13章 七つの大罪編Ⅳ VSマンモン&???

第46話~強欲の悪魔 マンモン~

「そう言えばさぁ、色々大罪には順番があるけど。何でどこにもない順番で回ってるんだ?」

 俺はシャワーを浴びた後、ソファーでゆったりしながら父さんに問い掛ける。


「うーーん……星が近い順」

「え」

 その腑抜けた答えに驚かざるを得なかった。

(もうちょっと考えてくれても……)


「うそうそ。確かに父さんが回った順とは違う。力と絶望の重さの順だ」

(そ、そんなの人それぞれじゃ……)

 俺はそれにもあまり納得出来ない。


「戦えば分かる。ともかく彼らの戦意と力を奪うことが先決だ。でも……こうも早く回られちゃなぁ。父さんは二週間もかかったのに」

 見事に話題を変えられ、早いことに複雑な表情を見せる。


「…………」

 運が良かったなんて言おう物なら奥の部屋から雷の光線が飛んできそうだ……


「と、父さんさぁ……やっぱいいや」

 奥の部屋のドアを見ながら話しかけると、とてつもない殺気を感じた。


「どうした?皆が恋しくなったか?」

「いや、何か順番のことはぐらかされたなぁって……」

 正直に感じたことを伝える。


「ほほう?」

 一瞬父さんの目がギラリと光り、びっくりしてしまう。

(下手な口出ししない方がいいなこれ……)


「や、やっぱ何でもないやぁー。もう寝るね。おやすみ」

「おう、おやすみ」

 父さんはいつもの笑顔に戻ったけど……

 こんなのゆっくり休めたもんじゃない。



 ――翌日――


 無事目的の星に降りたのだが、金銀財宝やらキラキラしたもの、豪華そうな物等がとっ散らかっている。


「マンモン……強欲の悪魔か」

「君はこの先をどう予想する?」

 足場を確保して一人呟くと、ジーニズに質問される。


「よ、予想って?」

 とりあえず聞き返す。何の事か予想はついてたけど間違っているかもしれない。


「分かってるんだろ?何故この試練を勧められたのか。何の影響があって順番を左右させなければならなかったのか……」

 予想通りの答えに安心する。


「そりゃあな……確定的なのが昨日のアレだ。奴がわざわざ干渉してリヴァイアサンを星から遠ざけた。目的があったのか、組織と関係してるんじゃないか……」

 昨日の夜、ジーニズが眠った後に一通り考えた予想を打ち明ける。


「そこまで考えてたのか。奴等は能力を司る機械を生産している……リンゴが関わっていてもおかしくはない」



「あぁ……それに計画書には絶対能力の事が主に書かれていた。なのに門番にその様子は無かった」

 治樹さんに渡した計画書の事を話す。

 その通りで時雨も紗菜さんのコピーは絶対能力持ちじゃない。


「何か繋がる道筋があるだろう。奴等からキーを聞き出せると――」

『ドスンッ!!』

 ジーニズからの返事の途中、目の前でとてつもない地響きがした。


 落ちてきた巨体の中年の魔人。とでも言い表せるような姿だった。

 上半身裸で金色のコート、金色のズボン、金色の素肌。

 手に持っているのは……ハチミツ!?


「久々の挑戦者じゃのう?一つゲームでもせんか?」

 ニヤニヤと薄気味悪く笑う魔人。ハッタリやズルをしてきそうな悪い顔である。


「あんたがマンモンなんだな?済まないがゲームにしに来たんじゃない。お前を屈服させてシュブ=ニグラスについての記憶を見させてもらう」

 俺はゲームの誘いをはっきりと断り、腰の鞘に手をかける。


「え~~おじさんこわいこわ~~い。親父狩りはやだねぇ~~」

 更ににやけると、奴はこちらを馬鹿にしたような口ぶりで笑ってくる。


「奴だけは許せん……」

 後ろからボッとサタンの人魂が現れると、ボソッとイラついたような口調で呟く。


(ゲームで負けたのか……?)

「やめとけ、煽られるぞ。あーいうのは典型的だからな」

 家にも傲慢なゲーム好きの姉妹が二人……


『バッゴン!!』

 空から雷が目の前に落ちた。


(あ、愛美生理中だったな。俺も気を付けないと……)

 ヒヤヒヤしながらも言葉には気を付ける。


「誰の雷?」

 マンモンはキョロキョロと辺りを見渡している。

(奴……もしかして)


「フヒヒッ、その驚きの表情は気付いちゃった~?分かっちゃうんだよねぇ臭いで。能力の出所がさ。なんとなくね?」

 よく知っている感覚が珍しくないことにがっかりもするが……


 その本質についての方が、俺にとっては餌でしか無かった。


「全部……教えてもらおう」

 俺は質疑したい気持ちに抗い、それだけ告げる。

「強欲だなぁ~~、切断」


 奴は隙もなく何かを呟いた。

 その瞬間、俺の手足は深く切り裂かれる。

 そんなの痛いに決まっている。

 俺はしゃがまがざるを得なくなり、傷口を押さえる。だが血はどんどん溢れだしてくる。


「欲しいものはぜーんぶ手にいれなきゃいけないんだよねぇ~~能力も、絶対能力さいのうも」

 奴は嫌味ったらしく才能という言語で表してくる。


「お前にッ!何が分かる!」

 妖刀村正は勝手に鞘から抜け出し、俺の心臓に刺さっていた。

(いつの間に……)


「ほぉ?こりゃもう奇襲は無理かぁ」

 奴の言葉を無視して、心刀を発動させる。


 吹き出した血は一瞬にして黒く染まって戻る。

 赤い髪が白く染まり、白炎を発動させた。


「カウントリセットされたんだっけ?じゃあ君はもう、死人だね?」

 船で二人に告げられなかった言葉、悲しそうな対応は確かにそれだったのかもしれない。


「だから、何だ……俺は痛かろうがなんだろうが、決めたんだ。てめぇらの野望は仲間を傷付ける。俺が止める」

 言っていて気付いた。思い出した。

 俺が無理をする度に泣く結衣や家族。友達の辛そうな顔を……


「でもぉ、君も人の事――」

「うるさいッ!!」

 俺は刀と鞘に炎を宿すも、俯いてしまう。

 理に叶わなくたっていい。一方的だっていい。生きていてほしいんだ。


「はぁ……やっぱりゲームしないかい?彼女から貰った力じゃ君なんて相手にならないし。その点ゲームならフェアだ。どうだ?別に負けたって構わないさ。君の宝物をくれるならわざと――」

 彼は趣旨を逸らそうと、良い条件へと持っていこうとする。


「黙れッ!!」

 その先にあるのは絶望だけだ。

 奴は大切な物を奪って俺の心を折りたいらしい。確かにそうすれば、負けても提供主には笑顔で迎えられるだろう。


「ふぅん。この先の戦いも楽しみだなぁ。君がどんな思いで心を奪われていくのか」

 奴はそれでも話すのをやめない。また油断を狙うというような魂胆だろう。


 俺は刀を振りかぶり跳ぶ。空気抵抗を操り、一瞬で奴の目の前へ。

 奴の首元狙って、催眠の攻撃を入れようとする。


 確かに愚直だと思うだろう。だが奴の頭の良さを利用すれば必ず二択になる。

 偽物か本物か。


 奴は巨大な手を、何かの力で追い付かせて俺を掴もうとする。


 握り締められても、俺は止まることなんてない。

 奴の対応を読んだからこそ、性格を読んだからこそ、そこで立体影を使うしかなかった。


 俺は左右に高速移動し、現れた二体の立体影同士の炎の斬撃で、奴の手を焼き斬る。

 と同時に地面から奴の背後に回る。

 そして下から村正の催眠抜刀斬りで背中から首元、後頭部までを一瞬で切り刻む。


 ガクンと奴の頭は下を向く。

手応えはあったが、こんな一筋縄でうまくいけばこいつが……

 あんな圧倒的な力を秘めたジーニズが、手を焼いたりしない。


 奴は治すでもなく、そのまま前方に倒れて寝てしまう。

 倒れる地響きが鳴り、金品や宝石が辺りに散らばる。


 俺はそのまま地面に着地する。

 しばらくしても奴は動かない。だが、ジーニズの反応も無い。

(もしかして……まずい……!)


「ジーニズ!!」

 声に答える物は無い。手にしていた村正も無い。


(そうか……中枢神経を斬ったから直接幻覚に……)

 奴に焦りを利用され、まんまと誘い込まれた。


 俺は頭を右手で押さえ、目を閉じた。

「乱威智?」

 結衣の声が目の前から聞こえる。


「ねぇ、キスしよ?」

 奴は幻覚を使って、一番大切な人を俺の目の前に写しているのだろう。


(偽物だ……)

 でも石鹸の甘い香りも、声色も本物と同じで驚きそうになる。


「ねぇ、私の事嫌い……?」

(そうかそうか……そうやって俺を折ろうとしているんだな)

 大体この先の流れが分かった。嘘だと分かっても、辛さは計り知れないだろう。


「そう、やっぱり愛美が好きなんだね」

 体がビクッとする。昔の気持ちを晒されているのではないかと思ってしまう。


(幻覚だ……)

「ごめんなさい……私、耐えられないから――」

 耳を塞いだ。

 でも聞こえてくる。彼女の叫び声が、痛む声が。


 それから三秒程、間が空いた。


「おいおい、その程度か?」

 俺はもう吹っ切れた。耳から手を離し、目の前の血にまみれた彼女を目にする。


 全て現実ではないと逃げるのではなく、それでも受け止められる。

 生き返らせられるという自信を、心を見せる。


「言ったはずだ。俺はもう決めた。そもそも死にまくって折れない奴にこんなのは無力だ」

 こういうのは夢で何度も見ている。だから決定的な瞬間だけは見ないようにしてしまったのかもしれない。


「ふぅーー」

 息を吐き、腰に手を当てる。刀が、ジーニズが側にいることをイメージする。

 そしてそれを抜刀し、空虚を斬り裂いた。



「なッ!?心症幻覚を……フフ、少しは根が強いみたいだな」

 奴の言葉と共に周囲が変化する。

 現実の感覚や温度、金品の汚い匂いへと変わる。


「覚悟があるからだ。お前は幻覚がヘタクソだな。それとも演出に囚われたか?」

 逆にこちらが奴を煽る。

 挑発するのは得意分野。今度はこっちの仕掛けるターンだ。

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