15章 七つの大罪編Ⅴ VSベルフェゴール
第51話~世界樹で守られた運命~
「ぐッ……!」
深夜一時、乱威智は激しい胸の拍動と呼吸器の麻痺にベッドから転がり落ちる。
「ら、乱威智!?やっぱりか、お前だけは発作を起こさないと信じていたが……早く洗面所へ行くんだ!!」
俺は何とか立ち上がり、ジーニズの憑依している妖刀村正の刀を持つ。
それを杖にして部屋から飛び出し、廊下の右端にあるその部屋のすぐ右手にある洗面所のドアを開ける。
洗面所に立ち、荒れ果てた自分の姿を見る。
体の皮膚の半分が黒く染まっていた。
黒い部分には赤い目が張り付くしていて、怖い画像を見て感じる恐怖や嫌悪感や不快感よりも何倍も怖かった。
「あ、あんた何して……?え!?どうしたのよそれ!!大丈夫!?」
背後の風呂場から出てきた姉の声に、少し心が落ち着く。
その直後に猛烈な吐き気を感じる。
「おぶうぇぇッ!!ぐぼぁッ!!はぁはぁ……」
口から出て洗面所に流れるのは黒いヘドロのような液体……
「乱威智ッ!そのまま毒素を吐き続けるんだ!じゃないと正気を保てなくなる!」
焦った口調のジーニズ。その的確な助言を聞きながら全てを吐き尽くす。
「乱威智、よしよし……もう大丈夫だからね?だからあともう少しだけ……!ふぁいと!あんたは立派な男なんだから踏ん張りなさい……?」
愛美は後ろから背中を擦ってくれている。
とても温かい。
そのおかげなのか、スムーズに黒い液体は出てきてくれる。
五分も経たずしてその波は治まり、水道で自分を洗うことができるようになった。
「愛美ちゃん?その黒いのには絶対に触れちゃいけないからね?」
ジーニズは自身の口調も落ち着かせると、彼女にそう注意した。
「触れるも何も、勢い強すぎて跳ねてるわよ!!ジーニズ?あんた分かってること全部話なさい?あたしが口を割らないってこと位は信用出来るでしょ?」
強気に反発する彼女の体を見ると、体のあちこちの綺麗な肌に白の液体が跳ねている。
「な、なんで……はぁ、はぁ……」
どうして彼女が裸なのかを聞きたかったけど息が切れて言葉が出てこない。
「無理して喋んなバカ!ってあんまりジロジロ見るんじゃないわよ……!?」
愛美はこちらを心配してくる。だから黙って見ていると、恥ずかしがって体の大事な部分を手で隠す。
「タオルタオル……胸ばっかり見るんじゃないわよ……!あんたってばいっつもおっぱい好きよね……」
こちらの目線と反応を理解した彼女は、バスタオルを取りながらあしらうように話しかけてくる。
「なんで……浄化されてるんだ……?」
ジーニズは裏返った声で、ただただ驚愕している。
「あんたにはその理由分かるんじゃない?あたしにだって誰にも話してないことの一つや二つあるわ。それも今回あたしが同伴した理由の一つよ。全く……あのクソ治樹があそこまで気付くなんて思わなかったわ」
柔らかそうな綺麗な肌に、すらっとしながらも甘美な肉付き。彼女はその体にバスタオルを巻き付けながら愚痴を吐く。
「乱威智、今から言うことを真面目に聞いてほしい……けどお互いこんな感じじゃちょっと……」
愛美は真剣な表情になるも、自分の姿を見るなり恥ずかしがる。
「まっ、てぇる……」
「分かったわ……すぐ行くから」
覚束無い答えを出すと、直ぐに返事が返ってくる。
部屋で十分程待つと、短パンパジャマと白い半袖Tシャツ姿の愛美が部屋に入ってくる……
「お、おま……!?む、むむ……!ぶ、ブラ位しろよ!」
俺は慌てながら彼女のとんがった胸部を見たり見なかったりする。
「う、うるさいわね……!なんかそわそわするし、暑いのよ……姉弟なんだしそんなこと気にしてんじゃないわよ!な、なな何度も見たでしょ……?」
顔を赤くした彼女はそっぽを向きながら胸を張ってくる。
確かにそうと言われれば今更気にすることでもない。
はずなのに、何故か結衣とキスをする時位ドキドキしてしまう。
(だ、だめだろ俺!気にしない気にしない……姉弟なんだ……憎たらしい姉弟……)
「で、愛美ちゃん。君がどうして
ジーニズは甘い雰囲気を断ち切り、彼女へ真実を明かすように問い詰める。
「ええ、それが出来るのはそれを作ったシュプ=ニグラスと、原始の双神を受け継いだ人間だけ。乱威智に分かりやすく話すと、原始の双神って言うのはね……」
愛美が俺にも分かるように彼女の立場を話してくれた。
元々一人の神だった原始の神が竜の星や竜の力をコントロールしていた。
それはリヴァイアサンの記憶で垣間見たあの神様で間違いないだろう。
だが善の邪神だったシュプ=ニグラスと悪の邪神達は人類や異能生物への進化をもたらした。
長い時間と歴史が経ち、宇宙の間を光よりも早く移動できる研究が進みつつあったのだ。
神はそれを恐れ、竜にも異能力を与える。
更に選ばれた地球の人間の男の子と、宇宙の人間の女の子を、星に最初に辿り着くようにした。
その男の子が
その女の子が、俺達の城の伝承にもあった
能力者を追ひ、時現夢界の覇者と共に宇宙を横断しせり
その伝承も掛け合わせると……
原始の神が、邪神の王アザトースの協力を借りていたそうだ。
今の俺とジーニズのように、その女の子の能力を更に引き上げ……
竜の星を起点に、堕ちてしまった善の邪神シュプ=ニグラスの代わりとして成り立たせる為に……
(眠さも相まって訳分かんなくなってくるな……)
「で……あたしが食べたあの木の実は悪魔や邪神の物ではなく、その子が時空を越えてすり替えた世界樹の木の実だったってことよ。はぁ……あんたの前でまで騙されてる振りをするのは疲れるわ……本当に」
溜め息を吐きながら得意気に胸を張る。
違う場所が突き出て……
「で、サタン……お前は気付いていたのか?」
俺はサタンに問い掛けてみると、チラッと背中から人魂が飛び出してくる。
別に熱かったりはしないから服も焼けない。
「いや、マジかよ……そもそも絶対能力ってのは善の邪神が生み出した物で、俺達大天使だったやつらかあのシュプの女神様しか管理を任されていない代物だってのに……」
本人の話によると、大天使かシュプ=ニグラスしか管理を任されていないらしい。
(だからマンモンやその先の奴らはシュプ=ニグラスの手に落ちてるってことなのか……)
悪魔の順序変更の件も納得がいく。
「こっちは話したわよ。ジーニズ、あんたはさっきのえいえんののろい?とやらについて話しなさい?」
愛美は少し威圧しているのか、片手に電気を通わせ、玉を揉むように白い波動を発生させて遊んでいる。
全身がゾクッとした。
「へ、変態……!」
やっぱり俺のことをよく見ているのか、その行動を一瞬で止めて恥ずかしがっている。
「まず順序を追って説明すると、リヴァイアサン戦の時にこいつは不死身の
ジーニズは懇切丁寧に前々回の戦闘のことからおさらいする。
「ど、どらごんうぉー?」
愛美はぽかんとしながら聞き返す。
「竜だって戦争を起こした。それを収めるのに使った……いわば心の統一とか宗教チックって言えば分かるか?あれを本当に行うのに特化した絶対能力みたいなもんだ」
ジーニズはまた丁寧に、愛美にでも分かるように説明する。
「あーはいはい、なんか癒しの歌とかそういう系ね」
愛美はゲームの技名で例える。
(まだやってるのかそのゲーム……ほんとにゲーム好きだな……)
「話を戻すぞ……それを得てからこいつは確かに命を落とした。七回目だ」
ジーニズはゆっくりと七回目の生き返りについて解説を始める。
「前に君と二人の時にも言ったはずだが、常人には七回目は耐えられない。それを越えたら今度はあの覚醒能力に精神が耐えられるかだ」
今度は俺も初めて扱ったあの能力。神の使いである竜神を押し退けたあの能力……
「あれが……もしかして一番強い……」
愛美は思い出したかのような素振りで驚いている。
「そうだ。覚醒能力はシュプ=ニグラスと邪神の王アザトース、そして原始の神だけが命を産み出し、進化させ、破壊するためだけに使う力だ」
ここから先は俺も初耳の話。
でもそれが本当なら、ジーニズがどれだけそれをやり遂げなければならなかったのか。
その気持ちだけは分かってくる。
「ねぇ、あんたは一体……」
愛美はジーニズの存在について触れるも……
「君だけは信用できるからって伝えたはずだ。僕が兄さんと共に、どうして元の体を失って神様にその精神を捧げたのか。ジズや色んな姿として、こんな裏技みたいな覚醒能力の伝承で邪神達に抗ってきたのか……」
ジーニズがその覚醒能力をいかに人間に宿したかったのかが分かる言葉だった。
「ジ、ジーニズ。俺には……」
俺はまだ話されていないこと。少しこの先が不安になってくる。
「ごめんな乱威智……まだ教えられない。君をアザトースに引き合わせるまで、内緒の約束なんだ……分かってくれ……」
誰かとの約束なら仕方ない。
でも
原始の神が選んだって言うのなら分かるが、出会う時は愛美を任せられるのか確かめた方が良さそうだ
(俺いつから愛美の父さんになったんだ?)
「はぁ……君達は落ち着いて話を聞いてられない子達だもんな。話をもう一回戻すぞ」
なんかジーニズに俺までも呆れられた。
俺一回しか口を開いてないのに……
「こいつはその覚醒能力の反動に一日耐えてマンモンと戦った。その
ジーニズは全ての説明を終えたことを伝える。
俺はやっと寝れる安心感で二段ベッドに横になった。
(俺だけ仲間外れみたいじゃん……まあもうすぐだし、それまで頑張るか……)
「ねぇ……あたしがそれを浄化できるってことは……」
愛美は自分の両手を見つめて嬉しそうにする。
「そうだ。君はこの子の命を救える。これで満足かい?」
ジーニズはすぐに話を終わらせたい様子だが、愛美のこの感じはすぐには終わらない。
どうせどうやったら出来るの!?とか始まるに決まってる。
「で、でも!だったら今すぐにするわ!これからあたしがどうしても
予想通り愛美は今すぐにやろうと言ってきた。
「ねぇ君はさ?それがどういうことか分かって言ってるのかい?」
ジーニズは意味ありげに答える。
(え、それって殺してもらわなきゃとかまたきっつい条件だったりするのか……?)
「へ?」
愛美もポカーンとしてすっとんきょうな声を上げる。
「はぁ……浄化について
ジーニズは呆れた様子で話を渋っている。
(ちょっとこの反応は俺も気になるな……)
「ちょっと!勿体振らずに言ってよ!」
愛美俺と同じようなワクワクした表情で怒っている。
「それはね?君が彼の生殖器を刺激し、全身のたんぱく質を含んだ物を君が体内で受け取って、その通り道を通して浄化するしかないんだよ?」
ジーニズの言うそれは受精そのものだった。
(おいおいおいおい……!それって……)
俺も驚きを隠せずベッドから起き上がり、言葉も出ない。
「へ?どゆこと?」
愛美はまだ分からないという様子でポカンとしている。
「だから……!君達が性行為……つまりセックスをして、愛美ちゃんの体内に彼の精子を吐き出してもらわなきゃならないってことだ!」
ジーニズはこそこそ声で彼女に怒鳴り付ける。
「え?ん?セック……ふぇ!?そ、そそそそそそれってあたしとこいつがその……せ、せせせセックスして……な、中に……出してもらわなきゃ……だめってこと……?」
最初は理解できなかった愛美だったが、内容に気付くと言葉を噛みまくりながら顔を真っ赤にする。
「そうだ。現に最初に辿り着いた原始の双神の場合は逆だったが……そうしたと聞いたぞ……」
ジーニズは聞いたであろう話を元にそう答える。
「…………」
彼女とジーニズは黙ってしまった。
気まずい沈黙が訪れる。
(例え必要であったとしても……ゴムはダメって言うのは冗談きっついなぁ……)
どう考えても妊娠してしまったらこの星ではアウトではないにしろ、国側の人間としてはアウトだ。
しかも貴族ではなく王国だ。過去に繰り返されているであろうそれを、再び繰り返せば遺伝子的に弱い遺伝子が出来てしまう確率は跳ね上がるだろう。
「そもそも、君は生理中だろ?アウトじゃないか」
ジーニズは安心の一言を繰り出す。
「もう終わってるわよ……そ、それに……慌てて生理痛の薬とか纏めて買ったら、その……」
愛美は恥ずかしそうに人差し指と人差し指をつんつんと合わせながらもじもじしている。
(あぁ……あの時か……)
「お前……分かったぞ。コンビニでムキになった時にピルとかまで買ってしまったってオチだろ。更に生理中だったからイライラしてて鞄の中も整理しないまま付いてきたって訳か?」
俺は愛美の話せない内容を、ジーニズに解説する為に質問した。
「そ、そうよ……!べ、別に何も悪いことは……!」
愛美は正当化に走り出すも、肝心なことに気付いていない。
「違う……!お前が今それを言ったってことは……そ、そそその……お前の心の準備が……」
俺も顔が熱くなるのを感じながら、愛美の本心を露にしようとしてしまう。
「ち、ちちち違うわよ!私は正しい真実を話しただけ!揚げ足を取らないで!」
愛美はいつもの照れ隠しの反応で怒る。
勿論こそこそ声だ。
二人ともそこの理性は保っていた。
「じゃ、僕はおいとまするよ」
「俺もだ。わざわざそんなシーン見たくもない」
ジーニズとサタンはいそいそと部屋から出ていった。
「あ、一応部屋に誰も入れないようにしておくか……?」
「そうだね……!よろしく頼むよサタン」
二人は仲良さそうに部屋のドアに一瞬で魔方陣を唱えて密閉空間にしてみせた。
「おいっ!」
俺がドアに駆け寄り、こそこそ声で叫ぶも無視だ。
「えーっと朝七時っと……んじゃおやすみ」
サタンは詠唱を組み終わり……
「おやすみ~君達も早めに終わらせて明日に備えるんだよ~?」
ジーニズは冗談も無しに真面目な対応をしてくる……
膝から崩れ落ちる。
「嘘、だろ……」
「あ、ついでに催淫効果……」
サタンはまだドアの向こう側にいたのか、調子に乗ってとんでもない単語を発する。
「サタン……そこまでしなくても大丈夫だよ。最初の時位、二人の意思で……ね?」
「そうだな……初めてだもんな」
そうして二人の声は遠ざかっていった。
二人で密室。あんな話をされて意識しないはずがない。
「ねぇ……あんた流石に初めてよね?」
愛美は俺が初体験であることを聞いてきた。それならば今回は断ることが出来るからであろう。
「いや、その……だって俺だって男だし……キスも春の終わりにして、もうすぐ七月になるんだよ?」
「まさか……」
俺はそれっぽい発言をして愛美を驚かせようとする。
「初めてです……」
悔しい。とても悔しい。
「そうよねぇ……結衣だもんねぇ……あんたは悪くないわよ……よしよし」
愛美は俺に近寄り、頭を撫でてくれる。
だがその時……愛美の胸が当たり、何かポチッと押せるようなスイッチのような突起が触れる。
固かった……
「な、なぁ?あ、当たってるぞ……ち、ちちちく……ちく……」
流石に最後の言葉までは喋れなかった。
「バカッ!う、うぅ……」
頭をバシンッと叩かれて彼女は離れてしまう。
いつもの甘いスイーツのような香りはまだ残っている。
「ね、ねぇ?」
愛美はまた何かを聞きたい様子だ。
「な、なんだ?」
元気になっている下半身をうまく隠しながら答える。
「その……固くなってるんでしょ?」
愛美はまたとんでもない発言をしてくる。
「な、なななっなってないし……!」
俺は強がることしかできない。
「ねぇ、口でももしかしたらオーケーなんじゃない?」
愛美のその発言で更に元気になってしまう。
眠気なんて緊張で吹き飛んでいることに気付く。
「だ、だだだだめだろ!あいつめちゃくちゃ丁寧に言ってたじゃん最初……」
俺はわざわざジーニズが細かく説明していた理由を話す。
「確かに……そうよね」
愛美も納得する。
次の瞬間……
『シュンッ』
物体の瞬間移動をサタンがやっているのか、飲用する避妊用ピルとローションと媚薬が飛んでくる。
それは悲しそうに俺達の座る二段ベッドの一階部分に転がった。
「あたしは好きな人いないし……あんたになら良いけど……あんたは結衣が初めてじゃなくてどうなのかって問題よ?」
愛美は俺の気持ちを確かめようとする。
姉としたらそりゃ当然だ。大切な弟が苦しむ姿なんて見たくないだろう。
「いやいや、浮気だろ完全に」
でもそれは今するのは絶対にいけない気がした。
「でもあんたが正気を保ってられるならあたしは今回限りって割り切れるわよ。こんな気持ち良くなるようのやつなんて使わなくったってね」
愛美はローションの入れ物を見ながら呆れ笑いをする。
(姉ちゃんは本当に昔から覚悟があるな……)
「そもそも俺が気持ち良くならなきゃ……その、出ないでしょうが」
でも俺は大前提の事を話す。
「た、確かに……」
彼女も納得する。
「じゃ、じゃあさ!あんたは自分で慰めて出そうになった時に……」
愛美は都合の良すぎる提案をする。
「いや、見られたくないから。逆に俺が今、お前がナニしてるとこ見たいって言ったら見せてくれるか?無理だろ?」
理論的なことを並べてなんとか彼女の決心の穴を塞ぐしかない。
恐らくノーブラでアレも固かったし、愛美は若干興奮状態なのだろう。
さっさと寝かすしかない。
(そうだ!ってジーニズがいないんだぁ……)
「べ、別に……見たいなら、い、良いけど……?あんたがそれで気持ち良くなれるなら……」
愛美からとんでもない回答が飛んでくる。
でもさっきのジーニズの言葉の一部を思い出す。
「でもお前が俺の生殖器を刺激しないととかあいつ言ってたじゃん……」
俺はそれではだめだということを証明して、正気に戻させようとした。
「ねぇ、こっち向いて?」
愛美は真剣な話がしたいのかこっちを向かせようと両肩を掴む。
「なんだよ……んむっ!?」
振り向くと、いきなりキスをされて押し倒される。
「れろっ、ちゅっ、んむっ……」
俺の唇や口内を舐める彼女は欲情をそそった。
そして甘い味と甘い香りに蕩けそうになる。
というか……視界が蕩けている!?
「ごめんね、乱威智……あんたを守るためだったらあたしは全力を尽くすわ!」
彼女は何かを言っているが……よく分からない。
ゴソゴソとこちらの上の服だけを脱がせようとしているがぼんやりしてて見えない。
「意識がまだあるのね……ならもっと必要よ、本当に痛いから」
彼女は何かの容器の中身をがぶがぶと口に含み、またキスをしてくる。
「んくっ、ぐじゅっ、ごぷっ」
彼女はぬるぬるとした辛いスースーとした液体そのものを注ぎ込んでくる。
(そのまま飲ませればいいんじゃ……まさかこれも何かの……?)
少し考えるも纏まったような纏まってないような……意識がどんどん遠くなる。
「ごくっ……じゅるるっ……」
俺は溢しながらも、ゆっくりと飲み干すことしかできなかった。
口元が麻痺していて、彼女の舌の指示通りに飲み込むことしかできなかった。
「まっひぇ……」
最後の言葉の捻り出すも、俺の意識はそこで途切れた。
「ごめんね……あんたは眠ってなさい。これであんたは自分を守れる強さを……!」
次の日の朝六時、目がパッチリと覚めた。
いつもと変わらない朝。記憶が混濁していた。
「え?」
(昨日って俺……なんか苦しくなったような記憶あるんだけど……)
それから先が思い出せない。
そしてベッドには謎の赤い血の滲んだティッシュの固まりがいくつか。
(また傷が開いたりとか……)
「痛っ!」
起き上がると胸部に痛みが走る。
寝間着である半袖の赤い無地のTシャツを捲り上げる。
俺の胸部には、大きな手形の傷痕があった……
白く光ったその傷縁は何かを埋められているようにも見える。
「なんだこれ……?」
ドアの方を見ると、横の壁は穴が開いていて廊下と繋がっている。
「?」
俺はよく分からぬまま父さんと朝ご飯を食べ、ベルフェゴール戦へと向かうのであった。
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