3章 愛透(えと)救出編Ⅰ
第12話~侵入者の正体~
暗闇の中でただ一人、愛美は一方を見つめている。
そこには姉の未来がぽつりと立っていた。愛する姉が黒いオーラを纏い、異形な姿となる。
そしてゆっくりと禍禍しい黒い手を伸ばし、蝕むように愛美に襲いかかってくる。
「ぬふぁっ!!」
俺は被っていた布団を剥ぎ、周りを見渡すと自分の部屋だった。
どうやら悪夢を見ていたようだ。
でも何故愛美だったのか?まるで彼女が姉の未来を拒む気持ちが流れ込んでくるようだった。
時計を見ると朝の五時だった。散歩をしたり時間を潰していたらあっという間に皆起きていた。母さんと父さん以外は。
それから未来の用意した朝食を食べ、結衣は一足先に家に戻った。学校に先に着いていたのを見ると、無理をしていないかと少し心配になる。
あれから数週間が過ぎ、四月も終盤に入っていた。
早速午前から能力計測が行われた。皆がそれぞれの能力に合った戦闘服を用意していた。
俺の戦闘服は黒い袴に濃い赤の着物、侍のような戦闘服だ。
場所は校庭が物理能力、
校庭が物理、他が校内なのは測定方法で分けられているから。そして属性能力も校庭なのは、人数が多いから。
属性能力は能力解放者の九割が、必ず保持しているという計測結果が出ていると習ったことがある。
それぞれ解放した能力を持つ生徒は、属性ごとに大きいグループに分けられた。
未解放の生徒は体操服を着て、組手など自分達に合った自由なトレーニングをやっていた。
俺のような炎と闇の二つの属性能力。もしくは未来だと闇属性、念力などの複数の能力を持つ生徒はちらほらいた。
(やっぱり大人と比べると明らかだな……)
目前の敵とは考えたくないと思っていたら、未来が話しかけてきた。
「乱威智はどっち先にいくの?」
彼女の笑顔の奥には別の未来が……
「姉さんに任せる」
「んじゃあ闇属性先行こう!どんな感じかまだ分からないし~」
先程の夢もあって少し動揺してしまった。
やはり彼女の服装は、いつもの赤いパーカーだった。だが下の服装は、いつものベージ
ュの短パンではなく黒のスポーツ用レギンスだった。
一応未来には忘れてほしくないことがあったので聞いてみた。
「
「えー、めんどいなぁ」
「姉さんの力でそれはまずい」
聞いてみて正解だった。すっぽかすつもりだったらしい。
姉さんは真面目な所が多いが、本当に嫌な事や面倒臭い事は容赦なくすっぽかす。
「べ、別に言われなくてもちゃんと行くもん……!」
口を尖らせて少し怒っている。
物理特化とは中々審査が厳しい物理能力項目だ。
余程の身体的強化でないと認められない。速さ等の敏捷さは含まれていないため、俺で
は無理だろう。
そう考えつつも俺の視線はレギンスに釘付けだったらしい。
未来がジト目でこちらを見ながら話しかけてくる。
「じろじろ見てる……そんなにこれ好きなの?」
「あ、あぁ悪い……ね、寝不足で……あはは」
ほぼ無意識だったのでバレると凄く恥ずかしい。だからかちょっと焦ってしまう。
「ふふ~ん」
笑ってごまかしが利く寛容さ。それも姉さんの良いところだ。
その後、闇属性の能力の基礎を教えてもらった。
使い過ぎない、定期的に使用するなどのコントロールが難しいと説明を受けた。
周囲に影響を与えかねない能力ということもあり、一人一人順番に専属の監督が計測を
行うことになった。
「使う時とそうじゃない時、メリハリをつけなきゃいけないということかぁ」
「そんな知識、僕に聞けば応用まで全て教えてあげよう」
ジーニズがまた知識を自慢したがっている。
「それより姉さん、今朝話したこと分かってるよね」
「うん。計測の反応見とく」
愛美と
その呪術?の影響で愛美から吸い取り続けているのか、
それとも消耗して減少したままなのか、確かめる必要がある。
未来が戻ってきて伝えられた測定器の結果は普通値。
どうやら大して回復していないのだろう。一安心だ。
俺はというと……測定器が九割の針を指していた。
「す、凄い……!でも君、気を付けるんだよ?」
白衣のおじいさんの先生に、扱いには気を付けるようと注意を受けた。
闇属性が強いといわれてもいまいちピンとこない。ジーニズはいずれ分かるの一点張り。
(まだこいつ何か隠してるのか……)
その頃愛美は、結衣に連れられて光属性の検査に来ていた。
「はぁ……間に合ったみたいで良かったわー」
結衣は息を整えると安堵している。
「はぁ、はぁ……今じゃなきゃダメなの?」
あたしは息が上がったまま、膝に手を突いて彼女に聞いた。
急いで走ったからか二人とも息が上がっていた。
「ダメだよ……光属性と闇属性は専門の先生がこの時間しかいないから」
だとしたらあの二人も今頃検査してもらってるのだろう。
(あたしってやっぱり弱いのかな……?あたしがもっと、もっと強くならなきゃ……!例えアレを駆使してでも!)
気が付くとあたしの体の周りには、白と黄色の電撃の様なオーラを纏い始めている。
「あれ……?」
気が付くとあたしは座り込んでいた。足が痺れて動かなくなり、冷や汗を吹き出す。
「え、愛美!?大丈夫!?立てる?」
結衣に手を差し出される。だけど全身の感覚麻痺が怖くてそれどころではなかった。
「わかんない……!あ、あたし……どうなっちゃうの!?」
パニックが治まることもなく、強烈な寒気がする。
(ち、違う!これじゃ強く、なれない……!そんなのは分かってるのに!と、止められない……)
体が思うように動かなくて……声が震えて涙が滲む。
「落ち着いて……!きっとすぐ良くなるから!肩貸してあげるから掴まって……!」
結衣も突然の出来事に焦っていても、私に肩を貸して支えてくれる。
「い、痛っ!!」
あたしに触れることを許さないかの様に、周りの電撃が彼女の手を弾く。
(昨日はなんともなかったのに、ど、どうして……?)
「今、助けるから……!」
結衣は再度あたしの肩を持とうとする。
強く掴まれたせいか、電撃が彼女も巻き込んでしまう。
「うぅっ……!」
彼女も辛そうな声を上げる……
腕も痺れているのか感覚が無い。触れられただけで痛みが全身に響く。
「ゆっくり、じゃないと痛い……」
何とか訴えるが反応がない。
彼女は私に掴まりながら、もう膝をついて崩れていた……
そのことから相当なワット数の電力が流れていることに気付く。
「ごめんね……私も足が……」
(う、うそ……こんな強さ、望んでない……)
電撃が彼女も巻き込み始めていた。
「も、もういい……から!逃げ……て!!」
ただ抱きしめられる痛みに、悲しさを感じることしか出来なかった。
周りの生徒は次々と逃げていく中、一番頼りにしている人の声が聞こえた気がした。
どうやら向こうの方が騒がしい。乱威智が近寄ると、愛美と結衣が座り込んでいた。
「愛美!結衣!」
「乱威智、まずいぞ!まず結衣を引き剥がすんだ!」
ジーニズのいきなりの指示。全く状況が掴めないが、まずいという緊迫感はすぐに伝わった。
「な、何が起こって……!?」
「早く!」
ジーニズが病院の時のように焦っている。
(理由聞く暇が無い位のことなのか!?)
「大丈夫か!?」
「力が、吸いとられる、みたい……で動け、ない……!」
二人に問いかけると、結衣が苦しそうに答える。
(力が吸いとられる?まさか結衣も光属性だからか……?愛美の属性変換状態が関係してるのかもしれない……)
考えながらも急いで結衣を引っ張ろうとするが、指に激痛が走る。
「うぐっ……!はあぁぁ!!」
それでも力の抜けた結衣をなんとか引っ張り出す。どうやら彼女だけは電撃の輪からは外れたようだ。
「姉さん!結衣を頼んだ!」
「わかった!」
未来に結衣の介抱を頼み、俺はそっと愛美の元へ近付く。
「触ったら、ダメよ……どうにか、助けてあげて……!」
結衣は電撃のダメージか、かなり疲労している。そして小さな声で注意してきた。
彼女の注意のおかげで緊張が走る。
「愛美!今なんとかしてやるからな……」
「そんなこと言っても……ここまで来たら、暴走する前に眠らせるしかないぞ!」
俺は愛美を心配するも、ジーニズが選択を迫ってくる。
周りの教師達は生徒の避難に手一杯だ。誰か専門家はいないのだろうか。
(そうだ……!
「ジーニズ、踏ん張れるか?」
彼に問いかけるも、怒りの気迫がどっと伝わってくる。
「冷静になれ!戻すだけじゃ治まらないレベルまで来てるんだぞ!回復は失った光属性を増やす可能性もある!そしたらもっと悪化するぞ!」
こいつの言ってることは間違ってないのは分かってる。
ふと今朝の悪夢の記憶、彼女の涙が甦る……
「くそっ……!」
拳を強く握り、柄に手をかけるのも抵抗してしまう。
「早く!」
ジーニズに急かされる。
だが彼女だけは傷付けたくない。そんな気持ちでいっぱいだった。
(どうにかしなきゃいけない……!けど愛美をあの夢の中で独りになんて……)
「君達、そこを退くんだ」
ふいに声が聞こえて見上げると、白衣を着た紫色の髪色の青年が立っている。
「あ、あんたは……!」
「なんだ?その子を助けて欲しくないのか?」
その男の見下したような喋り方は聞き覚えがあった。
「あ、あぁ頼む」
「は?」
俺が軽々しく頼んで後ずさると、聞こえないふりをしている。
「お願いします……治樹さん!」
振り返ると未来が頭を下げていた。
「分かったよ未来。ぶつかる事しか出来ない奴はこれだから困る……」
彼女に優しく答えると、俺の目の前を通りながら嫌味を言う。
治樹さんは藍色の眼鏡を中指で押さえながら、治癒の準備をする。
幸樹の家は代々治癒能力や槍術を得意とする家系だ。
彼は特に優れているらしく、父さんの管理している星外騎士団の回復支部で長をしてい
ると聞く。
年も若く真助兄さんの一つ下で、二つ年上の先輩に当たる。
見た目も薄紫色の天然パーマ、どことなく幸樹と似ている。
会えば嫌味ばかりだが、本当は良い人だ……膨大な魔力を持つ兄さんともよく一緒にいた。
考え事をしていると、彼は治癒道具の準備を手早く済ませて、治癒能力を発動させる。
彼の手元から透明で緑色の回復のオーラが溢れる。
集中してる為、黙っている。
でも横たわった愛美の状態は中々変わらない。
白と黄色の電撃が、バチバチと彼女の体を覆っている。
「ちょっと手伝ってくれ」
彼は急に俺の方に振り向き声をかけてきた。
どうやらあまり状況が良くないらしいのか汗をかいていた。
「直接な治癒はできないですけど……」
「それは別に良い。光と雷の対となる闇と炎の能力が多少必要なんだ」
愛美の助けに自分の能力が必要なら選択肢は一つしかない。
「分かりました」
一つ返事で答え、愛美の近くに座る。
「少しで良い。そうすれば対称的な能力として打ち消し合い、暴走が弱まるはずだ」
説明を受け、その通りに軽く手を添え力を込める。
そうすると黒の炎が手元で揺らめき、電撃が少し弱まった。
「そのまま、そのペースで続けるんだ」
彼は先ほどと同じく治癒能力をかけ続け、しばらくたった。
そうすると電撃も徐々に無くなっていき、愛美の状態も良くなっていく。
完全に治癒か終わると、彼は後片付けを始める。
「原因は……対称能力の影響なのか?これは……?」
「そうかもしれないです。愛美は元々、能力のコントロールが苦手だった所もあったんで」
少し不思議そうに理由を聞かれたので、眠る愛美を気にしながらも会話を続ける。
「以後気を付けろよ。何せ
くなる可能性もある。二つの能力の対称であるお前が、なるべく目を離さないようにして
おけ」
彼は一度口ごもった後、気を付けるようにと注意を続ける。
「やっぱりそうですか……」
返事をしたがどうもうまく入ってこない。
雷属性の対称があることを知らなかったが、それ以上に彼女の
(自分を思い通りにできる能力なんて……そんなの無茶苦茶だよな……)
彼は処置を終えると校内の方へ帰っていってしまった。
その後、時間は三十分程遅れていたが予定通り検査と測定、説明などが終わった。
愛美は保健室で休み、担当の先生が見てくれているようだ。
この訓練校の生徒は、昼御飯を弁当か学食で済ませなければならない。
授業開始時間も押したままで、焦ることも無く安心した。
初めてだったこともあったが、今朝の出来事で周りとは馴染むことは無かった。
だからいつも通りの友人で充分だと思っていた。
だが俺が先生に呼ばれている間にどこかへ行ったのか、教室には顔見知りすらいなかった。
食堂に向かってみると顔見知りはそれぞれ別々の席にいた。
(白情なやつらめ……)
近付けそうな人の少なさではなかったので誰もいない席に座ることにした。
「一人で良かったのか?」
「別に良い。心配事もあるしな。とりあえず飯取ってくる」
さっさと昼食を済ませ、保健室に向かうことにした。
「静かだな」
ジーニズの言葉通り、向かった保健室は静かだった。愛美は寝ているのだろうか。
落ち着いたとはいえ、またあんなことが起こるかもと考えると心配になる。
「失礼しまーす」
言葉と同時にドアを開けると、向かい側の壁を背に窓をチラチラと見ている小柄な少女
がいた。
髪型は紺色髪にポニーテール。
外見は忍者やスパイの様な隠密特化の服装をしているが、真っ昼間では全く意味を成していない。
でも外見に何か引っ掛かる、懐かしいような違和感を感じた。
彼女はこちらに気付くと、急いでフードを被った。
「え、あぁ。あんたか……」
俺を再認識した途端、被ったフードを外した。
「お前……どこかで会ったか?というか何してたんだ?」
「おいおい……よく見ろよー」
少女は慣れた雰囲気で話しながら、ベットの方を指摘する。
カーテンを開けると、布団は剥いだままで愛美はそこにはいなかった。
「抜け出したか……」
後ろから少女の呟く声が聞こえる。
「お前何か知ってるか?そもそもなんで俺のことを知ってる?」
そう言うと、少女は呆れたように溜め息をつく。
「まぁ……あんたとはあんまり面識が無かったからね。簡単に言うとあんたの親父さんの
使いだよ」
「父さんの使い?」
こんな鈴と同い年位の小さな女の子を、父さんが使いとして雇うのか?少し不自然だと感じた。
「乱威智、あいつの目に気を付けろ。記憶を操作してくる可能性がある」
ベットを背に向き合っていると、ジーニズが小声で話しかけてきた。
「竜神様の知識はおっかないなぁ」
俺のことだけではなくジーニズの正体まで知っている。
(父さんから教えてもらったのか?)
家族の事情を簡単にバラすなんて……秘密ばかりの父さんには少し考えられないな。
「知り合いなのか?」
「君の方こそどうなんだい?」
「少し引っ掛かるが全く記憶に無い」
ジーニズも俺も知らないということを、目の前の少女に証明する。
「あぁ!わかったわよもう!私の名前は戸澤透香よ。焔お兄ちゃんは、知ってるでしょ?」
少女、透香は吹っ切れた様子で自己紹介を始めるが、途中で口ごもった。
「いやいや戸澤は一人っ子……じゃなかったっけ?」
単純な疑問をジーニズに投げかけてしまった。
「僕に聞かれても知らない。だが指定の記憶を消せても……修正して書き換えることはまだ出来ないみたいだな」
わざわざ自己紹介したということは――ジーニズの意見は理に適っている。
つまり自身の正体の記憶を周囲から消しているということか?
「あ、まあいっか……どうせ消すし。それよりあんたはあの人を追うの?」
「あいつのことを何故?会いに来たということはお前は……記憶を消しに来たのか?」
正体が知れない。愛美の名前は伏せた。
仮に記憶を消せる能力。それを持つ彼女の目的を考えると……怪しい事しか思い当たら
なかった。
そこに気が付くと、彼女は腰に装備した鉄のダガーを二つ取り出す。臨戦体勢を取り始めていた。
「おい、待てって!」
「ちっ……」
透香は表情ががらりと変わり、舌打ちしている。
仕方なく村正の柄を掴む。
でも彼女の表情はずっと嘘をついていた……とは思えなかった。
何か深刻な何かを抱え、屈して諦めてしまったような不幸そうな表情だった。
彼女は二つのダガーを擦り合わせようとしていた。
「目眩ましだ!」
ジーニズが叫んだと同時に、彼女のダガーの擦り合わせた部分から閃光が走る。
目を見開いた時には彼女はもういなかった。
窓から飛び出したのか保健室の窓が割れている。
「あの子より先に愛美ちゃんを見つけなきゃまずいぞ!」
「あ、あぁ、わかった!」
しどろもどろになりながらも答え、言われるがままに動く。
一難去ってまた一難。いなくなった愛美を探すことにした。
校内の廊下から教室、食堂、校庭などを走り回るが……来たばかりで場所も分からなかった。
一通り探したが、どこにも愛美は見当たらない。
校庭の端で春の暖かい日差しが差すも、走り回ったせいで汗だくだ。
春の風が涼しくて気持ち良いが、気分はそれどころではなかった。
「もしかしたら家に帰ったのかもしれないな……」
あそこまで能力を暴発させた彼女の気持ちを考えると、それしか考えられなかった。
そんなとこは未来そっくりだったりする。
「親父さんに電話したらどうだ?帰ってるのかもしれないし守ってもらった方が……」
ジーニズがあれほど警戒していた父さんに連絡をしようだなんて意外だった。
息を切らしながらも彼に質問した。
「でも使いとか言ってなかったか?」
「君はどっちを信じるんだ!?」
「わかったよ……」
彼の焦った様子に驚きながらも、黒い端末を取り出して画面をタップして父さんに電話をかけた。
『ん?どうしたぁ乱威智。お前から電話なんて珍しいな』
発信音が鳴り、出るまで少し待ったが寝惚けた声が電話越しに聞こえてくる。
「保健室にいた愛美がいなくなった。学校全部探したけどだめだ。家に帰ったりしてないか?」
とりあえず簡潔に状況を説明した。
『え、愛美がいない?ちゃんとトイレまで探したかー?』
元気溢れる冗談が端末から聞こえてくる。
(はぁ、こんな時に洒落にならない冗談はよしてくれ……)
恥ずかしがりながらキッと睨み付ける彼女の顔を思い出す。
でもこれは多分冗談じゃない。父さんは彼女に関してはかなり甘いところがある。
「いやいや、とりあえず家にいるかだけ見てくれない?」
『わかった……ガタッ、ドタドタドタ――』
電話越しに移動する物音がしばらく聞こえる。しばらくすると返事が返ってきた。
『靴はある。な、何て接したら良いかな?』
靴があるということは帰っている。一安心して安堵の息を漏らす。
でも逆に父さんは酷く動揺している……
「ありがとう。多分能力のことで悩んでると思う。とりあえず一緒にいてあげてほしい」
不良に走ってしまった訳では無いことをしっかりと説明した。
『わかった。でもこれから父さんもお前たちの学校に用があるんだけど……』
状況をしっかり説明し切れてないと、父さんも困惑してしまう。
単刀直入に戸澤透香のことを聞いてみるしかなかった。
そして俺は先程起きた事も説明した。
『と、戸澤くんか?妹がいたのは知らなかったが記憶を消す能力なんて初めて聞いたぞ?それに父さんは、そんな鈴と同じぐらいの金髪の子を雇ったりなんかしないぞ……!帰ってきたのにいくら娘が冷たいからって……』
父さんは新鮮な反応で嘘をついてるようには思えない。
(や、やっぱり気にしてたんだ……)
どうやら使いということは近付くための嘘だったのだろうか?
後ろでジーニズが胡散臭いな……金髪フェチか?とか呟いているが、気にせずこれからどうするかを伝えた。
「わかった。俺はとりあえずあの子を見つけ次第連絡するよ」
『え、愛美ー?も、もしかしてグレちゃった……?』
『ぱ、パパ……!?』
それを伝えた時には、父さんはもう愛美と話している様子だったので電話を切ることに
した。
「ジーニズ、どこにいるかわかるか?」
彼に聞いたが反応がない。
「どうした?」
「乱威智……あれを見てくれ」
太陽に背を向けていたが振り返って校庭の周りを確認する。
「空だよ、空」
彼の言う通り空を見上げると……
昼間の空には一際目立つ黒い竜が飛んでいた。そのまま竜は空高くまで一直線に飛んでいく。
「奴と同じ能力の反応だ。目的を終えたのか退却か……でも宇宙に帰っていくってことはあの侵入者で間違い無さそうだな……」
逃げるとしてもこんな時間に飛ぶのは不自然だ。急を要するとしたら透香で間違いないだろう。
鱗から光沢を帯びたあの黒い竜と、いつか戦うことになると思うと恐ろしくなった。
「能力暴走前に何か細工されたのか……?もしそうだったらあのチクチク医者にも気付かれてそうだが……だとしたら相当な技術や術式が必要になる」
ジーニズの推理が正しいなら彼女が帰っていった宇宙で、誰かが何かを計画していることになる。
そんな手の凝ったことを単独でやるとは思えない。
「組織で仕組んでたかもってことか?」
「憶測だけどな。ともかく彼女の喋った、戸澤とやらの現在についても調べる必要がある」
でも愛美がアレを無意識に使っていたら、仕組まれるなんて道筋は破綻する。
それを奴らが気付いているのならば……睡眠時を狙ったのにも納得できる。
無意識に発動出来る能力……人間を支える中枢神経にあるのならそれは可能だ。
脳が混乱して無意識に体に情報を流す。そんな現象も日常ではある。
(みたいな事もどっかで聞いたなー)
だから彼の憶測を真っ向から否定する。
「でも残念ながら今回はその線は無いな」
「何でそう言い切れるんだ?」
疑問に思ったジーニズは問い返してくる。
「絶対能力、
んだ通りにしか転ばない。絶対能力なら中枢神経と共にある。だから意識せずともってやつだ。まさに才能だ」
悠長に欠伸をしながら、一番嫌いな能力について彼に詳しく説明する。
「神をも退ける絶対の能力ってやつか……」
でもそれを彼女が使っていたというなら……あの暴走も本人の創造の範疇だったって事だ。
また何か悩んでいる。そんなとこだろう。
生理が始まったとか、おっぱいに違和感感じるとかそんな簡単な悩みであってほしい。
だがそれとは別に透香の存在も気になる。でも何か……大事な事を忘れている気がした。
むしろあんな困った顔で、戸澤焔の話をされたら気にせずにはいられなかった。
緊張感が緩み、汗が少しずつ引いていく。
あっという間に授業が始まる時間になったのか、予鈴が鳴っていた。
校庭でトレーニングしている上級生達も校内に戻っていく。
「教室に戻るか……」
ながらはいけないと分かっていたが、父さんにメッセージを送りながら教室に戻った。
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