11章 七つの大罪編Ⅱ VSサタン化ルシファー

第40話~憤怒と罪を与える大罪魔~

「おい!ルシファーに息の根を戻せ!」

 俺は巨大化する人魂……いや青い炎に包まれた悪魔へ吐き捨てる。


 運んだあいつは息をしていなかった。恐らくこいつ……憤怒の悪魔、サタンが奪い取ったのだろう。


 声は低い悪魔のようなオッサン。威圧感はやはり凄い。


「どうした?敵であろう?」

「だからと言ってお前に奪う権利があるのか?」


「ああ、勿論だ。奴が墜ちる時、生まれたのが私だ」

 奴はご機嫌な様子でそう言った。


「全然怒ってないぞあいつ……どうなってるんだジーニズ」

 話し方を見るに、イメージと全く違うどっしりと構えた様子だ。


「知らん。まあ、色々な噂もある。気を付けるに越したことはない」

 ジーニズは少し不機嫌なようだ。


「おお、おお!どうしたんですか竜神殿!星から離れて散ったと噂を聞いたのですが?まーさか人に取り憑いていようとは。ワッハッハ、実に面白い……」

 最後の一言で、朗らかな奴の口調が急に小さくなる。


「だから神は殺したくなるんですよねぇ!!」

 見え見えな怒りは大きな拳となって振りかかる。


「避けろ!」

 ジーニズの言葉通りに数十メートル後ろに避けると……

 拳先に愛美とは比べ物にならない程の大きさの雷……雷柱が落ちた。


「な、なんなんだ……」

 膨大な魔力に驚いてしまう。


「あーあー、怒ってしまいました。丁重にお話をしようと思っていたのに……」

「貴様と話すことなんか無い」

 また調子を取り戻すサタンを相手に、ジーニズが話を割り切る。


「ジ、ジーニズ?」

「乱威智、あいつと話しても無駄だ。奴は騙されたルシファーとは全く違う。神と人間を汚す悪の根源だ」

 ジーニズはしっかりハッキリと俺を説得する。


「わ、分かった……」

「良いんですかぁ?いやぁ、完成させるのに時間がかかったかかった。神が食べてはいけないという禁断の実……」

 サタンは手元に浮かせた小さな木の実……リンゴのような物を見つめている。


(あ、あの実は?どこかで見たことがあるような……)

「かのイヴが食べて禁忌を犯したと言われる善悪と知識の実の改良型……絶対能力の実は我が手にあると言うのに……?」


「い、今なんて……?」

「聞く耳を持つな!」

 ジーニズに叫び止められるが、俺は……


「私が引き起こしたんですよ?あの木の実。少年は覚えているでしょう?」

「愛美が……」


 全てが繋がった。愛美がどうしてあのリンゴを欲しがっていたのか……

 俺はその場に崩れ落ちる。


「お、俺が……?」

「そうですよ。先程罪だなんだ言っていたあなたが!あの少女に才能を与えたのです!これで人間も神と対等に戦える!なんて素晴らしい事でしょう!」


 サタンが色々と言っているが頭に入ってくるのに時間がかかる……

 つまりそれが正しいなら……俺はその未来で起こるかもしれない戦争に加担して……


「俺が尻拭いをしてるとでも言いたいのか?」

「ええ?そうですよ」


「あんた馬鹿だろ」

「は?」

 こういう奴にはわざとらしい位が丁度良いと思ったけど、ここまで下手くそな演技で引っ掛かるとは思っていなかった。


「それはお前の手中にあり、お前の作ったもの。つまりお前がそれを作らなければ無知な俺があんなリンゴを取る事は無かったんじゃないか?」


「あなたは何を言っているのです?」

「馬鹿だな。知っている口調で話せば良いものを。傲慢さがまだ残ってるんじゃないか?」

 とりあえず煽り倒してみる。


「そもそも俺が神話をあまり知らないとか思っているような口振りだったが、それをイブに食わせたのもお前ってことになってるぞ」

(一週間前に知った……ジーニズに教えてもらったことですけどね)


「なっ……!」

 悔しそうに怒りを露にしている。


「乱威智、そこら辺にしとけ。はぁ……君を見謝ってたみたいだ」

 なんか凄いジーニズに失望された気がする。


「んじゃ、炎で戦えば良いんだな?」

「いい加減君は属性相性を学んだらどうなんだ?」


「だ、だって属性とか攻撃種類とかあれ多すぎるだろ……」

 正直未来や結衣に聞いてもへ?という返事になる程、能力は無限にある。


「あ、でも竜の能力は?」

「それは……そもそも奴が拘束していたという女に問題があってな?」


「あの女の事は口に出すな!」

 また拳と雷柱が落ちる。

 何とか避けるも……先程よりとパワーアップしている……


「前にも言っただろ?散々嫌がらせをしてきた豊穣の女神、シュブ=ニグラスの話を」

「あー……言ってたな。こいつにも……?」


「あぁ……本当に愚かだ。まさか騙されて関係ない地球人に木の実をばらまき、神の目に触れて追放されるなんて……」

「馬鹿だな……でもそれほどに」

 そいつを愛していた。そう言おうとしたがジーニズに言葉を遮られた。


「いやいや、あいつは邪神にも色んな神にも手を出してるんだ。関わるべきではなかったな」

 ジーニズも煽りに参戦するということは、滅多打ちにしても安全という事らしい。


「んで因みにお前は騙されたことあるのか?」

「…………」

「おい……」

 隣にいるやつの方が相当馬鹿だったらしい。


「ふっはっは、我の事を言えないでないか……?これが?特大ブーメランというやつか?少年?最近の語録は面白いのぉ?」

 サタンが特大ブーメラン知ってるってマジか。


「あーあー戦う気も失せてしまったわい」

「おい、ルシファーに魂を還せ」


「それで貴様に何の得が?」

「ああ、あるとも。それをめぐって争い、お前の能力を奪う。それだけだ」


「おいおい、そんなに能力集めてどうする?彼女がいるのに長生き出来なくて良いのか?不幸になって良いのか?」


「ジ、ジーニズ?」

 心配になって彼に問い掛ける。

「それは最もだ。でも全てをコピーする訳じゃない。竜を還らせる為に必要な物だ」


(凄い不安だな……)

(僕を信じられないとでも言うのか?)

(そ、そういう訳じゃないけど……)

 またジーニズとの心の中での会話が始まる。


(まあ言うなれば多少悪夢を見る。でもいずれ地球に行けばなんとなる方法がある)


「ま、まあなんか必要な物があるらしいから頼むわ」

 軽くお願いしてみる。

「貴様ッ……!」

 サタンは今までより一層憤慨する顔を見せた。


「フンッ!!」

 巨大な手で俺を掴もうとするが、まずタイプが違うから簡単に避けきれてしまう。


「え、こんなに遅いの?」

「その代わり捕まったら即死だよ」

 ジーニズから返ってきた言葉に寒気を隠しきれなかった。


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