第41話~憤怒の魔王サタン~

「スゥゥゥッ」

 奴は手で俺を掴もうとするのを止め、大きく息を吸う。


「ブ、ブレスか!?」

 最悪地まで溶かされるので上にしか逃げ場がなくなる。


「残念ながら違うよ」

 ジーニズは驚くことなくただ否定する。

「え?」


 息を吸い込んだサタンは青い炎から実体化した魔王のような体を持つ。


「余の久々の戦、楽しませてくれるぞな?」

 赤く炎に包まれた皮膚、雷を纏った曲角。


 赤い豪腕は物凄い速さで叩き付けられる。

 すでに避けたが……流石にあれを食らったら一溜まりもないだろう。

 地面は砕け散り、辺りは熱気に包まれる。


「火に効くのは水だけど……やっぱり」

「雷が危ないな。あと因みになんで使えるか分かってるか?」


『ドゴォンッ』

 岩を頼りに高速拳を避けながらジーニズの問いに質問返しする。

「え?なんで?」


「若干だけど僕が優華ちゃんに触れたからだ」

『ドゴォンッ!』

 サタンが岩を破壊する音と共に驚きの答えが返ってくる。


「え!?お前触れるだけでも平気なのか!?」

「平気なだけだ。気絶はできない。しかも一瞬じゃ無理だからな」


『ビュン!』

 奴は破壊した岩を飛ばしてくる。うまく避けながら思考を重ねる。


 つまりはあいつに触れればオーケーという事か?

「いや倒すから」

「無理だ」

 真っ向から否定されてしまう。


 俺は岩を足場に奴の後ろへ回り込む。

 そして……

「はあああぁぁぁッ!!」

「君は……!まさか!」


 俺は妖刀村正に炎の属性魔力を注ぎ込む。

「角を狙え!」

「元からそのつもりだッ!!」


 落下する岩を頼りに力を一心に溜める。

 奴が振り返った瞬間。


「今だ!」

 十メートルはある炎を帯びた大剣で奴の曲角二つをぶった斬る。

『ズガガッ!キュィィィン!』


 何故か能力を吸った音がする。

「ざーんねーんでぇーしたー」

 斬り裂いた後の剣が縮小する僅かな硬直。サタンの左手に掴まれる。


「ぐはッ!!」

 全身が締め付けられ強烈な痛みが走る。

「さっきまでの余裕はどうした?」

 見ると曲角はすぐに生え変わっている。


「握り、潰される……!」

「乱威智!心刀だ!」

 踏ん張って村正でサタンの指何本かを切り裂き、心臓に突き刺す。


「ぐっ……!おらあぁぁッ!!」

 膨大な魔力が胸に注ぎ込まれる。

 握り絞められる痛みなど比べ物にならないほど、苦しい……!


「なっ!?」

 気付いて手にしていたのは白く光る村正と……結衣が使っていた光烈魔断剣こうれつまだんけんである。


「なんでこれが……!」

「これも僕が奪い取った力だ!ここの竜脈エネルギーは凄い!」

 ジーニズも少しテンションが上がっているのか興奮した様子で答える。


「き、貴様……!そ、それは……!」

「そうだ!ミカエルが使ってた光剣だ」

 一瞬にして余裕を崩すサタンに、ジーニズは余程嬉しいのか堂々と答える。


「へ?そうなの?」

 つまりざっくり説明すると、ルシファーが堕天する直前にミカエルとの戦で負けた。

 そのミカエルが使っていた光剣らしい?


「い、いやいや理解追い付かねえよ」

「神話なんてそういうもんさッ!」

 ジーニズはとても失礼な事を言った気がする。でも生まれ変わりの神なら仕方がないのかな?


「はああぁぁぁッ!!」

 俺は考えを振り切って二刀を天に掲げる。


「グワアァァッ!?」

 大きな光がサタンの目から血を流させる。


「グッ!目がァァァ!!」

 お茶目なサタンなど無視して、悪を断罪する気持ちで大きく振りかぶる。


 その二刀は天をも穿つ光を放ち、サタンの体……五十メートル程の長さはある大きさだった。


「行くぞ!!」

 二刀は奴の頭から入り、真っ二つに断罪する。

『ズバババババァァアア!!』


「グハハッ」

 斬り裂いた後、サタンの薄気味悪い笑みが聞こえたような気がした。


 先程のサタンの人魂のような鎖が腕に巻き付いていた。

 そして断罪したはずのサタンはみるみる元に戻っていく。


「フハハッ……もう奴に負ける私ではない」

「なっ……!ぐぐッ……!!」

 鎖から蝕むような力を注ぎ込まれる。


「貴様とて馬鹿か!?あんなに完成した木の実が出来て我が食べないとでも思ったのか?」

(そうか……!ルシファーが自分を殺せなかったのも!)


(ん?自分を殺す?いや……勝てる方法ってこれしか無いのでは?)

「ジーニズ!幻覚だ!」

「やってみる!早く刺すんだ!」

 手先は鎖に縛られて中々体に近付けることが出来ない。


「刺したとて勝てるのかなぁ?」

「勝てるかどうかじゃないッ!勝たなきゃいけないんだぁぁああ!!」

 決意は固まっている。鎖を振り千切ってもう一度心臓に刀を突き刺す。


「はああぁぁぁッ!!」

 何度だって……!

 仲間と俺の幸せの為なら!何度だって!!


 そして俺は奴の心を……膨大な過去を見た。



 悪魔である自分でさえ神に作られた存在。

 人間に神と反対の選択肢を与える為だけに生まれた存在。


『あーあ、あいつら楽しそうだな』

 それは神や天使達が楽しそうに雑談をしていたり、お茶をしたり、ゲームをしたりしている姿。

 ただただ眺める大天使長ルシファー。


『なあなあ。あいつ、悪魔なのに神の従者やってるらしいぜ?』

『うわ、悪魔なのにダサっ。もっと悪いことすればいいのに』

 それは悪魔達に距離を置かれ、孤立するサタン。


『今に見ていろ……!我があいつらに負けない駒を作ってやる!』


 まず、神の選択肢を選ぶはずの人間を悪魔の選択肢を選ばせた。

 神が我を駒として作らせた誤算だ。


 そしてその片鱗にはシュブ=ニグラスに騙され、木の実を奪われたりする須方もあった。


『くそッ!あいつも!あいつも!あいつもあいつも!嗤いやがって!許さない!殺し尽くす!!』


「おい」

 俺はそんな可哀想な奴に話しかける。

「…………」


「過去を振り返ってどんな気分だ?」

「最悪な気分だ」

 小さいサタンは黙ったまま、縛り上げられている。


「…………」

 俺は無言のまま、その鎖で刀で切り落とす。


「良いのか?」

 サタンは自分がまた裏切るかもしれないぞと俺を脅かしてくる。


「お前らいい加減業から離れろ。まるで自分を持てない餓鬼のままだ。お前はお前だ。奴らの命令なんか無くても、長い年月を生き延びて、今を生きているお前だ」

 俺は淡々と奴に説教を下す。


 たまに俺だって迷うことがあった。

 でも俺にだって光がある。それを追って、自分と決別したからこそ今があるんだ。



「グバアッ!?」

 サタンは人魂の姿で目を覚ます。


「覚めたか?」

「我は幻覚に……?」

 俺は人魂に村正の刀身を添える。


「今からお前の罪や業、全部ぶった斬る。そしてお前が踏み出せないと望むなら、お前の全部を俺が奪う」

「なっ……!?フハハッ、それも面白そうだな」


 俺は人魂を斬り捨て、全てを無に還した。


「君は流石だな。式神にまでするなんて……」

終わったや否や、ジーニズが俺を褒めてくる。


「俺だけの力じゃない。それに今回のはちょっとね……」

規模が大きすぎて、仲間にしておかなきゃ不味かったまであるだろう。

「ま、まあね……」


「我の力に恐れたか?」

村正からサタンの人魂が出てきて、甲高い声がで聞いてくる。


「能力与えるとかはちょっと……ねえ?」

苦笑いしながらそう答えるしかなかった。


でもサタンの行動の一部が神達の引き金と言うのなら……

これこそアダムとイヴのような人間に下される天罰だったのかもしれない。


(奴らの目的って一体何なんだ……)


 ――宇宙船内――

「わぁ……すご。仲間にしちゃった」

 あたしはただ感服の声を上げる。

「奴が楽観的こその、幻覚を駆使するとは面白いやり方だな」


 でも一つどころが沢山気になる話があったのは事実だ。


 そして大樹でのトレーニングを勧めたのは間違いなく後ろの人物だ。


(触れないでおこう……)

「いやぁー偶然なんだよ?でもやっぱりあの噂は奴の仕業だったのかなーなんて」


 嘘を吐いたつもりでも下手くそだ。

「普通に悪気は無かったんだごめんで良いじゃん……」

「う、うん……ごめんな?愛美」


 パパは私の頭を撫でてくる。恥ずかしいのでそっと手で退ける。


(あれが本当ならあたし……)

 自分の心臓がしっかりと動いていることに安心感を持つ。


(で、でも優華と幸樹は?それに鈴は……)

「皆がそうでないと願おう……」

 パパに宥められるが、一番心配なのは……


(もし能力を持ちすぎて……乱威智が乱威智じゃなくなっちゃったら?)

 唯一の不安がそこだった。


 半ばあたしが、ジーニズの兄や謎の組織から狙われたきっかけで乱威智は決意したようなものだ……


 もしそれで記憶なんて失っちゃったら、精神が危険な状態になってしまったら……結衣や優華にどんな顔で接したら良いのだろう……


机上のモニター台に肘を突くと、変なボタンを押してカメラが色んな場所に切り替わってしまう。


それは家、城、他の星、そして私の部屋、ここの椅子の足元……

「パ、パパ……?」

怖くなって身の毛がよだつ。


「まさかお風呂なんかに無いよね?」

「ま、まさかぁ……無い無い~~あはは、あは、あはは……」

乾いた笑いをするので、帰ったらチェックしてぶっ壊しておこう。

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