第38話~堕天使ルシファー~

 奴は体を一瞬丸め込む。

 それが怯んだ事では無いこと位分かっていた。


「ウガァァアアッッ!!」

 奴の地面から藍色の闇属性オーラが溢れて吹き飛ばされる。


 受け身を取ろうとしたが……うまく体が動かず痛手を負う。

「麻痺、か……!」

 この感覚はとても覚えがある。


(能力は雷と闇?ってところか……)

 つまりはジーニズの力の闇属性……

 これ以上カウントを溜めたり心刀こころがたなを使うより、俺独自の炎属性の攻撃を使った方が良さそうだ。


 だがふと思い出す。

(カウントっていくら残ってるんだ……?父さんの時に二回使ったから……あと三回でアウト?)


「グゥワァァアアッ!!」

 奴は俺の側まで来ていて、もう一度黒い爪と大きな翼を振りかぶる。


「!」

 咄嗟に回転して地面に潜り、奴の背後に回るが……翼で跳ね飛ばされてしまう。


「ぐッ!」

 痺れを振り切って刀身に力を込める。

(魔法系は苦手だけど……やるしかない!)

 火を纏った刀身は、全体を炎で覆い始める。


「魔法が不得手なのか?滑稽だッ!」

 奴は手元に黄色のエネルギーを集め始める。


(あれは……!)

 愛美の使っていた雷の電磁砲やレーザーの溜め方とそっくりだった。


 そこで彼女が治樹さんへ言っていたあることを思い出した。

『炎に電気を通して発熱させれば、電気の通らない氷だって水になる』

 こんなようなことを言っていた気がする。


「ジーニズ!あの時の毒属性みたいに俺の能力を氷に変える事って出来るか?」

「出来る!鞘を盾みたいに構えろ!」

 ジーニズは待っていたかのように即答で答えた。


(もしかしてジーニズ……お前は俺を試してるのか?)

 彼へ若干の不信感が募る。


 鞘を盾のように持ち変えると……目の前に氷のバリアシールドが出来る。

 奴の雷のレーザーを受け止め、回りへと電気を流している。


「乱威智!今だ!心刀を使え!」

「え?だってあいつには……」

 そうだ。闇属性は……


「氷の固形物なんて作ってもいずれは割れる!言ってた通りお前自信が使うんだ!」

 ジーニズは珍しく焦った様子で驚いてしまう。


「あ、ああ!」

 もう一度体の中心、心臓へと刀を深く突き刺して全身に冷気を纏う。


(こ、これが属性を纏う感覚……?)

 体の奥底から力が溢れ、地面から魔力が流れ込んでくる。


「この星で良かったな。奴等が使わなかったのか竜脈のエネルギーが溢れる程残ってる」

 ジーニズの言葉を他所に、手には冷気を纏った氷の刀が二つ。


「あとな!君に全部ヒントを教えられる程僕に余裕なんて無いぞ!だから最初からこの試練をやるなんて気が向かなかったんだ」

 ジーニズは続けて話す。俺や父さんに対してなのか少し怒っているようだ。


「で、でもお前だってリヴァイアサンが仲間だとか竜神様だとか……」

「だとしても僕は初戦が良かったよ!」


『パキ、パキパキ……』

 氷のバリアシールドにヒビが入り始める。


「ともかく!これは君だけの試練じゃない。僕の試練でもあるんだ!力足りずだが頼むぞ……」

 確かに俺は自分の事ばかりで、こいつを引っ張ってしまっている……


 俺次第でどうにでもなるなんていつも言ってくれるが、それはジーニズなりの心遣いだ。

 それに甘えてちゃいけない。


「いくぞ!」

「ああ!」


 シールドが割れた瞬間、俺は氷の二刀を地面に叩き付けて氷の衝撃波を繰り出す。


 それは飛ぼうとした奴の足を捕らえる。

 奴は黒い爪でそれを叩き割るも、次の衝撃波が奴の翼を捕らえる。


「今だ!」

 俺は二刀を腰に添える。そして交差する居合い斬りを奴の心臓に叩き込んだ。


「グゥウッ……!!」

 転がっていくルシファーの胸から血が溢れることは無く、大きなバッテンの傷痕だけが残る。


「はあああッ!!」

 二刀を地面に突き刺し、氷の立体影を十体程生み出す。

 起き上がろうとするルシファーに、連続で沢山の居合い斬りを叩き込む。何度も何度も。


「グゥ……」

 奴はまた体を丸め込む。

「やらせるかっ!」


 氷の立体影で奴の上半身を押さえさせる。


 力を溜めた二刀を右側で重ねて、大きな剣へと変える。

「はあああぁぁッ!!」

 駆け出した俺は、一瞬で奴の目の前に行き……


 肩から胸にかけ、力強い大剣振りの催眠攻撃を食らわせる。


 動かなくなったルシファーはその場に崩れ落ちた。


「これで終わりなら愛美ちゃんより弱いな……」

「そうだな」


「グゥルルゥ……」

 奴はまだまだ余力を残しているのか、唸っている。


 ルシファーはいきなり拳を地面に当てる。

 周囲の氷や立体影を吹き飛ばし、俺の元へと戻ってくる。

「ジーニズ……竜脈は」

「まだたっぷりと残ってるぞ……」


 奴は黒いオーラを纏い、消えた。

「来るぞ……」

 ジーニズの声と共に緊張が走る。


 そして周囲が真っ暗になる。

「奴の術だ!気を付けろ!」

「ああ!」

 俺は大きく返事をする。

 だが耳は少し遠いし、意識も失いかねない程全身に疲労感を感じ始めていた。

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