9章 親子怠慢編

第33話~あいがほしくて~

 あれからまた数日、父さんとの勝負の時間も間近に迫っていた。

 結衣達は決勝戦の準備等をしているそうで、珍しく今日は愛美と鈴と登校していた。


(め、滅茶苦茶気まずい……)

 兄弟三人でいるのにこれだけ無言な事があるだろうか……?


 原因はきっと二つ。

 俺が本気の愛美に勝ったことについて、本人に何のフォローも入れてない事。

 結衣とイチャイチャしている瞬間を何度か鈴にも見られている事……


 今思い出しても、数週間前のファーストキス事件は見られるべきではなかった……


「と、透香は……?」

「自分の事気にしたら?」

 話題を捻り出したのに、食い気味で鈴に嫌味を言われる。


(妹に冷たくされるってこんなに傷付くんだな……)

 とても虚しい気持ちになって肩を落としてしまう。

「言われてら……」

 ジーニズもクスクスと俺を笑っている。そんな嘲笑も関係ない位、心に刺さっていた。

(お、俺ってもしかして妹大好き男なのか?)


「はぁ……先に未来と行ったわよ」

 愛美がそっぽを向き、口を尖らせながら言う。

 結局、透香が一番懐いているのは……

「誰が好きなんだ?」

 俺の脳内変換はぶっ壊れているらしい……

 もう一つの気になっていたことを聞いてしまう。


 因みにそれは今日見た夢の事だ。

 愛美が、お似合いの金髪彼氏を一緒にいたのだ。幸せそうに……

 起きたら凄く寂しくなった。


 顔が真っ赤になる彼女を引きつった笑いで見つめる。

 鈴もいきなりの出来事に、口に手を当て目をぱちぱちさせている。


「と、ととと透香は……や、ややっぱりあたしが、す好きみたいよ?」

 明らかに彼女の口は踊っている。

 うまく理解してくれたのか、はぐらかされたのか……


「そ、そっか……お前は優しいもんな」

「たらし!!」

 真っ赤な顔の鈴に後ろから怒鳴られる。まさにその通りだ……

「り、鈴……?どしたの?」

 愛美は気恥ずかしそうに彼女の方へ向く。


「姉ちゃんも何でこんな兄貴が――あぅむ!?」

 そして愛美は彼女の口を塞ぐ。真っ赤な顔でこっちをチラチラ見ながら。

「だ、だだだだめだよ……!」


(もう、聞くしかないか……)

「なぁ、お前は俺の事が――うむっ!?」

「喋ったらまた感電させるわよ……?」

 物凄く暗い笑顔が目の前にある。

(嫌われてるならこんなことはしないか……)


「わ、わはっらわはっら――はぁ、俺の勘違いみたいだ。俺ったら勝った事に素で喜んじゃって……てっきり嫌われてるのかと思っててさ」

 口元に当てられた手を離して、息を吸ってから本心を打ち明ける。


「愛美ちゃんも正直じゃないなぁ……言ってやれよ。あ、い――あわわわわわ」

 ジーニズが何かを喋ろうとしたのか、感電させられている。

「何か喋ったら容赦しないから……!」

(おぉ怖い怖い……)


「鈴、行きましょ!」

「え、ま待ってよぉ……!」

 愛美に引っ張られる鈴は何かを俺に言いたそうにしている。だが引っ張られていく。


「相変わらずね……」

 後ろから優華の声がして驚く。

「ふぁっ!?な、なんだよびっくりしたな……」

「ふん、別に何でもありませんけど……」

 いつもの無意識の彼女とは打って変わって、何だか素っ気ない。


「な、なんかあったか?」

「ありありよ!」

 何かにイラついているのか足を踏みつけられる。

「痛い……」

「お姉ちゃんのバカ……!」

 どうやら紗菜さんと喧嘩したらしい。


「め、珍しいな……原因は?」

「やだ。それは話さない……」

 恥ずかしそうにそっぽを向く。

(な、なんだよ……)


「と、ともかく……酷いこと言ったらちゃんと謝れよ?」

「はいはい……」

 また軽い説教を言ってしまう。

(俺ってこいつのこと放っておけないんだろうな……)

 いつもいつも親みたいに心配ばっかりしてしまう。


「な、なぁ。突然だけど変なこと聞いていいか?」

「なに?」

 彼女に不機嫌そうに聞き返される。

「愛美って彼氏いるのか?」


「いないわよ……!」

 再度足を踏まれる。

(な、なんでぇ……)

「よ、良かった……あいつに彼氏なんか出来てたら登校せずに殴りに行ってたわ」

「あんたねぇ……」

 溜め息混じりに呆れられる。


「あんたってさ……一人しか好きになれないタイプ?」

 突然、恋愛?の思考について聞かれる。

「この前の、恋愛とか多妻婚に関してか?」

「うん……」


 この前の母さんの授業は、宇宙で認められていても、地球の文化では認められていないことについて……

 つまり恋愛の自由に関してだ。


 宇宙で結婚までは誰とでも平気。兄弟とでも合意と自己責任の上なら大丈夫らしい。

 地球ではそれが認められていない。

 一夫多妻。そのまた逆も完全には認められていないそうだ。


 確かにどうでも良いことかもしれない。けどもし地球に行くという事になったら……

 俺達の常識は通用しない。そういう星もあるよという授業だった。


「俺は別に大丈夫だけど、結衣は許してくれないだろーなぁ……」

 許可無しで浮気なんかしたら……彼女に呆れられるどころか、捨てられる未来が想像できる。


「そ、そうね……」

「突然どうして?まさかお前……」

 俺は気付いてしまった。こいつまさか恋に悩んでいるのでは無かろうか?

「ち、ちらうから!!」

「じゃあ何だよ」

 微笑ましいなと思いながらも聞き返す。


「そ、その……笑わないでね?誰かに愛してるって言われてみたいなぁって……」

 彼女はもじもじした仕草でそう言う。

「ぷふっ」

「笑わないでって!」

 バシンと肩を叩かれる。滅茶苦茶痛い。


 寂しいというはまた違うだろう。彼女には鈴が凄く懐いている。

 引っ越した時も何度も家にお邪魔してるらしい。


「まあまあ。恋愛をしたいって思うのは当然だ」

「なにその上から目線……」

 少し得意げに言うと、彼女からジト目で睨まれる。


「そもそも!きっかけを作ったのは……」

「あー!わかったわかった!相談してみる。お前だって愛されたいもんな~」

 軽く彼女の頭を撫でてみる。


「ふん!」

 パシンと手で弾かれてしまう。だがその反動で彼女の頬に触れてしまう。


「あ……」

「…………そ、そうよ。そういうのがしてみたいの」

 頬を赤く染めて、目を逸らしたりチラチラ見たりを繰り返している。

 その頬から熱が伝わり、心拍数が跳ね上がる。


「かわいいな」

 つい本心が漏れてしまう。

「ふなぁっ……!?」

 慌てた表情を見せても決して拒否はしない。葵く綺麗な瞳を見つめてしまう。


 彼女も段々と目を逸らすのやめる。

 しばらく見つめ合ってみる。切なそうなその表情は物凄く可愛かった……

 キス……いかんいかん!


 手を離すと……

「あっ……」

 更に切なそうな表情をする。だからもう一度頬へ触れ――

「遊んでるでしょ……?」

 腕をがしりと掴まれる。彼女は目を閉じて怒っている様子だ。


「い、いや……か、可愛かったのはほんとだから……」

「ばか……」

 正直な感想を話すとまた恥ずかしがる。



 そんなこんなで学校に着くと、準備はもう終わっていた。

(遂にか……)


「乱威智、本当に俺と戦うんだな?」

 父さんから最終確認を取られる。事実上権利を放棄しても優勝にはなる。

 でも俺が目指したいのはそこじゃない。


 今すぐにでも仲間を安心させられる位強くなること……!


「勿論だよ、父さん」

「殺しにかかる気持ちで来い。俺も極力お前のペースに合わせるが、本気を抑えられる自信はない」

 目を赤く光らせた父さんは、自らの拳と手の平を合わせ火花を散らしている。


(愛美の爪以上か……)

 だがそれでも、何としても勝たなきゃいけない。

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