第36話~試練前のデート・後編~
俺はエスカレーターを一つ昇り最上階へ。
一面茶色のホテルのような雰囲気に少し驚く。
「どこだろ……」
「何してるんですか先輩」
キョロキョロしてると後ろから低いトーン且つ可愛いと思える声が聞こえた。
(わっ!?かわいい……?)
驚きのあまり体がビクンとなってしまった。
「お姉ちゃんは?まさか置き去りにしたなんて事ないですよね?」
(や、やっぱりこの子ヤンデレの素質が……でも怖くない。普通に可愛いんだけど)
でも溢れるちっちゃいオーラは可愛さを隠せていない。まるで小さい頃の結衣のよ……
「うわ……ロリコンなんですか?」
彼女はジト目で引く素振りを見せる。
「それは違う。あの――」
この子は優華の事をどう認識してるんだ?
「さっきの結衣の友達だよ。あと、気を付けた方がいいよ。俺が話しかけるまであの子君の事ばっかり見てたから」
「そ、そですか……」
優華の事をちょっと信頼していたのか、悲しそうな声を上げる。
「じゃあ銀髪が好きなんですか?もしかしてそんな理由でお姉ちゃんの事……」
またジト目で睨んでくる。
「違う。まあ違くはないんだけど!何て言うか綺麗な感じというか……それでもあってちょっと
ここは共感を狙った方が良い。俺の本能はそう告げていた。
「わかります!可愛いですよね!でも……それを語ってるあなたはめっちゃキモいです……」
一瞬目を輝かせたけど押しが強すぎたらしい。
そこで俺も反撃に出る。このまま問題を放置したまま星外に出る訳にはいかない。
「どうしてそんな人に嘘を?」
「そ、それは……」
俺は近くにある木のベンチに座る。
「なあ、コピー人間って知ってるか?」
「へ?」
彼女はすっとんきょうな声を上げる。
「三つの意味があるんだ。一人は姿形で化けること。二人目は事実過程をすっ飛ばして自分の者にすること。三人目は……」
「名言とかキモいでやめてくれません?」
彼女の目を鋭く見張りこう答える。
「取って変わって侵略することだ」
「だからなんですか?」
「君の姉、有栖川
計画書に載っていた十五歳の天才科学者、有栖川 佳乃。彼女の脳を元にあの計画は始まったそうだ……
「黙らないと殺しますよ……?」
彼女は俺の首根っこを掴み、ポケットナイフを突き付ける。
「無意味なんじゃないか?しかも結衣に嫌われちゃうぞ?」
「最低……!ゴミクズね!」
(やばいやばいやばい血出てるから!)
「俺は別に良い奴でもなんでもない」
「残す言葉はそれだけですか?」
可愛い顔だけどこれは本当に怒ってる。説教染みたのはもうよそう……
「違うんだ!悪かった。少し意地悪な口調になった。でも君はその人を取り戻したいとは……」
「思わないです!!あんな奴……!ううっ……!馬鹿姉貴なんてさっさと殺せば良いじゃないですか!!」
彼女は目を瞑って怒鳴ると、涙を流しながらナイフを落として崩れてしまった。
(すっごい良い香りなんだけど。フローラルな柔軟剤……?)
「ほーらよっ」
缶ジュースが頭に当たる。結構痛い。
「いたっ!あれ?幸樹?こんなとこで何して……」
「それはこっちのセリフだよ」
彼はもう一つの缶ジュースを開けてゴクゴクと飲んでいる。
「だ、だれでぇすか……?」
泣き顔を見せる有栖川さんは俺にまたがったまま、幸樹の方を振り向く。
「もう一人のロリコンだ」
「違う……!どう?似てた?」
幸樹は反射的に俺の真似をして、笑い者にしてくる。
(こいつ……!)
「ふふ。にてました……」
くすりと笑う彼女は滅茶苦茶可愛い。
「でもロリコンはキモいです」
「あ、あはは……」
幸樹も苦笑いを隠せない。
『バァァアアン!!』
見知った雷が窓から彼を狙う。
「ひい!」
「ふぇっ!?」
また……鳴海ちゃんに抱きつかれる。幸せだ。
「大丈夫だ。悪者ロリコンは生理のヒーローに助けられ……」
『ドォン!』
高圧的な壁ドンに驚く。
「誰が生理のヒーローですって……?」
「ごめんなさい悪気は無かったんですお姉様」
棒読みで恐怖という二文字を表す。
「お姉さん……なの?」
「そうだよー。あー先日勝負で……」
「勝負で?どうかしたのかな?」
滅茶苦茶顔を近付けられて威圧される。
「もー!愛美ちゃんったら正直じゃないわねぇ~!」
よく知っている茶髪ボブのお姉さんっぽい人に、愛美は背中をバシンと叩かれる。
「なっ!」
「おいっ!」
『むちゅ』
唇が重なった。目と目が合う。
心臓が今まで無い位にドキドキ……って!
「んん!!」
「んむっ!?」
仄かに甘い味がして愛美の香りがする。文字通りタイガーアイのような瞳。
「はわぁぁ……」
「あはは、かーわいい~~」
鳴海ちゃんは口に手を当てて俺等の唇を見つめる。一方紗菜さんは楽しそうに悶絶していた。
「まだダーメ……」
紗菜さんは愛美の頭を後ろから押さえて無理矢理デイープキスさせる。
「んむっ!ふむひい……!はっ、はぁはぁ、れろむちゅ……!」
愛美はテンパって鼻で息が追い付かないのか、口で息をしようとして唇を覆うほどの熱いキスをしてくる。
「んちゅっ!?れほっ、じゅる……!」
(え、エロすぎる……!このままじゃ)
「ぷはぁっ!あんた!こんなことしてただじゃすまにゃいわよ!」
愛美が顔を逸らして唇を離す。
でもそのせいで、俺は彼女の頬に顔を埋める変態的な絵面となってしまう。
「てへぺろ。でもそういうのもありかも~電気亀甲縛りとか~~」
「キモ……」
(あ~~鳴海ちゃんすがり付いてくるんですけど。滅茶苦茶可愛いんですけど~)
「ねぇ……?乱威智?」
結衣の声がした。気のせいだと思いたい。
「ど、どうした?」
「どうした?じゃなくてなんで置いてったのよ!」
優華もご立腹のようだ。
「うわっ、たらしだ……」
温もりはそっと離れていった。
「な、なんで君達三人はここへ?」
全く話に関係のない三人が紛れ込んでいる。
彼女と二人で話してた所も見られていたんだろうか……?
「たまたま?」
「偶然よ~」
「ま、そうね……」
二人は面白半分だろう。でもあと一人は……
(ビルから見張る位なら一緒に遊びたかったって言えよ……!)
「生理はどした?痛くないのか?」
ちょっとガチな雰囲気で心配してみる。
「なっ!」
「あら~生理来てるの?大変ね~~?」
「またまたませちゃって~」
二人は餌に食い付くように日頃の反撃と出た。
「こいつら!ぶちこ●す!」
愛美の堪忍袋の緒が切れた。こうなったら誰ももう怒りを治められない。
「小さい子の前でそんな言葉はダメよ~」
紗菜さんはそう言いながら幸樹の体を盾に取る。
「ちょ!ちょっと僕を盾にしないでください!」
「だってぇ~お堅いんでしょ?ふっ」
「耳に息はダメですぅぅ~」
(なんなんだこいつら……)
「下に……降りようか?」
「そうね……」
結衣もしっかりと相槌を打ってくれる……ってえっ!
「お、お前ブラは……?」
「サイズが売り切れてたのよ!」
背中をポカポカ叩かれながらエスカレーターに四人で乗る。
「あ、あの……肩触らないでくれます?」
鳴海ちゃんも避難させようとしていたからか、彼女の肩に手を触れて前へ押し出していたらしい。
「へんたい……」
結衣もしれっと可愛い暴言を放つ。
「とりあえず日も暮れてきたし、用済ませたら帰ろう」
捜索の電話をすれば……もしかしたら帰ってくる頃には何か進展しているかも。
(犠牲者が多すぎる……甘っちょろい考えを手当たり次第潰さないと)
「ちょっと!危ないわよ。どうしたのよ。空虚なんて見つめて」
考え事をしながら歩いていると優華から声をかけられる。
「あ、ごめん……」
俺は足元を見ていなかったのだろう。下り階段へと足を踏み入れようとしていた。
「はぁ……色々考えることも大事だけど、少しはあたし達を見なさい。その為にあんたを連れてきたんだから」
「見るなだの見ろだのどっちだよ……」
照れ臭いので、少し小声で愚痴を溢してしまう。
でも本当は……あの映像を見てからずっと心がモヤモヤする。
「ねぇ、乱威智はさ。もしかして……私達といたら疲れる?」
結衣が真面目な口調で話しかけてくる。
彼女は胸元隠しの為、鳴海ちゃんに引っ付いている。下の子は幸せそうな表情だ。
「そ、そんな訳無いだろ。リラックス出来てるって」
「ほんとに?だってここ一週間……訓練も心ここにあらずだし、なんか変だよ?」
でもそれは本当の事だ。学校での訓練も、結衣の武道場でも、何度か彼女に注意された。
「それは……あー、ちょっと緊張してるとか?」
「乱威智は何で悩んでるの?」
「えっと……」
彼女からの率直な質問で困惑してしまう。
「あなたは昔っから抱え込んでどうにかしようとするよね。でも、教えてくれなきゃ分かんないよ……」
「…………」
俺の目を見て真剣に話す彼女に戸惑いを隠せない。彼女を頼らず、彼女の一番嫌いな人を頼っているだなんて……
「そうね。あたしもあんたが見てるモノが……もしかしてとんでもないものなんじゃないかって不安で仕方ないわ」
優華の発言は俺の心を惑わせんとしてくる。
(俺はどうしたら……)
「なあ乱威智。僕が言えた事じゃないかも知れないけど、君を一番大切にしてくれる人にだけは……ちゃんとしなきゃ!後悔するよ?」
しばらく黙っていたジーニズの言葉は、とてつもない説得力があった。
「うわ、喋った……キモ」
「こら、下品な言葉使っちゃいけません」
ジーニズの声に鳴海ちゃんは毒を吐く。結衣の優しい注意に真剣な雰囲気は一瞬崩れた。
「ほんとにまーちゃんなんだね……」
事実を結衣から聞かされたのか、鳴海ちゃんは少ししんみりした口調になる。
「ごめんね。鳴海ちゃん……あんなに悲しんでくれたのに」
ジーニズはわざとらしく涙組む声を捻り出す。
「べ、別にそんな泣いてないもん!」
怒る彼女も可愛いけど……でも、本当に向き合わなきゃならない。
辛い過去も不安な未来も……夢に映し出される限り永遠に。
「せめて行く前に……お願い。本当に今日で最期になっちゃったらって思うと……」
結衣は俺の目を見て不安を口に漏らす。
「わ、分かったから……話すから!泣くなって……!ほ、ほら買い物だけ済ませて帰ろうな……?」
絶対この場所に帰る為に……
それからは結衣の為のブラを複数枚購入し……結局それだけは払わせてもらうことにした。
俺は彼女の持つかごの中身を見る。
(わあ……母さんの以外見たことないけど……なんか可愛いな)
そして彼女の胸を本能的に見てしまい、目が合ってしまう。
「あ、あんまジロジロ見ないでってばぁ……」
「ご、ごめん。あ、ブラとかも見てないから……」
「うそつき……へんたい……」
口を尖らせて凄く恥ずかしそうにしている。
彼女に張り付いている鳴海ちゃんにも睨まれる。目が幸せだ。
「お、お前は選ばないのか?」
ずっと見続けるのも悪いので、優華に話を振る。
「なによ?あたしのも見たいわけ?」
彼女はニヤニヤしながら、自分のワイシャツ胸元のボタンを引っ張っていじり返してくる。
確かにここでその話を振るのは……質問返しに物凄く恥ずかしくなる。
「べ、別にそういう意味じゃなくて……」
「そ」
ボタンは外されなかった。
(な、なにこの敗北感……)
「ま、まだか?」
客や店員にもクスクスと笑われている気がしてソワソワが止まらない。
「まだよ。この子のも選んで買ってあげたいの」
結衣は鳴海ちゃんのも選んでプレゼントすると言い始めた。
(ブラのプレゼントし合いみたいじゃんこれ……)
「え!私のもこの人に見られなきゃいけないの!?というかまだいいよぉ……」
鳴海ちゃんは遠慮する素振りを見せる。
「よくないの!それでも女の子は付けなきゃだめなの!」
「はいどうぞ」
タイミング良く優華が中学生用ブラの小さいサイズをいくつか持ってきた。
(こ、これがロリ愛……?)
「わあ……!可愛いの沢山あるじゃない!」
中には別の意味で小さすぎる物を含まれている気がした。
「ありがとうです……!でもコレとコレとコレだけは……結構です」
「あ、はい」
優華も彼女の遠慮に目を座らせている。
『ぷぷっ……』
結衣と笑い声が重なった……
「あ」
「あ……」
「息ぴったりですねぇ……」
「お前も飽きないな……」
ジーニズもすかさずいじりを入れてくる。
買い物を終えて一同は結衣の屋敷に帰ってきた。
まず、デスティニーとの一件以来の話を整理する為に一つずつ打ち明けた。
「鈴のアレってそうなのか……」
優華は顎に指を当てて思い出す素振りをする。
「優華見たの!?」
「優華は見たのか!?」
結衣とまたしても声が重なる。
「またですか~~?」
「こほん」
「続けてくれ……」
もし愛美もいたら三人ともそうなっていただろう……
「見たわよ。気付いたら治樹の顔殴ってた」
「そ、そうなのね……」
結衣は苦笑いを溢す。
「そ、その……ごめん。嫌いな人に頼るような事して……」
素直に謝る。それしか俺には出来なかった。
「い、いいのよ!そうするしかいけないほど酷かったんでしょ……?」
結衣は手を振りながら大丈夫と許してくれる。
「ああ……鼻が死ぬかと思った」
「ね?話したら少しは楽しくなるでしょ?」
優華にそう言われた時……彼女の過去を打ち明けられた時を思い出した。
「確かに……話したら、なんというか楽になるな」
「うん。私達もスッキリ~~!」
優華は照れ隠しなのか、体を伸ばしている。
ふと結衣に膝枕をしてもらっている鳴海ちゃんに目がいく。
彼女は疲れちゃったのか、ぐっすりと眠っている。
よく見ると……膝小僧や捻挫の痕が足にある。
「結衣……」
「私だって守ってあげたいわよ……」
心配して結衣に話しかける。彼女も色々と忙しいようだ……
「あたしが見ててあげよっか?」
「…………」
「…………」
合法犯罪の匂いしかしない。
「そ、そんな疑わんでも……まあ大抵は鈴がどうにかしてくれるわよ」
「なら良いけど……」
「でも乱威智。鈴もあんたの事凄く心配してるのよ?」
「そ、そうなのか?」
「え。気付いてないの?」
気付いてない訳ではない。透香を助けた後の時だって……
城の病室で思いっきり泣き付かれていた。
「帰ったら抱き締めてあげたら?ふふふ」
結衣も同じことを考えていたのか笑いを溢す。
「殴られるって……」
「そうかしら?案外抱き締め返してくれるかもよ?」
――二時間後――
『ぎゅっ』
華奢な体に抱き着いたら抱き着き返してくれた。
「な、なによ急に……バカにい……」
家の二階廊下にて面白半分でやったら、本当にそうなるとは思わなかった……
「そ、その……」
「なによ……」
滅茶苦茶恥ずかしい。
「いつも起こしてくれてありがと……」
「悪夢とか……辛かったら……教えてね?」
その泣きそうな言葉に俺の心は締め付けられる。
『ぎゅっ!』
「あ、あの……痛いんだけど」
「ごめん」
強く抱き締め過ぎたようだ。
「たらし……!皆の香り、付いてるから……」
「焦げ臭いか?」
「近親相姦!あと……シスコン!」
いやいや、今日はキスしただけ……キス!?
「あ、あと……姉ちゃんの部屋には入らないであげて?」
「生理だろ?」
「そ、それもあるけど……!な、なんか変な声聞こえたから……!」
鈴は物凄く恥ずかしそうに愛美の話をする。
(変な声?)
「え?悪夢?」
「ち、違う……!もっとそそその……えっちいやつ……」
「じゃあそれは夢せ――」
目先には愛美がいた。
「ひっ……!」
「違うんだこれは……」
「ね、ねね姉ちゃん!?そ、その……夢なら仕方ないよね……!」
「ばかばかばかぁぁぁ……」
床に崩れる愛美は号泣していた……
しばらく三人で抱き着き合っていると……
「え、廊下で何してるの……?」
未来が階段を上がってきた。
「あのな、愛美が春を迎え――」
「迎えてないから!ゆ、夢なら良いって言ったじゃん!!」
怒る彼女は顔が真っ赤だ。涙も滲んでいる。
「だって夢じゃないんだろ?自分でしたんだろ?何を思い出したんだろうなぁ?」
「ベロ入れ変態!!うええぇぇ……!!うぐっひぐっ……!」
また泣き出してしまった。
可愛すぎるので頭をよしよしすると、力無くも乱雑に手を振り解かれる。
これは……!延々と出来る。
「うわっ……ベロ入れってまさか……」
鈴がその場からスッと離れていく。
「鈴……?近寄っちゃだめだよ?」
「うん……」
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