第11話~真実と試練~
あの後、結衣は家に泊まることになった。
「ちゃんと聞いてってば!」
「はいはい」
彼女は先程から様子がおかしい。
俺に何かを伝えたがっているが、ジーニズの刀研ぎに夢中であまり聞いてなかった。
「研いでくれるのはありがたいが、あの古竜が注意してきたんだろ?深刻なことだぞ?」
デスティニーの考察によると……
光属性の能力を秘めてる愛美に、対である闇属性のジーニズ、つまり俺が触れると……
片側の能力暴発時、もう片方の能力に良くない影響が出てしまうという内容だった。
確かに愛美の能力解放以来、仲違いしていた彼女には触れてなどいない。訳はなかった。
屋敷で起こした時に泣きついてきたんだっけ。
ラリアットでそんな記憶は消し飛んでいたようだ。
「だから、愛美にはまだ光属性の能力は無いんだろ?それにお前だって光属性能力を持ってる。それを考えると合点がいかない」
結衣も光属性の能力を解放している以上、暴走しないとは限らない。
まぁそんな事一度も無かったが。だって優等生だし……
「今あんた失礼な事考えたでしょ?」
「いや」
「顔に書いてあるわ」
それに仲直りした俺と愛美を、引き離そうといている態度が何より気に入らなかった。
(これって、俺達もしかして……妬いてる?)
「それがそうもいかないんだ。お前ら
ジーニズは熱弁し始める。だがそれと何の関係があるのだろうか?
「何が言いたいんだ?」
「いいから聞け。もしそれが君と愛美ちゃんだったら。片方の卵子の属性能力比率は、光と闇の一対一で済むんだ」
余程のことなのか、彼は声を詰まらせながらまた説明し始めた。
「だがもし君と未来ちゃんだとしたら。彼女が能力を解放したと同時に、比率は闇と光で二対一になる。ここまで話せば暴発の影響がどちらに傾くか分かるよな?」
「それはどういうことだ?もしかして未来に宿ったのも闇属性なのか?」
まず彼女の
でも何故、二対一になるのかなんとなくは分かった。要するに片方の卵子に闇が集中したら、もう片方の光はバランスを崩す。
日本の歴史に例えると、陰陽のマーク、太陰太極図が良い例だろう。学校でも属性能力の授業でも聞いたことがあったし、漫画で読んだこともあった。
急にジーニズは申し訳なさそうにする。
「その通りだ。だが兄さんの仕業で余計厄介になったんだ。本当にすまない」
「どういうことだ?しっかり最初から説明してくれ」
その後三十分程かけて長い説明が続いた。
どうやら愛美にかかっていたのは術や毒ではなく、特殊な呪いだったらしい。
陰陽術による
彼の知識によると、その術後に触れた一人の相手と維持エネルギーを入れ替えてしまう呪いだそうだ。
ジーニズの兄はその呪いを利用して、愛美の強い光属性能力に目を付けた。
奴の兄の膨大な闇の属性能力。つまりそれが属性変換だとかで愛美に無理矢理出力され、奴は光属性を吸い取り活動の糧に……
結果、未来の体は陰陽の調和を保った。更に身体能力が向上して、奴は彼女の体を使って暴れまくれた。
そして愛美から属性能力を奪い、能力解放を遅らせる事も狙った。
奴の非に合わない闇エネルギーで、彼女の精神が不安定になる事も狙っていた。
その作用のせいで悪夢を見ているらしい。
細かい事柄を理解した、と思ったらジーニズはまだ説明を続ける。
「それにもしさっき話した二卵性が、先程のバランスを崩す形であれば……僕達の能力覚醒行為、
(こころがたなって?何?いきなりそんな名前ついてたの?というかもし今後、未来が暴走したら俺はどうすれば……あんな力を能力覚醒も無しに相手に出来るのか?)
「よく聞いて!光の維持エネルギーが全部呑まれてしまうと……」
「しまうと……?」
「生命活動を停止させる恐れもあるのよ……!死んじゃうの!事の重大さを分かって!」
心配していた嫌な予感が的中した。愛美が死ぬ……?その事実に俺の目の色はどんどん失われていく。
「兄さんは狡猾な性格だ。弱体化させたとしても、敵を一匹ずつ減らしていくやり方は変わってない……あそこの幻覚で時間を使ってなければ……!」
「話を戻すけど、乱威智!例え未来が能力を発動してまた暴走したとしても……あなたは絶対にあれを、白炎を使ったらダメよ!カウントを貯めるような無理な戦いは避けて……」
結衣が話を切り返し、ジーニズの言葉を打ち切った。
心臓に刀の刀身を突き刺す心刀?により、俺の白炎は今まで強化状態にあった。恥ずかしい話……それ以外ではあまりうまく使いこなせない。
カウントというのは……もし俺が死んだ時、ジーニズが俺を蘇生させる事が出来る。
その代わりカウントが一つずつ溜まる。
七回溜まると……精神が保てなくなり自我が崩壊する恐れがある。と以前注意を受けた。
「わかった。今後気をつける。まだあるのか?」
「ええ、まだよ」
先程母さんと父さんから、後で話をしたいから部屋に来てくれと言われていたし早くしてほしい。
あと、結衣の口調が怒っているような気もするが……気のせいだろうか?
「どうぞ」
「…………」
俺がお手上げと言わんばかりに答えるが、ジーニズは黙ったままだ。
(これから俺はどうすればいいんだろう……)
「あなたたちが吸ったあの怪物……単刀直入に聞くわジーニズ。どうして能力効果も何もかも知ってたの?あれは、地球で語り継がれた神話の怪物よね?」
「今度は神話の話か、もう頭がいっぱいだ……」
「残念ながらこっちが本題だ」
外から先刻も聞いた低く渋い声が耳に響く。
「デスティニーも来てたのね」
「お嬢様一人で、そのスケベ赤髪に説明できるか心配でな」
先程初めてこの竜と話せたかと思えない位、酷い言われようで顔が引き釣る。
『あんた……私に何か隠してない?』
「…………」
結衣が刀をしまった鞘を、足で踏みつけながら囁いている。
「羨ましいだろ。少年」
「やめなさい」
「失敬……」
デスティニーも結衣に
「二年前から疑問だったの。そもそもあなたはどうやってその知識を得ているの……?」
「こいつに尋問してみたらどうだ?」
ジーニズも対抗するかのような威勢だ。彼との内緒話は……思い当たる節も無くは無い。
「え……な、何の事?」
「乱威智……ごめんね。この子の事で私に隠してる事って何かある?」
今までに見た事無い、怖い笑顔だ……
「えっと、こいつが知識を持ってるのは……神の、使いだからって事ぐらい?」
「なんの神だかは……知ってるわよね?」
(あっ、知ってるのね。足の指踏まれてるし、洗いざらい話しちゃおうね~)
「ジ……」
「ジ?」
「ジズ?」
俺の記憶力が知ってるジーニズの本性はここまでだ。
(これ以上は勘弁してくれ……)
「お嬢、それぐらいにしといてやれ。後は私がやる」
「ごめんね乱威智、やっぱり話が噛み合わないわ……」
彼女は溜め息をつきながら肩を下ろす。
「あの怪物の名称はベヒモスっていう陸の怪物だ。本来はもっと巨大だが……ミニサイズで良かったな。それとは別に少年、式神って知ってるか?」
「使いのことか?」
これもまた漫画の知識だけど。
「そうだ。奴はあの怪物を式神として使っていた」
「なるほど。そいつが神話とかでよく聞くベヒモスって奴なんだよな」
「ああ。で、そいつから部分的だがベヒモス個有の能力を吸い取れた」
「うんうん」
デスティニーの説明は落ち着いていて分かりやすい。
「使い主が本物じゃなければ、式神から経由して能力は吸い取れない」
「じゃあ使い主が本物ってことか……」
(え?じゃあジーニズの兄が……?)
「ああ本物だ。だが本質は違う。何度も生物に取り憑き、器を求めて永遠に生きる。そのうちにベヒモスもいたという訳だ」
「それって辛くないか?」
「禁忌を犯してでも生きたい理由があったんだろう。その罰だな」
禁忌……人を生き返らせたりとかのイメージだ。
「そんな時代もあったってことだろう。まさか自分らが地球の文化で、聖書として語り継がれるなんて思っても見なかっただろう?一体何をやらかしたんだか」
「…………」
彼はジーニズに少し目線を移すが、何も喋ろうとしない。取り憑くと言われてやっと気付いた。
(こいつもそんな経験を何度も繰り返してきた……ってことだよな?)
過去に何があったのかも聞けなかったのは、俺だけかとすっかり思っていた……
結衣やデスティニーも同じ考えだったのだろう。
「ねぇ。那津菜家の信仰が揺らいだから……暴走したんだよね?」
「それは嘘じゃない。本当だ……ごめん」
結衣はジーニズに問う。その答えに彼女は安堵の息を漏らす。
二年前の竜の暴走事件。その被害に遭ったのが彼女の両親。
どうして亡くなったのか……彼女が説明した通り。
竜への信仰が足りずに暴走する。最近よくある竜の暴走原因で、新聞などでもよく載っている。
「じゃあ……まーちゃんを刀に封印した時に生まれたってのは、嘘なのね?」
彼女の声は震えて、今にも泣き出しそうだ。
「そうだ」
「はぁ……まったく」
ジーニズが肯定するとデスティニーは呆れた声を上げる。
彼女が一番可愛がっていた竜、マイト。暴走を抑えるためにこの刀に封じられた。
さっきの話と合わせると、彼は那津菜の竜、マイトに取り憑いた。
昨今の竜への信仰低下の問題が影響して、マイトは暴走を起こした。
それを封印するため、結衣の両親は祈りを捧げた。
そして数日後、両親二人とも生命維持ができなくなってしまった……
「いつから、まーちゃんに取り憑いてたの……?」
彼女は辛い思い出に涙を流しながら彼に質問する。
(小さい頃に屋敷でパーティが開かれる度、俺はこいつに会ってたのか……)
「君が生まれるずっと前からだ。那津菜家の限られた竜しか、屋敷の結界から出る事はできない。信仰は落ち……マイトの精神悪化に耐え切れず、暴走せざるを得なかった」
「そう……」
結衣はその真実を聞いて少し嬉しそうにするが、両親の事を思い出したのかぽろぽろと涙を流している。
ガチャリと部屋のドアが開き、愛美が入ってくる。
「さっきから何してるの?ちょ、ちょっと!?何泣かしてんのよ!?ほらいこ。お風呂沸いたよ……!」
彼女はいつから話を聞いてたのか分からないけど、察してくれたのだろう。じゃないと辛そうな結衣をすぐ連れ出すなんて……即座に思いつかない。
『ありがとな』
結衣を支えて引き渡し、彼女に囁く。
『貸しよ』
彼女の睨む目力から、どんな形で貸しを返すのかあらかた予想はついていた。能力を試す組み手だろう。
彼女と結衣が部屋から去ると、再びさっきの話に戻る。
「貴様に覚悟はあるのか?」
デスティニーがまたひょっこりと顔を出して問う。
「この腐った奴を抑え込む覚悟は」
「まず、腐った奴じゃない。ジーニズというこいつの愛称がある」
俺の三ヶ月間で手にした覚悟を続けて話す。
「共に生きて大切な人を守る。今、俺が全力で叶えようとしてる理想だ」
「ほぉ。少年でも心は立派みたいだな」
(胸を刺す痛みも、家族と会えない痛みも、出会う人が抱えた痛みも、忘れさせるぐらい強くなってやる……!)
「じゃあ話を続けるぞ。私が知っている真実を話す」
少し沈黙が流れた後、デスティニーは再び話し始める。
「地球で伝わる旧約聖書の陸の怪物ベヒモス、空の怪物ジズ、海の怪物レヴィアタン。それらはこの星、赤竜神星(あぎと)に伝わる三つの国と大きな関わりを持つ」
「どんな?」
「急かすな」
質問を早まり、注意された。竜相手に一度はやってみたかった。
「ここ、アフラマズダーの地には天竜神ジズの加護。ヴァルナの地には氷竜神リヴァイアサンの加護。ミスラの地には地竜神ベヒモスの加護。かつて人のいない時代から、その均等な三つの加護で支えられてきた」
デスティニーの説明の一つ。それが俺達の王城のある、フィオーレ・アフラマズダー王政民主国。
別名叡智の国と言われ、沢山の資料、研究施設、図書館がある。
二つ目が優華の家元である、今は亡き扇卯王国。王国亡き今、ヴァルナ自律民主地域として成り立っている。
ヴァルナ地方と呼ばれ、氷と水の属性能力や魔法を、生活や美のために使って暮らしている。
三つめがサンジープ・ミスラ王国。火と岩や地面の属性能力を得意とする。
鉱物や石炭や石油も豊富なため、武器や機械の名産地としても有名。数年前から鉱物の自然培養に成功したらしい。
「人々の自立により竜の信仰低下、暴走については人間が来るまでは平和だったってことか……」
「そのうち沢山の竜が、人間の愚行に呆れて星を棄てた。信仰は減り、能力の加護は弱くなっていくばかりだ」
「エスケープを使う奴が無理な侵略をしたから……」
「そやつがフィオーレ。その名前こそがこの代表王国の由来だ」
フィオーレ・アフラマズダー王国……じいちゃんにも名前の由来は聞いた事がなかった。
でも歴史が流れるうちに、人々がどんな愚行を犯してきたかは教えてもらった……
「現国王からあらかたは聞いただろう?」
「ああ……」
兄さんがいなくなった後……
現国王である天崎
この星の昔話で、一部の事実は民にも伏せられている。
王国初代、恐らく数千年前。王国を築いたフィオーレは日本人とイタリア人のハーフだった。
地球から能力解放者の移民の申請が届き、日本と欧州の能力解放者を自国に引き入れた。
その他にも代表者、扇卯、サンジープに隣国を築かせた。
それは中国やインド等、アジアからの能力解放者の移民が元となっている。
だが年月は過ぎて、王家は国民確保を重視するようになっていった。
そして約二百年前。
禁忌の術を使ってそれを改善できる。と地球、イギリス出身の魔術師が提案し王家と取引を交わした。
じいちゃんはそこから先を、暗黒時代と呼んで国民には詳細を伏せている。
国民確保の手筈は、日本の戦争等を利用して大量の日本人の移民、拉致をする事。それにより三つの国の言語を日本語に統一。
能力適応については、その魔術師と弟子が全てを執り行った。
竜の能力を強制移出させて、拉致した人間と合成させる。
能力を失った竜はほぼ命を落とす……
だが何度も合成されたことにより火、岩、水、氷以外の日本人能力者が生まれた。
それぞれの能力により間違った方法で、文化も発展へと向かっていった。
その時、適応させるために記憶操作まで命令した国王もいたらしい……
結局その魔術師の継承者が滅ぶ七十五年前、地球の西暦で言うと1945年。それまでその暗黒時代は続いたという。
竜達はそれもすべて知っている……地球に連れてくる方法は竜に無理矢理飲み込ませること……
竜の外皮に触れると能力は上昇する。逆に内膜に触れていると、能力が解放しても無効化されるからだそうだ。
これが廃止されたのも暗黒時代が終わった直後、曾祖父が国王政権を握った時だそうだ。
そして現在……ヴァルナ地方には中国、サンジープ王国にはインドの文化も多少残っている。だが新しく入った日本の文化に全ての国が適応し続けている。
竜と話せる兄さんは、この事実を突き付けられて相当なストレスを抱え込んでいたんだなと、いなくなってからわかった……
「だからあの息子がいない今、全て貴様に託すしかない。世界に散らばった竜を探し出し、完全となった
(生まれ還す!?そんなことまでできちゃうのか?)
「ちょっと待て!話が大きくなりすぎだ!俺にそれほどの力なんて……」
「あるんだ……」
ジーニズが暗い声で口を挟む。
「へ?」
「僕が取り憑いた時点で……神以上の価値があるんだよ……」
その口調は今迄で一番辛そうだった……
「カウントの件も……不死身の能力を手にした時点でそこでストップするんだ」
「ふ、ふ不死身!?」
(俺にそんな奴と戦えってのか!?)
「それが実は……星から逃げた氷竜神なんだ」
ジーニズの連続カミングアウトに俺も目眩がしてくる。
「落ち着け……そもそもどうして貴様の母が儀式をしてると思う?」
デスティニーも溜め息をつきながら動揺している。
「はぁ……竜の暴走を抑えるため?」
俺も溜め息をつきながら質問に答える。
「市民が傷つくからじゃない。最近の子供には、絶対能力や伝伸能力が少し多すぎるとは思わないか?」
「確かに……授業でも言ってたな。まさか……」
予想がついた。竜の暴走と関係してるのではないかと。ということは能力者も増えれば増えるほど竜の暴走も……
「このままじゃ儀式の魔術系能力者にどんどん負担もかかる……」
つまりそれは……母さんの寿命をどんどん縮めていくことだ。
「母さんが……!それだけは絶対にさせない!」
「それだけじゃない。能力者は特化したものだらけ。野心を抱いた奴がもう他の星で侵略を行っているらしい……このまま放置をすれば貴様らの能力だって不安定になるし、貴様らを軍事道具として狙う敵が出てくるはずだ……戦争は悲しみしか生まない。それは分かっているよな?」
(あの夢が、本当に……)
能力覚醒時に見た世界規模の能力戦争の夢を思い出す。
(ジーニズはただの夢だ……なんて言っていたけど……)
「全部の竜を還せとは言っていない……まずはお前の兄貴を帰らせろ。そしたら心配をかけた分、王の座を補助させてやれば良いだろ?」
(だけど兄さんの事は、そんなのわからないのに……)
宇宙のどこにいるかもわからない。本当に生きているかも……
「吉報があればホムラと戻ってくるだろう。そう確信が持てる。だから少年、貴様がそれを紡げ!その刀で守るんだ!」
デスティニーの威勢の強さを初めて見た。青く凛凛しい瞳が俺に訴えかけてくる。
俺はただ、苦しんでる家族を、仲間を助けたい……!刀身を見つめると、真面目な口調で話してきた。
「この刀はその暗黒時代、日本の江戸時代末期。鍛冶職人の移民と共に、那津菜家に伝わった妖刀村正銘って言うんだ。それを手に出来た君だけが、僕が集めた神の能力とこの刀を操れる。こいつは既に多くの命を奪っている。だから、いつ君を暴走させてもおかしくない……引き下がるなら今だぞ?」
驚きの事実を伝えられる。だがこいつが一緒なら決意は曲がらない。この三ヶ月間強くいれたのは、妖刀村正の力なんかじゃなくてジーニズの支えのおかげだ。
「まず何をすればいい?」
やるしかない。そんな大切な人を苦しめる未来なんて……愛美なら絶対に望まない。
「暴走した氷竜神リヴァイアサンを止める。そいつは悪魔に憑依されている……」
即座にジーニズから答えが返ってくる。
「能力は不死身の鱗。場所は星外なんだが……カウントの制御に繋がるからまずそれからだ」
「あぁ!」
「やっと始まったようだな。私はもう眠い。失礼」
俺達の決意を見たデスティニーは返事を待たずに飛び去った。
「やっと来たか。父さん眠くてもう限界だ……」
「遅くなってごめん……」
中央にあるランプの右側のベットで瞼をこする父さんに謝るが、ジーニズは黙っている。
「いいのよ。竜のお客さんが来てまで、大切な話があったんでしょ?」
母さんからは静かな怒りを感じる。
デスティニーの声は、部屋内に響いてたことだろう。二人にさっきの話が丸聞こえなら、天竜神ジズの使いと分かった話も聞かれたはずだ。
『逃げれないか?』
ジーニズは小声で俺に聞いてくる。でも母さんが答える。
「魔法で結界を張ってあるからここから出れないわよ。私達の能力の事だって知ってるんでしょ?」
いつもの怖い笑み。母さんは相当怒っているみたいだ。
「たつみんも怒らないのー」
落ち着いた父さんが、母さんのあだ名を口にしてなだめる。
「今その呼び方はやめて……」
母さんも少しは落ち着いたみたいだ。愛美と喧嘩したときはメチャメチャ怒られた記憶が蘇る。
「そんな危ない物手放せなんて言っても、お前は芯が強い。お前の強い心でそいつすら虜にしちゃってるんだろ?真助を守れなかった俺達に悪い部分もある。それに僕だって技術発展へと協力しちまった。竜達への償いは本当は僕がしなきゃならないのに……」
冷やかしを入れつつも自負するところは、父さんの良いところだ。
でも違う。本当なら父さんは巻き込まれた側だ……
どうやって能力を解放し、この星に来る決意を持ったのかは知らないけど……
「それはまぁ、いつも俺の利に叶うことを考えてくれる」
「僕の知識を捨てるなんて勿体無いからな」
ジーニズは意外と明るい口調で安心した。
「あなたねぇ……!全てうまくいくなんて!調子に乗りすぎよ!?」
母さんの強張った声にまた絶句せざるを得ない。
「龍美!」
父さんが母さんの本名を呼び、今度は母さんが驚く。
「確かに言いたいことは沢山あるかもしれない。でももう手放す選択肢なんてないだろ?それに乱威智には乱威智の人生があって、自分でそれを選んだんだろ?」
その通りだ。手放すということは俺達は惨めに生きていくこと。
(それだけは絶対に嫌だ!)
周りが……例え愛美や兄さんが許しても、俺はそうしたら絶対に後悔する。
「あぁ!俺はもう決めたんだ。もう後戻りは出来ない」
「ダメよ。やめて」
「後悔もしてない……!」
母さんが止めの言葉を入れる。だが気にせず俺は決意の言葉を発した。
父さんは提案するように話しかけてきた。
「じゃあこうしよう。今月の終わりに訓練学校でバトルロワイヤルを開く予定がある。そこでトップを取り、父さんと戦って勝つんだ」
俺は調子に乗ってその先を聞いてみた。
「そのあとは?」
「面白いじゃないか。じゃあ更に試練追加で七つの大罪と呼ばれる悪魔の所までお前を案内してやる。その中に目的の竜が一匹いるんじゃないか?」
母さんは驚愕の表情で固まっている。
「あなた何言ってるの!それがどういう事か、どれだけ辛い事か分かってるの!?」
「あぁ勿論。そうすれば闇属性の力はコントロールできるって聞いたのさ」
核心を突かれた母さんは黙ってしまった。確かにそれなら愛美をも守る最善の方法だ。
父さんを信用してない訳じゃないが、やはりジーニズにも聞く方が信憑性が高い。
「本当なのかジーニズ?」
「僕らの次の目的だ。仕方がない。だがそれも注意しなければならないことがある」
父さんと母さんも真剣な表情になる。
「乱威智は今の状態では実質不死身だ。死のカウントによって状態が変わる。それが多ければ多いほど暴走値は高まるが、能力は強力になる。だから最小値に抑えて、愛美ちゃんだけでなく鈴ちゃんの能力保護に徹する。暴走するとかなり危険だからだ」
ジーニズの説明はまだ続きそうだったが、あまりの深刻な話に母さんは顔が青ざめていた。
「待って!何故勝手にこの子をカウントなんかにかけたの!?」
「俺が望んだんだ。家族と大切な人を守るために……!」
「あなた一人で背負うことじゃないでしょ!?どうして私に相談しなかったの!?」
「この刀を手にしたその時……!決めるしかなかったんだ!!」
俺も母さんの威勢になんか負けない。でも確かに、もっと前から打ち明けてればと少し後悔した。確実に母さんを悲しませただろう……
次の瞬間、後ろのドアが開く。俺達は驚いて黙っている。何故か結衣が入ってきて、床に膝をつく。
「ごめんなさい!私の責任です。私が自分の命のためにこんな事望まなければ……」
結衣の誠実なところを考えていなかった。彼女は自分が悪いと思ったら直ぐに謝る。
良い所なんだが、こういう所で発揮されるとかなりまずい。
「はぁ……私もう無理だわ」
母さんはしっかりしてる結衣を気に入っていた。これは相当ショックだろう。
ジーニズが最後に一つ!と母さんを引き止める。
「今まで七回以上生き絶えた生命は、皆自我を失っている。戻ることももうない。だから襲撃なんかは協力してあげてほしい!」
「だったら!一人で抱え込むな!」
母さんは怒鳴ると布団に潜ってしまった。
「そこは頼むぞ、乱威智。父さんはいつでも駆けつけるからな……」
「うぐっうぅ……ぐすん」
その忠告に結衣は膝をついたまま、泣き出していた。
最初は父さんと一対一で話したかった理由はこれだからだ……。まあ母さんにも伝えられたのは良かったとは思うけど……
すぐ自分の部屋に戻ると、ジーニズが俺に話しかけてくる。
「彼、お父さんには注意した方が良い。恐らく何か能力を隠し持っている。胡散臭い」
「別に俺が全部に勝てば良いだけだ。要するにどんな方法使っても良いから不死身になればいいんだろ?」
「そんな簡単に……」
「見てろ。俺は絶対に負けない。竜の暴走だろうが悪魔だろうが
バトルロワイヤルとリヴァイアサンの件も初めて知ったが、これからすごいことに巻き込まれそうだ。
そう思いつつ、愛美の服を着た結衣の頭を撫でる。
「濡れたまんまだと風邪引くぞ。乾かしに行こう」
「うっ、うぅん……」
膝をついたままの結衣の肩を抱えた。時計を見たら十二時を過ぎていた。
「…………」
自分の部屋にいた愛美は、彼らの後ろ姿を黙って見つめながら拳を握り締める。
「本当に強くなったのね……」
横になっていた母の龍美は二人がいなくなるのを見計らうと、布団から顔を出して呟いた。
「一年半で一番変わったよ。子供はあっという間に大きくなるもんなんだな……」
父の俊幸も横になり、目を瞑ったまま答えた。
「全戦全勝の英雄様が、負ける時が来る事だけ楽しみにしとくわ」
「おいおい、たつみんは僕を応援してくれよぉー」
彼は私の言葉に驚きつつも、声色からして本当に楽しみなのが分かる。
「はいはい。頑張ってね……」
(何があっても負けるんじゃないわよ……乱威智。そして天崎家とこの人の家族も……)
そう心の中で願った彼女はゆっくりと目蓋を閉じた。
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