12章 七つの大罪編Ⅲ VSリヴァイアサン&レヴィアタン
第42話~嫉妬の悪魔レヴィアタン~
俺は次の星へと向かう前に……ちょっと休む為、父さんに通信連絡を使って船に乗せてもらった。
「随分派手にやったなぁー」
それは恐らくサタン戦の事を指しているのだろう。
「うん……」
「どうした?もう疲れたのか?」
俺はサタンと戦い、あることをずっと考えていた。
「父さんはあんな奴どうやって倒したの?」
「あいつかぁ……」
父さんは顎に手を当てて思い出すような素振りを見せる。
「もう力なんてほぼ互角でさ、向こうに飽きられて逃げられたような感じだったね……だからそこは、この星より竜脈エネルギーがたっぷりで波動とかも使いやすかったよ」
「そうなんだ……」
あの力とほぼ互角って……
地面が崩れる程の物理破壊力や、母さんの魔法ほどはある雷柱。
確かに魔王レベルのソレだ。
「確かに腹パンで穴を空けるなんて普通の力じゃないもんね……」
「あ、あれはぁー……あくまであれはお前を試すものだったんだからな?竜達と戦えばへっちゃらさ」
父さんは申し訳無いと思っているのか、言葉を濁しつつも理由を話す。
「今何体なの?」
「十体だ。皆面白いやつでなぁー?」
のろけ話が始まった。
「母さんに嫉妬されるよ……」
「うっ……」
父さんをいじるのも程々にしよう。もう寝たい。
「とりあえず今日は休むよ」
「これ、シャワーだけでも入るんだ。飯も用意出来てる」
(料理の苦手な父さんが飯……?)
俺は急いで冷蔵庫を開ける。
「わぁ……」
三十個はあろうかという杏仁豆腐……
「ほら?好物だろ?」
「そ、そうだけどさ……」
でも下の段にしっかり料理が置いてある。
「お粥とりんご……?」
「ああ、消化良い物が良いだろ?」
そうなのだが……この大雑把過ぎる料理メニューには覚えがある。
「まさか……愛美に教えてもらったの?あいつより未来に教えてもらえば良いのに……」
『ドンッ!』
俺がそう父さんに話すと、隣の個室から物音がした。
「ん?」
「あ、段ボール崩れたかも……」
父さんはそう言って部屋のドアを開けて、様子だけ見るとまた閉じる。
「なんかこの船怪しくないか?」
ジーニズの問いに、俺は溜め息を吐いた。
「いいよ……気にしないでおこう」
そして次の日……降り立った星は海と氷に覆われていた。
「うわっ、なんか怖い場所」
「そうだな、いきなり下からサメがドーン!って……」
「冗談でもきつい……」
しかも父さんの楽観的な冗談は大体当たる。やめてほしい。
「ほれほれ、弱音は吐くな。行ってこい!」
「うん……」
気が乗らないまま、極寒の地へと足を踏み入れる。
「んじゃ!一応見てるけど、終わったら連絡してくれ!」
父さんはそう言うとそそくさと船へ戻っていき、そのまま宇宙船は浮上していく。
「くしゅっ!さぶ……」
寒くてくしゃみが出る。寒いのは苦手だ。
そして微かに地鳴りが聞こえる。
「もう来たみたいだな……」
気を引き閉め直して、妖刀村正の柄に手を添える。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』
地鳴りは強くなり、氷にヒビが入る。地鳴りと似た唸り声も聞こえる。
『バキバキッ!』
「来るぞ!」
ジーニズの声と同時に空中へ跳ぶ。
「死ねぇえええええ!!」
『グギャワァアアアオォス!!』
割れた表面の前方から槍を持った女の子の悪魔。
後方からは星の竜とは比べ物にならないほどの特大スケールの竜……
二体は前方と後方からコンビネーションの合った挟み撃ちをかましてくる。
全長五百メートルはあってもおかしくはない冷気を纏う青蛇竜。
そして水色の肌、悪魔の装具を身に付けた同い年位の女の子。
(空気抵抗を……!操れない!?)
辺りの天気はいつの間に大嵐。冷気で空気の流れをコントロール出来ない。
つまり自在に避ける事は叶わない。
『カァァンッ!』
『ガガガガガッ!!』
咄嗟の反応で、刀と鞘で二体の攻撃を受け止める。
槍は刃で、牙は鞘で……
ミシミシと鞘が音を上げ折れそうになる。
「無理だ!何とか逃げろ!」
ジーニズの言う通り、女の子が持つ悪魔の槍も相当な力が込められていた。
「ぐッ……!」
俺は前後へ分身分離を作り、奴らの目の前へ移動させる。
奴らの視界が塞がり、力が緩む感覚。
その一瞬で左右に高速移動を繰り返し、立体影を作りだす。
「おらぁぁああああッ!」
やることは一つだけ。竜の左右の口を、立体影の残像で切り裂いていく。
『ガガッ!!』
やはり途中で止まることは分かっていた。
だから俺は刀で槍を弾き返し、悪魔の一瞬の隙を狙う。
案の定振り下ろされる槍は鞘で受け止め、その頃にはジーニズの準備も整っている。
「はああああぁぁぁぁッ!!」
結衣直伝の突き裂き……催眠攻撃を悪魔の首元へ放つ。
「ぐぅぅッ……!リヴァ!!」
後ろへバランスを崩す悪魔は竜を呼ぶ。
『任せろレヴィ!』
鞘を持っていた左腕に突き刺す痛みが走る。
「うッ……!」
竜に八重歯に左腕を噛まれた俺は、遠くの氷上へ豪速球のように叩き付けられる。
「ぐあああぁぁぁあああッ!!」
左腕が無い。遅れた感覚は激痛とパニックを呼び起こす。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!くそっ!こんな事も耐えなきゃならないのか……!)
「落ち着け!
ジーニズの声通りに右手で刀を心臓に突き刺す。
『レヴィ!!』
動こうとした俺の右腕をも、竜に胴体で押し潰される。
「分かったわ!!」
一瞬だった。寝転がった俺の上に移動した悪魔。
彼女は右足で、容赦なく俺の左肩を踏みつける。
「心臓と肺!ちゃんと貫いてやるから!!」
大きな槍で串刺しにするつもりなのか、それをゆっくりと持ち上げる。
(まだやられるわけにはいかない!!)
右側に槍を避け、背中にまた裂かれる痛みが走る。
「ぐッ!!はああああぁぁぁッ!!」
全身の力を右腕に込める。
勢い良く持ち上げた右腕は、竜の胴体を斬り裂く。
(やれるときにはやるしかない!!)
斬り裂く途中で催眠攻撃に切り替え、彼女の脇腹目掛けて叩き付けて吹き飛ばす。
「すぐに!」
心臓に刀を突き刺し、直ぐ様心刀を行う。
遠くに捨てられた左腕と鞘は光の粒となって消える。
そして俺の痛みは嘘のように無くなり、元通りの体……ではなく覚醒後の体になる。
腕は再生し、鞘は黒いオーラを纏う刀へ。
村正は白い炎を纏い、髪も灰色へ染まる。
「コンボでどうにでも返される。気を付けるんだ……!」
ジーニズのアドバイスも空しく、彼女達も自らに再生を施す。
「それと……リヴァは再生する度硬度を増す!慎重にするしかない!策にはまらないように……」
ジーニズの言うリヴァとはあの氷神竜リヴァイアサンの事だろう。
「あんたら……こいつの知り合いらしいな」
俺は息を整えつつ、二体へ話を持ちかける。
「話し合うつもりは無いわ!よくもあたしを散々振り回してくれたわね!クソ神がッ!クソイモ!」
悪魔レヴィアタンは怒りを露にしてジーニズへ怒鳴り付ける。
「私もだ。貴様らの願いなど、ここで命もろとも滅ぼす……!」
竜は淡々と言葉を吐き、静かな殺意を表す。
(恨みの無いただの偽善か……竜神様が悪魔なんかに手貸して何やってんだよ……!)
「乱威智……!」
「あぁ、分かってる……」
俺が挑発に乗るわけにはいかない。
「レヴィ……!」
「ええ!やるわよ!」
水色ツインテールの悪魔は槍を回し、魔法の詠唱陣を作り出す。
「何が何でも避けろ!」
ジーニズの気迫した声に答える余裕もなく……
「
彼女は氷の波のような全体攻撃魔法を繰り出す。
「あ、あれは……」
(
最上級魔法の上。それは竜神にしか扱えないという伝承がある。
その前には必ず結の字が付く……
立体影の準備をする。
『逃がすかッ!!』
リヴァイアサンは更に後方へと下がり助走を付けると、氷上から波のように氷を噛み砕きながら襲いかかってくる。
(また挟み撃ちか……潜るのは悪手……いや?)
俺は未来の襲撃でも試したある戦法を思い出す。
分身分離に切り替え、自分に重ねた無構造分身数十体を氷の海へ潜らせる。
それと同時に嵐の雲を割らない程度の高さに跳ぶ。そして……
精神統一で足元に波動を呼び起こす。
(初めてやったのに出来るのか……これは父さん見てたら、というかあいつ見てたら怒るだろうな……)
やってしまったと多少の後悔を残す。
――宇宙船内――
「あーーー!!」
父親の俊幸は荒げた子供のような声で叫ぶ。
「パパうるさい。あいつあたしの事も……あー腹立つ!」
愛美は歯を食い縛り、悔しそうにする。
――氷と化した無名の星――
(ともかく!どんな手を使ってでも勝つ!)
俺は先程の後悔など忘れ、刀を波動に突き立てて極大の魔方陣を生み出す。
(隠すのは任せてくれ!)
心の中からジーニズの声が聞こえてくる。
どうやらサタンの力を取り込んだ事により、沢山の魔法が使えるようになったらしい。
魔力の最低値は……マシにはなったらしい。
恐らく波動が使えたのもそのおかげだろう。
(感謝しろよー?少年?)
心の中で語りかけられたので素直に返してみる。
(ああ、感謝してるさ……)
(…………)
恥ずかしがってしまった。面白いな。
その間、奴らは血眼になって氷上に氷を落としていた。
分身分離のみを使うならばフェードアウトはお手の物だ。
実物そっくりに見えるだろう。
でもここの竜脈で動かさせてもらっている。だから次は必ず竜脈を使う奴らにバレる。
もう気付かれているかもしれないが、もう関係無い。
(少年!やれ!)
サタンの合図と共に俺は全力で叫んだ。
「極・
それは炎の竜を呼び起こす召喚魔法。らしい。
高熱のマグマを纏う翼竜が溶岩氷の山を溶かす。
「リヴァ!!」
「ああ……!」
リヴァイアサンはレヴィアタンの指示の元、氷のレーザーのうようなものを口から発射している。
(ん……?)
後退することもなく突っ張る奴らに疑問を抱くも、迷わず次の行動へ移る。
もう一度心刀を使い……雷の
変わり果てた巨大な雷の剣をリヴァイアサン目掛けて振り下ろす。
(麻痺したところを狙う!)
案の定マグマは奴のレーザーをものともせず氷上を溶かし尽くしている。
雷の剛剣はそのマグマを身に付けながら氷の大地をかち割り、一回転した剣は竜の顎を穿つ。
「よくもやってくれたわね!」
レヴィアタンは後ろに迂回し、俺へ槍を振り下ろす。
だがそれは残像となり、消えた。
あんなでかい槍を素早く動かそうとここは上空五十メートルはある。
そして冷気はすべてマグマによって溶かされた。
だから一瞬のうちに、怯んだリヴァイアサンに飛び乗った。
そして竜の側頭部後方の首筋へ、元の大きさに戻った二刀をクロスさせるように突き刺す。
「ジーニズ!!」
「はあああああぁぁぁああああ!!」
ジーニズの怒鳴る覇気と共に体に竜脈が溢れる程流れる。
血管が浮き出ていくつかの皮膚から出血する。
(もっと集中だ!奴のエネルギーを全て!ジーニズに流す!!)
紫に光る二刀はオーラを増し、奴に催眠毒の弱化ウイルスを流し込む。
竜は静かに動かずに耐性を作ろうとする。
しかしそれは仇となり、催眠耐性を地に落とす。
奴は力を失ったように水上に倒れ、眠りこける。
「まだだ乱威智!このままやるぞッ!」
「ああ!!」
俺は竜脈エネルギーを集め付くしジーニズに流す。
そして……
「やらせるかああぁぁぁ!!」
レヴィアタンは空上に配置していた波動の罠を掻い潜り、飛び掛かってくる。
「ファイアドレイク!悪魔の足止めを頼む!」
マグマの翼竜は体を分散し、小型翼竜の大群となる。
そしてレヴィアタンの体ごと竜巻のように包み込む。
「離れろッ!!」
槍の一振りでは押し退けるが、もう一度奴を襲わせて落下の軌道を変える。
海に落ちたレヴィアタンにピンポイントでサタンの雷柱が落下する。
「ナイスだ!」
「…………」
また恥ずかしがってしまった。
そして全身全霊をかけ、二刀へ力を流す。
「うらああああぁぁぁぁぁッ!!」
「はああああああぁぁぁぁぁ!!」
雄叫びと共に全ての催眠毒を流し込み、奴の能力を手に入れた。
のだが……リヴァイアサンはパッチリと目を覚まし、頭を揺らして振り落とそうとする。
だが冷気などほぼ残っていない。空気抵抗を極限まで下げる。
『真空……だとッ!?』
俺は二刀を奴に突き刺したまま、吸い込まれる竜巻のように移動する。
僅か一瞬そして強力な力で、竜の頭ごと全身を海に叩き落とす。
「サタン!頼む!」
「ああ!!」
もう一度雷柱が、竜と海を貫く。
「はあ、はあ……どうせまだだろ」
ひねくれている俺はそう呟き、二刀を構え直す。
「殺す……殺す殺す殺すッ!」
『貴様ら……!許さんッ!!』
感電した海が盛り上がり二体が姿を現す。
リヴァイアサンと、その頭に乗ったレヴィアタンが赤く光る眼差しでこちらを見つめていた。
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