第45話~竜神達の過去~

「原初の神は邪神と女神だ。お前達は奴らの監視をしてもらいたい」

 真っ白な世界で、神らしき青いオーラを帯びたお爺さんが三頭の小さな竜に話をしている。


「はい」

 我に続き、

「あぁ……」

 聞き馴染みのある声。

(あれがジーニズか……!)

 ジズも悲しそうに頷く。


 姿は緑色の宝石を纏い、赤い目をした刃竜……と言ったところだろう。

 所々に黒い刃が剥き出しになっている。

(村正と同じ刃色……)


「なんで神様がやらないんですか?」

 抗議するだらしない一体のデブヤモ……地竜。

 黒い皮膚に赤く浮き上がった脈動を持ち、ぐってりとしている。

(相変わらずデブヤモリだな……幼少ベヒモスか)


「手が追わん。それに奴等、私が干渉できないように人間達を人質に取った」

 お爺さんはため息を吐きながら彼への対応を済ます。

 そして事情も少し話してくれた。


「人間……?」

 今度はジズが反応する。

「あぁ、お前らと同じ感情を持ち、力を持つ生き物だ」



 いきなり場面は変わる。どうやら従えていた竜達が……暴れている?

 人間達が能力を公使し、それを何とか収めていた。


「どうするんだジズ!?ベヒモスがまた人間を――ジズ?」

 遠くで眺めていたリヴァイアサンはジズに問う。姿形も立派な竜となっていた。

(人間が来た後か……かなり飛んだな)


「知らん……」

「おい!」

 どうやら問いかけとタイミングが合っておらず様子がおかしい。


「うるさいうるさい……ずっと耳元でッ!あぁ……ヤメ、ロ……!」

 ジズは頭を抱え、段々と様子がおかしくなっていく。


「ジ、ジズ……お前まさか暴走して――」

『ガブッ!!』

 次の瞬間、ジズに肩を噛み付かれる。


「やッ、やめろ!!」

(わ……リアルだ。ともかく暴走が感染類ではない事は分かったな……)

 それが感染類であるのならば、戦闘中に何かがある、もしくはジズ自体を恨んでなければならない。


 でも正直、感染類の説は理に叶っている。

 暴走自体が起きたのが人間がやってきてから。

(絶対能力と関係はある……風な事はあいつらも言ってたけど)

 デスティニーとサタンを思い浮かべる。


「離せッ!」

 ジズを両腕で振り払って遠ざける。


「グゥゥ……」

「クソッ……!このままじゃ私達竜は……神様、今何をしてらっしゃるんだ……」

 リヴァイアサンの口振りから、神様とやらはしばらく不在らしい。


「アガッ……」

 突然ジズの胴体が刃物で貫かれる。


「お、おいッ!お前は……」

 貫いたのは……あの村正を持つ少年だった。


「呪いは引き伸ばす……あんたはこいつを連れて逃げてくれ……!」

「な、何を言って……」

 少年は気を失ったジズをゆっくり下ろして介抱する。


 すると後方から眠ったレイを抱き抱え、リヴァイアサンの背中に乗せる。

 リヴァイアサンは拒むことなく、それを受け入れる。

(特殊な少年として認識されていた……?)


「馬鹿な上流貴族が、竜の飯に細工してやがった……早く!!連れていける竜を連れて逃げろ!星外なら細工は解ける……はずだ。俺が何とか奴等を止めたら迎えに行く!」

 少年は焦った様子で事情を話している。


(魔術師か……なら外的要因である事は間違いない。ならば薬か?でもその頃の科学文明はそんなに……)

 周囲を見ても風景は江戸や中世ヨーロッパの建物ばかり。

 何せ話している場所は岩辺の崖だ。


「そうか……気を付けろ!神様が帰ってきたら事情を――」

「もう、帰ってこない……」

 リヴァイアサンは冷静に対処法を受け入れるも、少年は暗い顔で否定する。


「な、何を!?」

「あの人が、操られてたんだ……シュブ=ニグラスに」

「またあの馬鹿女神か……そういやお前の仲間は……」

 少年の話が正しければ……国内はかなり酷い状況にある。


 つまり豊穣の女神シュブ=ニグラス、そいつが糸を引いているという事になる。

(ジーニズの邪魔者だったはず……いや、待てよ?ジーニズ自体にマークしているだか何だか言ってたな。だとしたら……)


「取られたんだ……あいつらも操られて――」

「すまない……」

 取り戻せるか分からない状況の仲間……

 これは合点がいく。


(だけど何でこいつは……決定的な場面を二度も目撃して正気を保っていられるんだ?)


 またしても場面が切り変わる。

(こ、ここで変わるの!?)


『ドォンッ!』

 右側を飛ぶ竜の腹がぶち抜かれる。


「このッ!!」

 リヴァイアサンは辺りの地面を凍らせるも、炎が宙に舞い、一瞬で辺りを溶かしてしまう。


「裏切ったな……!」

「もうお前らの場所じゃない」

 白い髪色のあの少年はリヴァイアサンと対峙していた。


「あんたは絶対に、許さない……!」

 レイの姿は水色の角の生えたレヴィアタンに変わっている。


「悪魔の実のお味はどうだった?レイ」

「殺す……!」

 少年はレヴィアタンに笑顔で微笑む。

 レヴィアタンは怒りに震え槍を構えている。


(実?もしかして絶対能力の禁断の果実が関わっている……?サタンが改良したとか何とか……)


「サタンが貴様に売ったそうだな……」

「ああ、横流しってのは楽しいもんだな……?」



「うわっ……!?」

 現実に引き戻され、氷上に尻餅を突く。

「これぐらいで良いか……?サタンも別に悪意があった訳じゃない。奴に騙されたんだ」

 リヴァイアサンも辛そうに話している。


 確かに幻覚で情報を全部聞き出すのは本意ではない……

 出来れば本人の口から聞けるのが一番だ。


「その通りだ。まあ作った我が言えることじゃないがな!ガッハッハ!」

 サタンの人魂は楽しそうに笑っている。

(そ、そこ笑うとこじゃないし……)


「星に戻るのは……難しそうか?」

「確かに辛いが……今のお前を信用できると知った今、戻らないわけにはいかない。母親が大事なのであろう?」

 気を使って提案を渋ると、ニッコリと微笑み返される。

(うわ、魔法下手が故に見られた……)


 俺の魔法の不慣れを利用して、彼はこっちの記憶まで見てきたそうだ……


「ベヒモスはお前達が探してくれるんだろ?」

 またニッコリと微笑みながら問いかけてきた。未来の笑顔を思い出して更に気が重くなる。


「ま、まあ暴走させないよううまくやる……」

 こうしてリヴァイアサンは船の護衛に付いてくれる事になった。


(他人の不幸は蜜の味……一気に頼もしい奴になったな……)

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