第39話~闇の中でも~

「ジーニズ?聞こえるか?」

 あれから五分程、返事は無い。


 全身に寒気を感じるが、汗が滲む。

「なるべく動かない方が良いのか?でも……」

 父さんの時は前に進んで……


 目の前からぼんやりとした何かが露になる。

 それは……愛美だ。


「幻覚か……?」

「…………」

 愛美は無言のまま電撃を腕に纏う。


 そして大きな爪を振りかぶり……電撃爪でんげきそうの衝撃波をその場から放ってくる。


 避けようとするも足が動かない。

 足元を見ると……幼少期の俺と愛美が足にしがみついて泣きわめいている。


 俺は咄嗟に二人を庇い、背中でその衝撃波を受ける。


「うぐふぁッ……!!」

 先程まであった全身の疲労感が更に増し、息が荒くなり目の前がぼんやりとする。

 まるで熱があるかのような感覚だ。


 気付けば刀も手元に無い。

(あの時にすぐ心刀を使っておけば……!)


 でも俺はこんな事じゃ負けない。

 足元をフラつかせながら、素手で彼女へ殴りかかる。


 攻撃が届く前に、腹に拳を食らい首を絞められる。

「あんたの負けよ……」

「ちが……う……!」


「…………」

「あんたは負けた時……無言で俺を、許してくれた……!だから今のお前は……!姉ちゃんなんかじゃ、無い!!」



「はッ!」

 意識を取り戻し、腰を触って確認する。ジーニズはいる。


「フッ、貴様の心を折るのは難しいようだな……」

 前方にはルシファーがいて、周囲は寂れた瓦礫のまま。


「少し話し合いをしないか……」

「息が上がっているようだが……?貴様にそんな余裕があるようには見えないなぁ?」

 奴は余裕を見せつけるかの如く、言葉巧みに煽ってくる。


「お前は……神を恨んでるんだろ?」

「ああそうだ。で?気持ちが分かるとでも言いたいのか?」

 俺は首を横に振る。好きな人を嫌いになる程恨むなんて事は一回もない。でも……


「傲慢な奴は、自分の罪を認めると成長する」

「は?」

 ただただ伝えたいことを一方的に語りかける。


「俺はそいつに言ってやったんだ。お前のやってる事は間違ってはない。でも、考え方は履き違えてる」

「全く意味が分からない」

 嘲笑うルシファーは少し声が震えている。


「そしたらあいつは変わった。その大嫌いな人と仲良くする俺へ憎まれ口を叩きつつも、俺の声には一応耳を傾けてくれた。結果、その大嫌いな人へ自分から近付かなくなった」

「分からない」

 俺は幼馴染みの兄との間にあった話をした。


 そしてルシファーに問う

「お前はいつまでその業に囚われ続けるつもりだ?」

「うルサい……」


 俺は最後の言葉を吐き捨てる。

「自分の非を認めなきゃ、あの時のそいつと同じで立ち止まったままだ。また大好きで大嫌いなそいつを傷付ける」


「ウガァァアアッッ!!ガァアアッ!!」

 ルシファーは自分の首元を引っ掻くが、傷一つ付かない。

 それはきっと、奴の傲慢さが故に起こした罪の一つだろう。


「悪いことは、認めて変えなきゃならない。そしたら、気付かなかった良いことにも気付くようになる」

 俺は再び村正と鞘を手にする。


「君らしいな」

「ああ。俺が勝てた、なんて嘘ついて仲間に顔向けなんて出来ないだろ」

 ジーニズの言葉に頑張れた理由の一つを伝える。


「能力、頂くぞ」

 俺は藻掻くルシファーへ顔を向けて、静かに居合い斬りを決める。そして鞘に刀を仕舞った。


 ぱたりと倒れたのはひ弱な二十代の男。

 金髪で長髪の天使らしい男だった。


「ん?あれは……」

 その男の頭上を、黒と赤が混じった人魂のような物が浮いている。


「早く奴を回収しろ!」

「あ、ああ!」

 ジーニズの指示の元、急いでルシファーの体を掴んでその場から離れる。


「な、何なんだあれは……」

「諸悪の根源ってやつだな。残念ながら予想通り二戦目が始まる」

「はぁ……マジかよ」



 一方、宇宙船の中では……

「おーい、愛美サーン。もう乱威智は降りたぞー」

 父さんが隣の船室から話しかけてくる。


「うむぅ……」

 髪がボサボサのままベッドから起き上がる。あたしは寝ていたようだ。


「あ、起こしちゃったか?悪かったな。ほ、ほら!お詫びにプリンあるから……!ね?そんなに怒らな……」

「うむぅ……」

 船室のドアを開け、衛生カメラの席に座る。


「あーあー!ボ、ボタンとか!いじらないでね!?わ、分かるでしょ?」

「何よ……パパはあたしが機械音痴とでも言いたいの?」

 少し不機嫌な振りをして、持ってきてくれたお盆からプリンの器を取る。


「だってそこはママ譲りじゃ……」

「いいもーん!じゃあプリンは一人で食べるもーん!」

「わ、分かったから……一緒に食べよ?ね?」


 あたしはカメラから乱威智の様子を見る。

 倒れた一人の金髪の男を抱えて安全な所に置くと、巨大化する人魂?よく分からない何かと対峙している。


「あへ?もう一人たおひひゃったの?」

 プリンを食べながら――

(ってこれ杏仁豆腐だし……)


「こ、これ乱威智のでしょ……パパのバカ」

「て、てへへ」

 ちょっと恥ずかしくなって器をお盆に戻す。


「わ、わざとやったでしょ!持って帰って未来にあげるかパパが食べて!」

「いやー、でもぉ~」

 パパのいじわるが始まった。私は強く言い返す。


「あたしのプリンあげてもいいけど!あいつには絶対それあげないで!!」

「なんでかな~」

「…………」

 ウザいので無視する事にした。


「ご、ごめんって……!」

「パパなんてだいっきらい」

「ごべぇんなさぁいぃ~~」

 椅子にしがみついてくるパパを他所に、映像の乱威智を見る。


 何故あたしがここにいるのか、心配するママの保険ということでここにいる。

 そしたらパパは、久々に愛美と親子らしく仲良く出来るなとか言われて勝手に話を進められた。


(ママに話したのがまずかったのかな……)

 恐らくあたしの気持ちは父さんにもバレている。

「はあ……」

 あいつを幸せに出来る結衣にだけは……感付かれたくないと小さな溜め息を吐いた。

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