10章 七つの大罪編Ⅰ VSルシファー
第37話~悪魔とのご対面~
俺の目の前には……星外調査騎士団本部の基地、移動型船艦ホールでは中型の宇宙船がどっしりと構えている。
ホールの天井が騎士団員達の操作によってゆっくりと開き、夕日がその船のメッキを照らしていく。
「おお……」
俺も見たのは数回しかない。それでもなお光沢に迫力を感じ、今からこれに乗ると考えるとワクワクしてくる。
「凄いだろ?綺麗だろ?」
父さんが自慢気に言うけれど、多分整備をしているのは騎士団の整備員の人達だろう。
「うん……というかどこまで行くの?」
俺はその七つの大罪の悪魔がいる場所すら父さんに教えてもらっていない。
他の家族もいる前で聞くのもどうかと思ってしまい、気が引けていた為聞き出せなかった。
「まあそこまで遠くはないさ。この銀河星を出て隣の銀河系の端っこ辺りかな」
「そ、それってそこそこ遠くない?」
「ほらほら……!心は広く!宇宙はもっと広いんだ。地球だってここからだと八十二番目の銀河系だ」
「と、遠っ……」
父さんは軽く言っているけど、各地にある宇宙中枢星の船を中継しなければ一生かかっても行けない。
もしくは竜の能力を使わなければ……
(兄さん……)
「大丈夫だ。真一は絶対に生きてる。僕達家族の事を一番に考えてくれるなら、そう簡単には……」
「違うんだ」
俺は何故兄さんが地球から出て行ったのか。
最近、治樹さんと俺の協力調査でもう気付き始めてる。
何故ならば、それは……
有栖川佳乃。コピー能力研究の第一人者の彼女。
去年の未処分資料を漁ったところ、彼女の護衛者リストに、兄さんが……
「まあまあ、そんな真剣な顔すんなって!父さんが必ず……」
父さんは見付けられなかった責任を感じてるのか、苦笑いしながら背中を擦ってくれる。
「ねえ父さん」
「なんだい?」
「もしもの話だ。もしも兄さんが、悪いことしてたらどうする?」
「うーん、難しい問題だな……」
悩むなんて意外だった。鉄拳制裁で目を覚まさせるとか言うかと。
「でも、悪いことかどうかなんてさ。聞いてみなきゃ分からないんじゃないか?それがあいつの決めた道だと言うのなら俺は目の前に立ちはだかる。違うなら、父親として尻を拭って助け出してやる」
「そっか……」
やっぱり父さんは覚悟が出来てるんだ……!
(凄いな……でも俺だって!)
握り拳に自然と力が入る。覚悟を決めてここまで来たんだ。だったら……!
父さんはまだ言葉を続ける。
「兄弟だって同じだ。長年共に生き延びてきた仲間だろ?家族だろ?大事なのはお前がどうしたいかだ」
紗菜さんや愛美の辛そうな表情が思い浮かぶ。
「兄さんがそんな世界で生きてて、誰かが苦しむなんて……」
(でも兄さんの気持ちはどうなるんだ?もしそうだとしたら……でも!)
「大切な人を傷付けようとするなら、そいつら纏めて引き釣り上げる。そして悪の根元は俺の物にする……!」
「お前はそうじゃなきゃな乱威智!お前は愛美より心が何倍も強い。どんな悲劇があっても……」
その言葉で思い出した。父さんと戦闘中に見たあの夢を。
「あと父さんさ。戦いの時、俺に精神系の術かけたでしょ?」
「なんのことだあ~?」
父さんは急に目を逸らして口笛を吹き始めた。
「まさか君がアレを乗り越えられるとは思わなかったよ……」
ジーニズが呆れたような声を上げる。
「そ、そんな凄いやつなの?」
「落とせるって自信あったんだがな……一応宇宙で最上級と言われる精神幻覚魔法だ」
父さんは悔しそうな声を出すと、魔法説明は自信ありげにえっへんとした。
「う、うわ……」
(俺はそんな物を……)
「因みに、
父さんがジーニズより早くに説明し始める。凄い嬉しそうで微笑ましい。
でもそんなものを……
「夢は一瞬で沢山見るだろ?脳から相手の弱みを悪夢として引き出す無限の精神魔法。だから竜と魔力を掛け合わせないと術をかけられないんだ」
「だからあの時……というかずるっ」
そもそも一対一でやりたかったのに……
「そっちが二人ならこっちだって二人で構わないだろー?」
反論の余地もない。
「それに、これからお前の前に立ちはだかるのはズル賢い奴ばかりだ」
父さんと話しながら船が発進するの待っていた時。
「乱威智ー!」
結衣が来てくれた。こちらに向かってくる。
「結衣……!」
誰も来てくれないんじゃないかという俺の心は一気に解された。
後ろには未来と透香に引っ張られる鈴、幸樹や優華、紗菜さんや母さんも……
「ば、ばかねぇ……!な、何泣いてるのよ……!」
結衣にハンカチで涙を拭かれる。至れり尽くせりでちょっと恥ずかしい……
「あ、ありがと……」
「そ、その、ね?来たらって説得はしたんだけど……」
優華が気まずそうに愛美の事を切り出す。
「お姉ちゃんのばかぁ……」
透香も不機嫌そうに口を尖らせている。
「良いんだ。愛美らしいじゃんか。しかもまだ本調子じゃないんだろ?」
「そ、そうね」
「乱威智、あまり女の子にそういうデリケートな話はしないの……!」
母さんは溜め息を吐きながら注意してくる。
「あー、うん。ごめんごめん。でも帰ってくるし」
「勝つんだよ!しっかりご飯は食べてね?」
未来も心配そうに俺の手を掴んで振る。少し痛い。
「だ、大丈夫大丈夫」
「試練忙しくてもオナ」
すかさず結衣が紗菜さんの口を塞ぐ。
俺は逆に一番心配な子をチラリと見る。
目を逸らされた。
「チラ」
面白いのでしつこく近付いてみる。
「チラチラ」
「んぅぅ……頑張んなさいよ!」
鈴からの言葉が聞けた。頑張れそうだ。
「お前も気を付けろよ」
「うん、分かってる……」
能力の事だと察したのか、一応自覚はあるようだ。
「優華、父さんと母さんが忙しい時、鈴を頼んだぞ」
「ええ!」
優華は勿論と胸を叩き……目を逸らして鈴に戻す。
「お前もなんかあったらこいつをすぐ頼れよ?」
「分かってるって!」
「私達もいるからね……?」
結衣が近付くと、彼女は恥ずかしそうに優華の後ろへ隠れる。
「ぼ、僕もいるよぉ……?」
「帰ってお触りロリ変態」
鈴の言葉に俺は過敏に反応する。
「大丈夫だよ鈴。あたしがいるからぁ……!」
けどお構い無しに優華は鈴の体を撫で回してる。
「ちょっ、やめ……!?優姉!久しぶりに抱き着くの、もおやだぁ……」
「二人して酷いぃ……」
「お、おい幸樹?」
「はい」
彼は認めたのかしっかりと返事をする。
「鈴は触るな。触るならホラ」
俺は未来の方を指差す。
「帰ってきたら乱威智だけ三日間ゴーヤチャンプルにしたげる」
「え……もしかして、僕の事嫌いになっちゃった?」
「べ、別にそうは言ってないじゃん……」
未来も満更では無いようだ。
「そ、そろそろ行くか……」
父さんはこの話題辛そうだ……だからか出発しようと声をかけてくれる。
「あ、うん。ちょっと待って」
俺は結衣の前に行き、渡したかった物を渡す。
「結衣」
「な、何……?」
赤と白で縫った御守り位の巾着を渡す。
「これって……?」
「竜化結晶と……その、手紙だ」
奥で未来と紗菜さんがニヤニヤしているのが分かる。
この一週間の結衣がいない時を見計らって、巾着の裁縫をご教授頂いた。
二人はほぼじゃれあってた……未来が弄られてたに等しかったけど感謝している。
「あ、ありがと……大切に、する」
「ああ……」
これ以上彼女を見ていると、抱き締めたくなってしまいそうなので振り返って船に乗ろうとした。
「おい待て乱威智!」
走ってきた治樹さんに肩を掴まれ止められる。
「ど、どうしたんですか?ってクマ……」
明らかに徹夜明けの雰囲気なのか髪はボサボサだ。
周囲は固まっているどころが緊迫の雰囲気を出している。未来だけは彼を心配している。
「お前の行く隣の銀河系に、はあはあ……
「時現夢界の覇者?」
「馬鹿!前に教えただろ!アザトースだ!」
『なっ!?』
周囲は驚愕の声を上げる。
「乱威智……!」
母さんは強い口調且つ静かな声で俺を呼ぶ。
(い、今話さなくても……!母さんがまた止めようとしてくるじゃないか!)
宇宙最強の邪神、アザトース。その邪神はこの星にある言い伝えと深く関係していた。
『原初の能力者の伴侶、
「気を付けろ。お前の味方である存在とは言え宇宙最強の邪神だ。今のタイミングで現れたという事は必ず接触してくる」
「ああ……充分に気を付ける」
「行くぞ……乱威智」
父さんも息を飲み、俺に声をかける。
そして俺はこの星を一週間遠征の予定で旅立った。
「ここが最初の試練星か……」
小一時間で着いた星は廃れ、建物も全て崩れて地面の瓦礫と化していた。
(ここが堕天使の星……)
どころどころにはボロボロに破壊された天使銅像の羽らしき物がある。
「じゃあ乱威智!頑張れよ!」
「うん!」
船に乗る父さんに返事をする。
そして船は物凄い速さで空高く飛んでいった。
七つの大罪の悪魔討伐。
その最初の試練は堕天使ルシファー。
「傲慢ねえ……」
そんな話はよく聞くが……どんな感じなんだろう。プライドが高いにも色々と種類がある。
辺りは忽然としたままで風一つ……
「ん?」
風一つ吹かないのはおかしくないだろうか。ルシファーは黒い翼があったり、さっきだって船が……
「ジーニズ、幻覚か?」
「へ?能力の反応なんて無いぞ」
ジーニズも惚けた様子で驚いている。
(何かがおかしい。ただの勘繰り過ぎかな……)
普段そこにあるはずの風、匂い、温度の感覚がおかしい。凄く違和感を感じる。
「ジーニズ、
「分からんが……君が警戒するというなら」
俺は警戒し、自分の心臓を刀で貫く。
「ぐはっ……!?」
違和感が無くなっていく。
そして前方数メートル、透明化していた堕天使の姿が見える。
「なーんで冷静になるかなぁ……」
三メートル程の大きさの堕天使は、不気味な笑みを浮かべる。
「流石だ乱威智……」
「多分だけど、油断、慢心はこいつの幻覚という武器になる……」
俺は白炎を発動したまま、刀を抜いて構える。
「初対面から失礼ダッタカな?」
ルシファーは少し片言口調で様子がおかしい。
「いやぁ~~最近旨い天使職の奴等が星に近付いて来なくてさぁ……」
そう話し始めるルシファーは、化け物のような黒い爪を舌で舐める。
「でも神なら……フフッ」
その歪んだ笑みが戦闘開始だと俺は察した。
間髪無く振りかかる黒い
「ぐふぁッ!?」
頬に鈍痛が走り、吹き飛ばされる。
「あぁ、滑稽だな。どうして人間に翼は生えないんだ?」
どうやら翼先で殴られたらしい。
「なるほどな……」
あれなら視界の外から不意討ちが出来る。そういうことか……
「もう少しこだわりがあると思えば……呼ばれるあだ名なんて物は確かに当てにならないもんな」
俺は奴に同情する振りをして嘲笑う。
「貴様、人間の癖に我を見下したな?」
やっぱり根の部分はそのままらしい。
という事は……愛美と同じで話し合いはかなり有効だ。
「なあ、お前。偶像崇拝って何だか分かるか?」
「コロス……!」
直接的な挑発をしてみると、強烈な剣幕で両爪を振りかざしてきた……
刀と鞘で受け止めてから見てみると、黒い眼球に白い瞳という堕天使らしい目をしていた。
ルシファーは偶像崇拝に異を唱えて堕天したと聞いたことがある。
「貴様、頭がおかしいのか?」
俺は迷わず立体影を作り出し、奴の背中を刀で突き刺す。
「怒って気を逸らす程おかしくはないさ」
奴の翼の根元をえぐる。そしてもう一人の立体影を作り出し、両翼を同時にえぐる。
「グゥッ……!」
奴は体を丸めこむ。とてつもなく嫌な予感がした。
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