第15話~雷の火花~

 父さんが帰る支度を終えて校庭へやってきた時、ようやく結衣がジーニズと戻ってきた。

 父は相変わらずマントにスーツ姿。俺は着物の戦闘服のまま。結衣は律儀な黒いブレザ

ーに赤いリボン、赤いスカートと正装姿。愛美はパーカーにデニム短パンとスパッツと、

戦闘服姿のままだった。

「遅かったな。また口論か?」

 何を話していたのか気になったので聞いてみた。結衣の表情がむすっとしたので、何か

また揉め事かと思った。

「違うわ……!」

 彼女は否定し、機嫌を損ねたのかそっぽを向かれた。

「そうと分かってて聞く普通?」

 愛美はやっと話したと思うと文句を呟かれた。

(こいつ……!)

「お、お前……!?」

「自分の身は自分で守るわ」

 問いかけると更に強がってくる。人が校内走り回って、どれだけ侵入者や彼女を探し回

ったことか。

 同時に相手の記憶操作能力の効果で、名前や姿も忘れてきていることに気付く。

「コントロールも出来てないのにか?」

 守るどころか迷惑をかけてるじゃないか。

「二人とも大きくなったのは……身長だけじゃ無いみたいだな」

 父さんが後ろから、俺と愛美の肩を抱えて笑いながら茶化してくる。

 だが愛美はすぐにそれを解いた。

「恥ずかしいのか?」

 父さんは愛美のことをからかうが、溜め息を吐いた。

「デリカシー無いとこはそっくりね」

 うまい話の逸らし方だ。父さんが茶々を入れることでようやく笑いを取り戻したようだ。

 でも父さんと一緒にされるのは心外だ。

「ふふっ、確かに似てるわね」

 結衣もそう言ってくるが、俺のは別に皮肉であってデリカシー無いわけじゃ無いんだが。

「皮肉や悪口を言うのも、面倒臭いことに変わりないな」

 ジーニズがうまく纏めようとした。聞こえる声でドヤ顔していると分かり少し甚だしい。

「バッド。ブーブー」

「私もそのセンス無理」

「気が合うな。いつもに増してきもちわ…」

 愛美や結衣、俺も彼を批評しようとしたら父さんに遮られた。

「いやいや、俺はうまいと思うぞ。座布団一枚だ」

 腕を組みながらそう答える父さんだが、彼は落ち込んだ声を漏らしていた。

「酷すぎる……特に乱威智!あと然り気無いフォローも傷付くぅ。一周回って愛美ちゃん

のが一番可愛げあるよ……」

「うわきもっ……むりむり」

 愛美が気持ち悪そうに反応するが、それには父さんが黙っていなかった。

「確かに可愛かった。激しく同意」

 本当に正直過ぎる父さんに、少しえげつなさを感じてしまった。

「うわっ……」

 流石に愛美も引いている。

 結局こんな下らない話をしていたら、あっという間に結衣と別れて家路についていた。

 父さんもいることだし、とりあえず愛美の能力の件はまだ様子見ということになった。

 今更だが父さんとジーニズはほぼ初対面だ。

 なのにこんなくだらない会話をできるのは、愛美のお陰かもしれない。

「なによ」

 見ていたら気付かれた。なので目を逸らした。

「別に……」

 やはり認めたくない。

「ほんと負けず嫌いだな」

 ジーニズの感想に父さんも乗っかってきた。

「そうなんだよ。本当に昔からこうなんだ。仲が良いときもあったが、それ以上に喧嘩が

絶えない。恥ずかしいのは分かるけど止める身にもなって欲しいよ……」

 父さんとジーニズの話の波長が、少し合ってきていることに安心していた。

「今度は僕がその役かぁ。これからの成長を考えると恐ろしい……」

 色々と経験したジーニズには分かることなのだろう。たまに先を見据えたような、そう

いう節がある。

「そ、そんなに二人の能力は凄いのかい?」

 父さんも、ジーニズにだけ分かる能力の事に驚いている。

「意思の強さが二人を強くさせているんですよ」

 初耳だった。強い意思と言われてもあまり実感が沸かないが。

「ほほぅ……これは育て上げた僕が自慢出来る時が楽しみだ」

「私も楽しみだわ」

 いつの間にか母さんも駆け寄ってきていた。買い物帰りなのだろうか買い物袋を両手に

持っている。黄色いカーディガンと白いTシャツに黒いスカートと、仕事戻りの私服姿だ

った。

「持つよ母さん」

 先を歩く二人は笑顔だ。後ろの俺らは少し昨日のことを思いだし、むすっとする。愛美

の表情もあまり良さそうではなかった。

(結衣が風呂から出てきてたって事は、どうせこっそり話を聞いていたんだろうな)

『言いたいことがあるわ。後で外に来なさい』

 心配されたくないからとこそこそ声で強い視線を飛ばしてきた。

『俺もそういう気分だ。武器もどっちにするか決めとけよ』

 勿論爪具と村正を交えての勝負になるだろう。愛美の得意とする武器は弓か爪具だ。

『はぁ……今日はこういうことが多いな』

 ジーニズが溜め息を吐きながら根を上げている。

『まだ二回目だ』

『あ、あんた!優華とまたやったのね!?怪我させてないでしょうね?』

 愛美は俺の反応で気付いたのだろう。

 同じようにいきなり飛びかかってくるような組み手相手は、優華か彼女しかいない。

 俺が彼女に意地を張るようになった理由もこれが原因だ。

『持ってる人の背が小さくて、観客で見れない不安も考えてくれ……』

 追加でジーニズもひそひそ声で文句を言うが、既に家の目の前。

 未来がまだかと待っていた上に、その文句に機嫌を損ねたようだ。

「小さくて悪かったわね!」


 ご飯等……そして苦手な食べ物も済ませた後、愛美とは広場で待ち合わせた。

 壁にはゲージもあり、バスケットボールの練習としてよく使われている。

 早く着きすぎたのかまだ愛美は来ていなかった。ベンチに座り、携帯用の砥石でジーニ

ズを研ぐことにした。

「まずは様子を見てみるしかないか……」

 能力の暴走についてもどの程度なのか分からない。

 新しい能力により戦い方が変わることは多い。

 だから対処を考えたいとジーニズは言うが、単に知りたかった。

 どれほど強くなったのが知りたい。だが油断していると本当に怪我では済まない。

「慎重に頼むよ。彼女はあの優華ちゃんとは違って頭が効く」

 ジーニズの忠告通り、彼女の本気は情熱に身を任せるタイプでは無い。

 序盤は勿論、優華と似て突っ込んで来る。だが、途中からペースを何度も変えてくる。

 時には冷静に防御に徹したり、華麗に攻撃を見切り煽って来る。

 別の人格のように豹変することもある。

 その計算に幾度と無く騙され、奇襲を食らった記憶がある。

「ペースを奪われるなってことだろ?わかってる。だが頭が効くってのは間違いだ。それ

があいつの絶対能力さいのうで……」

 ジーニズの間違いを訂正しかけた途端、背後から殺気を感じた。

絶対能力さいのうですって?」

 愛美がゲージ越しに睨んでいた。


 彼女には生まれつきの能力の才能がある。雷という珍しい能力だけじゃない。

 それは何かをやろうと考えて、イメージ通りに百パーセント成功する絶対の能力。

 創造現壊イメージパスカル

 未来を捻じ曲げる力、ネオ・コントロールの別名もあるとジーニズは言っていた。

 たけどそれは俺との戦闘時のみにひたすら使ってくる。

 何故か……?多分俺に勝ちたいのだろう。

 彼女だけじゃなく、優華や幸樹にも絶対能力さいのうがある。戦っている俺が圧倒

的な差を感じる程だ。

 自分は暴発してばっかりでそんなもの無いと気にしているらしい。

 だが余程自分の強さに鈍感なのかが分かる。

 俺はその向上心が今回の暴発の鍵なのかもと予想している。根拠も無いが……

 限界を超える想像に自信がついていけていない。

 だがそれを肯定しまったら成長が止まる。と結衣はいつも厳しく言っていた。

 昔から結衣は愛美に厳しい態度を取りつつも、強さを認めている。

 だがその向上心を消さず暴発による命の危険を選ぶか。強さを肯定して、果て無い向上

心を止めて身を案じさせるか。その二択を判断するために何度も戦ってきた。

 でも俺は僅かな希望、彼女が暴発をも自分でコントロールできることを願おう。


「何ボーッとしてんの?さっさと準備運動したら?」

 考え事をしていたら、彼女は視界前方で足の伸脚をしていた。

 暑いのか上は黒い薄着の女性用タンクトップ。下は緑のチェックのスカート。その下に

は黒いスパッツ。

 そして黒いパーカーを袖を通さず、羽織っていた。

 伸脚の深くをすると目が足元に向いてしまう。

「どこ見てんの?」

 目が合い、凝視された。若干焦りながら目を反らす。そんなとこ見てるとバレたらまた

殴られる。

「いや何も……そうだな準備運動しないと」

 あと彼女は目の方向もよく見る。不意な観察力にも気を付けなければならない。

(冷静に落ち着いて判断しないと……!)

 彼女が暑さに堪えていること。それがその後の鍵になるとはその時は思いもしなかった。

 準備は万端だ。地面がゴムとコンクリートで出来たグラウンドの双方に立つ。

 彼女は黒い爪具を身に付け、背中に弓も背負っている。

「両方使うのか?」

 使いなれたかのような素振りで電撃を体に溜めている。

「これが新しいあたしのスタイルよ!」

 答えながら彼女の体が電撃で光っている。恐らくぶっつけ本番ってことか。

 相手は俺だ。必ずイメージ通りに成功させてくるだろうか。そう考えると気を抜くこと

は許されない。


 先程の創造現壊イメージパスカルを簡単に説明すると、彼女は自信がある時のみイ

メージ通り自分の力を発揮できる。

 絶対能力とは、生まれつき体中の末梢神経系だけではなく、中枢神経系である脳や脊髄

も強化されているそうだ。

 末梢神経系のみが強化されていいる、伝伸能力保持者には極稀に見られるらしい。


 言葉を返さずにいると彼女の姿は消え、雷の跡だけが残る。

「防御しろ!」

 ジーニズの声が後ろから聞こえる。それより早く、雷を帯びたクローで切り裂いてきた。

「若干避けやすくなったな」

 寸前に挑発する。彼女の使う電撃の跡で方向も読みやすい。

 避けれるなら、ジーニズの指示を無視して避けるしかない。

 防御などしたら、まだ体力のある彼女のことだ。思うがままに攻め続けられる。

「あたしもちゃんと次のこと考えてるから……そう簡単にあんたの手には乗らないわ」

 彼女の言葉通りなら、今回は冷静になるということになる……

(相手が俺なら、イメージ通りコントロール出来るみたいだな……!つまり……もうスイ

ッチは入ってる。体力が切れるのを狙ってみるか?)

 でも彼女にやられっぱなしは嫌だ。主権を奪ってみせる。

 こうしている間にも彼女の猛攻は続く。一番厄介なのはこの電撃だ。

 全て避けなければ、いずれは麻痺して行動を封じられるのは間違いない。

 彼女が電撃を扱うなら、イメージ通り麻痺も出来ると考えたほうがいい。

「刀を抜きなさい!」

 彼女の挑発に乗る訳にはいかない。

 今度は背後からの電撃を帯びた切り裂きだ。

 足を踏み込み、攻撃を躱して一定距離を保つ。

(いつもより速い?というより、隠密のように音が……電磁浮遊か?)

 ならば遠くにいても、電磁音を介して相手の動きを聞き取ることが必要になる。

(その電磁音を聞き取れれば……!)

「少し黙れ」

「よくわかってるじゃんか!」

 視界の左上が電を落とし明るくなる。

(今度は音の妨害か……)

 既に俺が視覚聴覚を研ぎ澄ませていることに、彼女は気付いたみたいだ。

 ずっと目を見られている気がする。そして彼女が能力を使い始め、数分経過する。

 いつもなら自信が力に追い付けず、能力暴走も始まっているはずだが……

 何も変化は無い。

「やはり気持ちの問題か?」

 彼女に問うが無視され、爪具による猛攻を仕掛けてくる。

 それしか理に適わない。昼の事もあった。

 先程まであんなだったのに短時間で調子を取り戻せるのだろうか?

(じゃあ今日起きたのは?本当に暴走することをイメージしてたのか?)

「お前……失敗をイメージしたのか?」

 唯一聞きたかった今日の出来事を彼女に問う。

「違うわ、思い出したのよ。未来の暴走の恐怖を……まさかこれすら現実になるなんて」

 一度戦闘の手を止め、話す。

 彼女は否定し未来の恐怖に再度怯えたのか、若干目を反らして悲しい顔をする。

「怖くないのか?」

 俺は彼女を心配する。

「あたしだって……こんな怖い思いはしたくなかった。でも……!これで強くなれるなら、

想像を越えられるなら!」

 また彼女の表情が険しくなり、体を電撃が纏ってバチバチと光らせている。

(やられる前に止めるしかない!)

 今の彼女は危険すぎる。出来る範囲であれば全て現実に表せる。

 そうして能力を使い果たしたら?あの呪いの通りになれば……

「やる気になったのか?」

 ジーニズの問いかけに、俺は無言で妖刀村正を抜刀する。

 足を踏み込み、彼女の懐へ寄り左下から刀を斬り上げる。

 だがその姿は残像となり、消えていく。やはり電撃を使った隠密なのが厄介すぎる。

 その残像はまるで実体を持たない電撃のようだ。

(しまった……!麻痺が……!)

 俺が触れた電撃に動きを一瞬止めると、彼女は横から回り込んで蹴りを放ってくる。

 この体勢では避けきれない!巻き込むしかなかった。

 彼女の腰に巻かれた黒いパーカーを蹴られると同時に掴んだ。

 そして蹴りを放たれた瞬間に、腕を振り回しパーカーを離した。

 俺と彼女は他方向に吹き飛び、ゲージに叩きつけられる。速さも互角かそれ以上だ。

(麻痺が酷くなる前に話で主権を奪うしかない……!)

「お前の光属性……」

 立ち直り話しかけようとした。彼女の動きが止まった。

 本当に彼女の正直なところは好きだ。だが俺はそうはならない。

「何よ……!」

 彼女は不満そうに言葉を吐く。

「光属性は正しい心こそが発動条件……お前の知ってる人に日々知恵を叩き込まれてるか

らな」

 アドバイス且つ嫌味を言った。

「だから何よ……?説教したいわけ?偉そうに……!」

 彼女は一瞬目を逸らし、怒った風な口調だった。

「お前次第だ。あと、昔からその変な能力……どんなのか気付いてるんだろ?」

 もう認めさせるしかない。

 この時もまだ俺は彼女に勝つことばかり考えていた。

 後々この矛先が俺にだけ向くこともまだ分からなかった。憎しみと愛情は紙一重。

 それは性格まで変えることが出来るのだと。

「うっ……うるさい!」

 彼女は不機嫌そうに下を向き、強く言葉を発していた。

「それこそ意思の力だ……」

 ジーニズの見通したかのような声が周囲に響く。

 彼女はその言葉を聞いた瞬間、離れたゲージから俺の目の前に距離を詰めてきた。

 見切る体勢を取り直した。だが逆効果だったかもしれない……

 それならそれでいい。全て受け止めて流し、反撃するだけだ……!

 彼女が黒い爪具を振り上げたのは左手。

 爪具というより、もうそれは雷で包まれた悪魔の爪のようだった。

 振り下ろす頃には俺は地面を蹴りつけ、彼女の腕を掴んで投げ飛ばした。

 彼女は受身を取り、目の色を変える。

「上等よっ!」

 彼女が叫び、本気の喧嘩の開始合図だった。腰を低くし、右手で刀を構え直した。

「やはりな……」

 ジーニズの声が刀身から聞こえる。何かを察したような雰囲気だった。

「どうした?」

 刀と爪による速い攻防戦を繰り広げながら、質問する。

「あの子に二卵性云々の話は無い!髪色からそう予想していたが……」

 ジーニズはそう断言した。

「ほんとにそうなのか!?」

「間違いない!意思が強すぎて、能力が尽きるなんて思えない!」

 つまりあの兄は、その事も分かってて術をしつこくかけようとしていた?

「火属性の方が良い!早く!」

 ジーニズに焦った様子で指示される。

 いつも通り迷うことなく心臓に刀を突き刺す。血は溢れ黒くなるが、髪の毛は真っ白に

なる。

 髪が白いのは昨日の夜の話。死んだカウントがノーカウントであると言う証拠だ。

 カウントが溜まれば溜まる程黒くなっていくらしい。

 ジーニズの強い力が、俺の体に行き渡っていくのが分かる。

 彼女はそれを狙っていたのか弓を取り出し、矢をもう既に引いていた。

 異常なほどの電撃が彼女の目と腕に集中し、放った矢は高い電滋音を響かせている。

『ギュバァァァァン!』

 刀を抜き終わるまでには間に合わない……!

「一か八かだ!」

 辺りに放たれる高熱と、酸素の電気分解で多少苦しい中、そう叫んだ。

 彼女の腕から放たれた矢は、雷の槍の様な大きさだ。

 閃光のような速さでも、その雷をそのまま下から斬り上げる。

 村正の刀身は赤黒い炎を帯び、雷の矢と衝突して弾けた。だがその時変化が起こった。

 赤黒い炎だったはずの刀は、段々と分散した電気を吸収して青白いほぼ真逆の色へと変

わっていた。

「愛美ちゃんの電撃を呑み込んだ!あの電撃は高熱と高音を発してる!今がチャンスだ!」

 俺はお返しに、今度は青い炎を帯びた村正を、上から正面に振り下ろす。

 電撃を纏った青白い炎の衝撃波が前方に放たれる。

 それはいつもの炎と比べるとあまりにも速く大きかった。雷の能力のおかげだろう。先

程の矢よりも早い。

(俺より愛美の防御反応は遅い。絶対に弾き切れないだろう!)

「くっ……!」

 彼女の手が電撃を帯び、巨大な電撃の爪が生える。怪物の手の様な異形な光景を見せら

れ、唖然とする。

 それが彼女の体前方を覆い、青い衝撃波とぶつかる。

 次の瞬間どちらの力も弾け、炎やら火の粉やらが周囲に巻き散る。

(弾いた……!?これも創造現壊イメージパスカルの力なのか!?)

 炎が消えた向こう側で、彼女はゲージに吹っ飛ばされる。

 だがその時の彼女は直視出来ない姿だった。

 弾けた炎と電撃の熱さで、彼女の服の一部が焦げ消えている。

 あの足下にある、ジリジリになった黒い燃えかすは、服……?

「やばっ」

 彼女は意識をすぐ取り戻し、周りを見渡し武器があることに安心していた。

 そして自身の体を見て……すぐに分かったのか、まず俺と目が合った。

 体を手で覆い隠し、座り込んだまま俯いてしまった。

 目線は再度こちらへ向き、目がまた合ってしまう。

 恥ずかしいのか彼女は半泣き状態だった。でも、それ以上に怒った顔で頬を膨らませて

いる。

 いつも通り怖いと同時に、可愛いなと思ったが俺はすぐに目を逸らした。

 頭を掻きながら近くに寄った。

「や、火傷してないか?」

「こ、こ、ころす!絶対!後で……!」

 すぐ罵倒が帰ってきた。俺の言葉を聞く気は無いようだ。

「じゃあ置いてっても良いってことかい?」

 ジーニズは笑いながら明らかに彼女を煽っている。

 彼女は悔しそうな顔をしてすぐ俯いた。

 ちょっと気まずかったのでジーニズのせいにすることにした。

「ジーニズ、お前……やり過ぎなんじゃないか?もうちょっと手加減を……」

「えっ?何で僕……?」

「ふ、二人とも同罪よ!!」

 罪を擦り付けようとしたが認めるわけも無く、彼女をもっと怒らせてしまった。

 彼女もそのまま動きそうに無い。仕方ないのでしゃがんで背を向けた。

「えっ!?嫌よ!直で?」

 俺は赤い着物を脱ぎ、黒い長袖シャツと黒い袴だけになった。

「着物なら長いからこれでいいだろ?」

 まるで小動物かのように、無言で人の手から着物を奪い取る。

 そして彼女は後ろを向いて袖を通している。

「さっきまでの気迫はどこ置いてきたんだよ……」

 油断して軽口を叩くと、彼女は振り返りギロッと睨んできた。

「まだあるわよ……!」

 俺は臆せず背を向け、再度しゃがむ。

「はぁ……ほら」

 だが俺も若干抵抗があった。最近愛美の体つきは成長して、色々とご立派になっている。

 日常生活で少し肌を見るだけでも気にする。でも見られるよりはましだとは思った。

「最低……!覚えときなさい……」

 そう愚痴を叩きつつも背中におぶさってくる。服越しでも伝わる体の柔らかさと二つの

膨らみ。

「あっ」

「ん!」

 俺が思わず声を上げるが彼女は気付いていないのか、イラついている様子だった。

 重なる疲労に若干意識が飛びそうになりつつも帰路を辿った。

「ほんとに強くなったんだな……」

「本気で言ってるの?」

 彼女の能力を再度認めると、まだ機嫌を損ねていた。

「俺もアレが使えなかったら怪我だらけになってた」

 彼女も今後に響くことに間違いは無かっただろう。それを含めて良い結果だとは思った。

「天を恨むわ……」

 だが彼女は、俺に天が味方したと考えているみたいだ。

 心を開いてくれるのはまだまだ先かもしれない……

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