから!」

 優華は彼女を離すと見送ってしまう。


「お前も行かないのか?」

「まずは好きなの選んでからよ。それでこっちに持ってこさせるのよ!」

「なるほどな」

 ナイスな考え過ぎてなるほどとしか返せない。


「あ~~さっきの子可愛かったなぁぁ」

「そ、そうだな……」

 確かに小さい頃の結衣そっくりだった。やっぱり血の繋がりも強いのだろう。


「綺麗な銀髪……!そして丸くてキュートな桃色の瞳……!そしてキュートな花の髪飾りぃ……えへへ」

「未来と結婚するんじゃなかったのか?」


「あんたも人の事言えないじゃない」

 その言葉……何故かグサリと刺さる。

「そもそもなんでそんなにロリが好きなんだ?」


「可愛いからに決まってるじゃない!」

「いやいや、そうだけどそうじゃないだろ。だったら鈴はどうなるんだよ」

 彼女は鈴を妹扱いしても、ベタベタしてはいない事を知っている。


「鈴だって勿論可愛いわよ!見返りが来る相思相愛よ?」

「じゃあなんでベタベタしないんだよ」

「うわ、シスコン発見」

 さっきからやたら気にしているところを突いてくる……


「違う」

「違くないわ。だったらあんたはなんで愛美お姉ちゃんに甘えないのかしら~~?」

「そ、それは……」

(こいつは何なんだ?なんでこんなに俺の価弱点を見つけられるんだ?)


 俺が言い淀んでいると、彼女は腕を組んでおっぱいを寄せる。

「抱き着いてブラのホックは外せるのにおっぱいを手に取らないのは何故でしょ~~?」


「あーあー!ともかく!お前のロリ論はよくわからん」

 声で無理矢理話を遮る。これは多分結衣に聞こえているからだ。


「はぁ、これだから青二才は……!あんたがおっぱいばっかに目移りするのと同じよ」

「おっぱいは可愛くないだろ」

「嘘ね」

 自信たっぷりに断言される。


「な、なんでだよ……!」

「あ~~それよりあの子と――――したい」

 彼女は突如、小さな娘と性行為がしたいとぶっ飛んだ発言をする。


「ごほっごほっ……!お前は公共の面前でなんて事言うんだ……」

「あんただって私としたいんでしょ?二度も私の体ガン見しちゃってさぁ~」

 そう言われると、二度も見た彼女の裸を思い出す。いやダメだダメだ。


「あ、あれは……!てかお前!そういう不埒な価値観が知りたいってだけであんなことしたのか!?」

「そ、それはまぁ……」

(何故そこで目を逸らす……)


「なんだよ……急にしおらしくすんなよ」

「あ、あんたなら優しくしてくれそうって思っただけよ……!」

 そう言って彼女も店内へと消えていってしまった。


 俺はその『優しくしてくれそう』の本意に薄々気付いていた。

 彼女が優しさに飢えているんだと。


「気が持たない……」

 優華の体を思い起こす。あれはとても……凄かった……


「追うのか?」

 ジーニズの声で優華のイメージから離れる。


 あんまり深入りして彼女に怪しまれるのは得策じゃない。もしかしたら結衣と付き合う為の登竜門的存在になるかもしれない。


「チラリと見るだけだ」

「更衣室を?」

「違う」

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