1章 未来襲撃編

第1話~約束~

 あたしは天崎あまさき 愛美えみ、今年で十三歳になる。


 大昔から竜と人間が共存して暮らすこの星、赤竜神星あぎと

 この星には先住民である竜達が偉大な異能力を持っている。沢山の人間の姿をした能力保持者も共存して暮らしている。


 あたしが分かっているのは、この国が遠い星、地球の日本という国からの移民で成り立っていたということ。

 星の代表国、フィオーレ・アフラマズダー王国があたし達の国。


 その代表民主国の規定の一つ。

 基本学習過程を十二歳の年の三月で修了すること。

 更に次の四月から十五歳になるまでの三年間、訓練学校に通い、実戦経験を得ることが義務付けられている。


 その後は、ここを出て旅に出るも良し、護衛職に就くも良い。

(でも、あたしはもっと強くなりたい……!)

 誰にも負けたくなんかないし、困ってる人を助けてあげたいと思ってる。


「もう五時なのかぁ」

 考え事をしていたら、デジタル時計では十七時を過ぎていることに気付く。

「今日中には家に戻れるといいんだけど……」

 そもそもなんで、病院送りになってしまったのかというと……


――九時間前――


「それじゃ愛美、りんを頼むわね」

 母さんが妹のりんの頭を撫でている。

「わかった、ちゃんと送ってくるよ」


「ママ!お仕事行ってらっしゃい!」

 妹の鈴は元気に手を振っている。母も手を振り返しながら歩いていった。


 母、天崎 龍美たつみはこの星の民主主権を統べる国王の娘である。

 我ながら、見た目も髪質もそっくりに産んでくれた自慢の母です。


 でも母はちゃんと跳ねてる髪を直している。

(あたしもこの天然パーマ、日頃からちゃんと手入れしなきゃ……!)

 母はこれから沢山ある国の儀式の準備のために、フィオーレ王城に向かって行った。


 桜の花が咲く春の季節、とても暖かい。

「姉ちゃん!早くしないと姉ちゃんの方が学校間に合わなくなっちゃうよ?」

 あまりに暖かくてボーっとしていたら鈴に急かされてしまった。


「そうだね。すぐ向かおう」

 鈴は一つ年下の十一歳の妹だ。金色の長い髪をツインテールに纏めている。

 纏めている髪ゴムは母さんから貰ったという鈴。


 鈴は昨日が進級式だったらしく、今日から色々授業の準備をするらしい。

 服装は白いシャツに黄色のパーカー、赤と黒のチェックのスカート。学校指定のカバンを両手で持っている。


「ねぇ鈴、友達はいるんでしょ?」

「え?」

 普通に聞いたつもりだったけど、言葉が足りなかったかもしれない。


「いつも乱威智らいちか母さんと一緒に家を出てるからさ」

 勘違いしないようにもう少し言葉を付け足す。

「友達とかと行ったりしないのかなと思って」

 乱威智らいちというのは、三つ子の生意気で無愛想な弟のことだ。


 あいつも黙ってるし、最近あまり口を聞いてない。

「う、うん!学校に着いたら友達と教室に行くし大丈夫だよ!」

(ん?なんか声が上ずっていたような……いや、いきなり聞いたのが悪かった)


「そっか、それなら安心した」

 でも気になる……共通の知り合いなんて、あたし達の友達位だ。

(時間もあるし、学校着いた時にちょっと見てみるか……)


 という事を考えていたら、鈴の学校までの並木道に着いていた。

「こっからはもう学校見えるし、一人でも大丈夫だよ!」

 先程の元気な声ではないが、明るい声でそう言ってきた。

「おー、一人で大丈夫――って、もう行っちゃった」

 鈴はもう小走りで学校に向かってしまった。


「心配だけどあたしも昔はそうだったし、やっぱ大丈夫だよね」

 やはり訓練学校への憧れを抑えきれず、振り返ろうとした時……茂みが動いたように見えた。


 不思議に感じて近くに寄ってみると、薄紫色のモジャモジャが見えかけた。

「はぁ……」

 安堵と呆れが混じった溜め息をついた。


「溜め息をつくと幸せが逃げるらしいぞ」

 薄紫色天然パーマのモジャモジャが落ち着いた声で返してきた。


「いやいや、あんたこそ望遠鏡まで持ってきて何してんの?」

 よく見ると、茂み越しに望遠鏡で何かを覗いていた。

「え?決まってるじゃんか。僕は可愛い子供達の監視をしてるんだよ」


 首には双眼鏡、ポケットには虫眼鏡を持っているこいつの名前は……

 華剛かごう幸樹こうき

 服装は黒いジーパン、白いペイントシャツの上に紺色のパーカー。普通な感じだ。


 天然パーマで顔も良く、女子からの人気が高いが本性はこれだ。

 前の学習学校の時。彼が乱威智と一緒にギリギリ登校してくるのが多かったのは、こいつがグダグダしてたのが原因だったのか。


「そんなことしてないで、さっさと訓練学校いくぞ!」

 無理矢理腕を引っ張ろうとしたら、どこかから噂話をする声が聞こえた。


「ねぇねぇ、あの子いるでしょ。あの子」

「あぁ、天崎さんね。国王のお孫さんのー。あの子がどうかしたの?」

 ドキッとした。


「まさか、またいじめられているとかあったりしない?」

 抑えた声で幸樹の胸倉を掴み、問いただした。

 鈴は前に一度、先生にまで追い詰められる程の集団いじめに遭っていた。


 正義感の強い鈴は間違っていなかった。間違っていたのは悪い噂を広めた生徒の親だ。

「静かにしろって……!あと痛いし。最近はそんな話僕も聞いてない」


 更に彼の背中をつねる。

「というかほんとに痛いです!離してくださいぃ。お願いしますぅ」

「悪い。お前に命令されるのなんかイラつくから」

 幸樹に注意され、話の続きを聞くことにした。


「それがね。最近クラスの喧嘩を止めたか何かで先生も目をつけているらしいのよ」

 鈴はあれからやっぱり逞しくなったんだな。


「へぇ、そんなに危険な感じだったの?」

「そうではないらしいんだけどね。なんか変な感じだったって息子から聞いたのよ」

(変な感じ?)


「それってきっと鈴ちゃんにも珍しい能力が……!」

 幸樹がそう言いかけた時に、さっきの話し声が耳を遮った。

「天崎さんの子供達の能力ってなんか変よね」


「雷の力暴発させて停電にしたり、喋る刀で切って眠らせたりとか?」

「そうそう。あと頭は良いのにありえない馬鹿力持ってたりとか……」


「くそっ、強くなりたいだけなのに。大切な人守りたいだけなのに何が悪いのよっ……!」

 拳に力をこめるが、幸樹が肩に手を乗せてきた。

「ほら、もうすぐ訓練学校の入学式が始まるよ」

「…………」


「あんな人達は放っといて、さっさと行こう!」

「うんわかってる。ありがと」

 ともかく、この話はちゃんと母さんに相談しないとだな。

 幸樹も望遠鏡を片付け終わったようだし、訓練学校に向かおうとした。


 だが、学校の校門の方から男の子達の大きな笑い声が聞こえた。

「ごめん幸樹、先に行っててくれない?」

 何か嫌な予感がする。


「やめた方がいいよ」

「いや、約束したんだ。守るって……」

幼い頃に大きな樹の下で、兄弟と交わした約束を思い出す。

(何があってもあたしが守る!例え恨まれたって!)


 幸樹の忠告を無視して、小走りで校門前へ様子を見に行った。

 校門前を見ると、数人の男子生徒と一人の女子生徒と鈴が揉めているようだった。


「ねぇ!この子に謝りなよ!」

 鈴は強い声で男子生徒達を説得している。

 その横で銀髪の小さな女子生徒が座り込んで、泣いているのが見えた。だが男子生徒達は聞く気もなく笑っている。


 周りの生徒達は、やはり見知らぬ振りで校門を抜けていく。

「いつまで泣いてんだよっ!」

 一人の男子が呆れて、女子生徒を蹴り始めた。

 鈴が止めようとする。でも力は叶わないのか押しのけられてしまう。


「ねぇ、君たち。何があったの?」

 そろそろ危ないと感じた。男子生徒の近くに少し屈んで、優しく話しかける。

「えっ、戦闘服ってことは訓練学校のお姉さん?」

 あまり予想しなかった答えが返ってくる。てっきり挑発的な態度を取られるかと思っていたのだ。


 訓練学校では、それぞれの武器に合った戦闘服を用意するという決まりがある。

 あたしの戦闘服は、白い長袖ワイシャツと紺のデニムショートパンツに黒スパッツ。腰には深緑のパーカーを巻いている。


「そうだけど、それがどうかしたの……?それよりそこの女の子と何があった――」

 男の子達はいきなり屈んでいたあたしの胸を下から揉み始めた!


「いって!静電気で痺れたんだけど」

「あっ!あ、あんた達何してんの!!」

 後ろに引いて胸元を隠すが、いつの間にか背後に、もう一人男子生徒がいた。


「ふぇっ!?」

「かんちょー!」

 その子は両手を組み、人差し指と中指をあたしのお尻に向かって突き刺してきた。


「うっ!」

 その瞬間、辺りの地面から電気を放電し始め、あたしは膝から崩れ落ちた。

「うわっ!やばいぞこのお姉さん!ビリビリし始めたよ!」

「やばいやばい!逃げろー!」

 男子生徒達は笑いながら校門へ逃げて行った。


「ううっ……!力が抑えきれない!逃げてっ!!」

 身体中が痺れて動けない、また爆発してしまうのか……?

『もういい。やめてくれ』

 乱威智に呆れた顔で言われたあの言葉を思い出し、歯をぎゅっと噛み締める。


 女の子は怖がって動けなくなっている。

「鈴っ!早く……!」

 鈴は急いで女の子を抱き上げようとするがうまくいかない。

 放電はどんどん激しくなっていく。


「間に合わないっ!」

 鈴はその瞬間、女の子だけを押し飛ばした。そして鈴を巻き込み、あたしは爆発した。

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