第5話~能力覚醒~

 未来がそれぞれの銃器を遠隔操作で構える。

『ガチャッ!』

 まるで透明人間がいるかのような、自然な動作で銃が勝手に弾を装填する。


「なっ!」

 ジーニズが声を漏らすも、その数秒の間に柱に隠れた。

『ズガガガガガガガガッ』

 セットされた機関銃やミニガンの連続的な音を合図に、花火のような轟音が鳴り響く。


『ピュゥゥーーー……ドォオオオオォォン』

 他の銃器の音も聴こえるが、その轟音で耳がやられてしまって微かにしか聴こえない。


 沢山の銃器をいっぺんに動かすなんて相当なテクニックだ。

 だがそれを未来の能力、念動能力サイコキネシスでやってのけた。


 確かに弱い念力なら引き金を多数引くこと位はできるかもしれない。

 でもそれぞれの物が異なる的を見定めることは、使いや式神を従えていないとかなり難しいはずだ。


 しかもこれだけの量は、膨大な念力に耐える忍耐力、体力が必要になる。

 ジーニズの兄貴といえど、未来自身は体力が少ない。必ず隙ができる可能性はある。


 だがしばらくたっても撃ち続けているせいか、病院の人達は無惨な姿に変わってしまう。電気も消えてしまった。

 そして故意なのかほとんどの柱が傷付いている。


 俺達が立ち向かうことも分かっているから、柱を傷付けて一部分を崩落させる気だろう。

「やはり未来のスピードとあいつの体力が……ゲホッ、ゲホッ!」

 耳を押さえながら喋るが、辺りの煙幕が酷いためせてしまう。


「互いを補っているのか……ゴホッ」

「君はそれに劣らない脅威的な速さで、騙し討ちするのが得意じゃないか」

 嫌味なのか誉めなのか……やっぱりジーニズは刀だからか噎せていない。


「兄さんは罠なんか仕掛けて待ったりはしないだろう」

 彼は確信があるのかはっきりと言い切った。

 ふと一ヶ月前に愛美に言われた言葉を思い出す。


『ずるい奴は嫌いだ。正直なあんたが――いつも胸張るあたしの後ろからついてきてたあんたが……もういないことに傷付いたよ』


「君は……どうするんだ?」

 ジーニズの声でふと現実に戻る。もう迷わない。

「決まってる。俺達が生き残ってけじめをつける」

 小さい頃に迷うなと言われた愛美の言葉。それは今の俺にもきっと響いてる。


「じゃあ僕も正面から衝突するしかないか。あの子の首元を狙うんだよ」

 俺はジーニズの刀を鞘から抜き、残った柱を背に自身の心臓目掛けて刀を突き刺す。


「ぐっ……!」

 赤い血が乱威智の胸から溢れ出す。

 溢れ出したその血は空中で赤から黒に変化し、刀を突き刺した胸の穴に戻っていく。


 その反動からか刺さった刀は勝手に押し出される。

「あぁっ、ぐぅぅ……」

 俺の属性能力エレメントスキルは炎属性の白炎はくえん

 この行為はジーニズの力を借りて、能力全般の強化をしている。


 そしてジーニズに封じられている能力をもっと取り入れる、覚醒状態に近づける為でもある。

 乱威智の体は赤い光に包まれ、赤い髪は白い髪へと色が変わっていく。


『成功みたいだな』

 ジーニズの声に被せてくる低い声が柱越しに聞こえた。

 瞬時に刀を右から後ろにかけて振るが、奴は左の手の平で触れずとも軽々しく押さえ付けている。


「遅いし弱いよ」

 奴は笑いながら答えてくるが、別に怒りもしない。

 だが俺ら家族にしか無い速さの遺伝能力。それをものにした努力。


 それを分からない、憑依したこいつだけには言われたくなかった。

「その楽しい時間を最悪な形で終わりにしてやるよ」

 押さえている力を利用し、回転しながら上に跳ぶ。腕の力と刀を器用に使ってそのまま奴の右側に回り込む。


 そして地面へ着地寸前、回転した勢いで首筋目掛けて刀を斜めに振り下ろす。

 奴はそれより早く首元を守るように右手をかざすが、そこにはもう刀は無い。


 また回転斬りをしてくるなら次の場所は反対側だ。

 奴は左手を振り上げようとするが、反対側に移動したはずの俺はもうそこにもいない。


「上等だ……!」

 奴は目を閉じて呟くと、静かになった。

「そこかっ!」

 離れた床を目掛けて拳を振りかざしている。

 と同時に天井を突き破った俺は、空中で無理矢理勢いをつけながら回転して炎を纏う。


 床に振りかざされる拳と同時の速さで、そのまま彼女に斬りかかる。

 だが、その寸前で奴の姿が消える。同時に後頭部を手で掴まれ、床に叩き付けられる。


 未来は精神不安定時のみ、小柄な体と細い腕からは想像もつかない程の怪力を発揮する。

(能力覚醒で、これも無理矢理……)


 彼女を物のように扱う、こいつに憤りを覚えた。

 俺の体は簡単に床を越え、一階の地面深くまで叩き付けられる。


 足を使い蹴飛ばそうとするが、空虚を蹴った。

 奴は空中に移動し、拳でもう一度殴ろうとしてくる。

 転がって避けた事で、腹に当たる予定の拳は地面に突き刺さる。


「また回転斬り?」

 奴の言葉通り、空中から首筋目掛けて回転斬りともう一つ。

 俺独自の遺伝の能力、立体影りったいえいを使う。もう一人の俺が鞘を持って、奴の真下の地面から現れた。


 この状況下で選択肢は二つある。裏を掻き、確実に立体影の鞘を当てるか。

 その裏を掻き、鞘をフェイクにして体制を整えてから催眠攻撃を仕掛けるか。


 俺達の目的は、器である未来を眠らせる事。

 今のこいつは、相手のメリットが強い方に注意をするはずだ。

 奴は首もとをに手をかざすが、刀を持つ乱威智の姿は消える。腹部に鞘を当て、そのまま二階に叩き上げる。


 ふと一階の周りを見渡すと病院の人達は血塗れで、もう元には戻らない姿に変わり果てていた。

「俺達はまんまと時間稼ぎさせられたのか……」


「まずいぞ乱威智!」

 いきなりジーニズが大きな声で話しかけてきた。

「どうした……?」

「仕掛けられたんだ。兄さんはもう愛美ちゃんの病室に……」

 まさかとはいえ、もう着いているなんて。相手の目的が予想もつかない。


 急いで二階に飛び越えて、二階のナースステーションに着く。

 そのまま愛美の病室廊下に向かうが、見えない壁に阻まれる。

『キィィン!』

 刀と鞘で斬りかかるが、弾かれて壁は壊れない。


「どうやったら壊れるんだっ!」

「早く着くなら回り道するしかないよー」

 壁の向こう側、愛美の病室前に奴が現れ、不敵な笑みを浮かべていた。


「おい!待て!」

 その言葉を待たずして奴は廊下の暗闇に消えていった。

「くそっ……!」

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