第14話~変わらないこと~
「あ、あれは……」
第一フィールドに着いた頃には、乱威智と優華が拳を構えて臨戦態勢を取っていた。
そのフィールドは土のフィールドだ。砂地で複数の岩などが地面から飛び出していた。
「副会長、彼らは武器も出さずに何をやっているんだ?」
相馬生徒会長が副会長らしき眼鏡の男子生徒に話しかけていた。
「分かりません。ですがバットと喋る刀を彼女に預けてしまっていて……」
その視線の先には未来が釘バットと喋る刀ことジーニズを抱え、二人を応援している。
「二人とも頑張れー!痛かったら降参して良いんだよー!」
あの二人にはそんな言葉効くわけも無い。未来も分かっているはずだ。
親しい人にとっては、火に油を注いでるようにしか見えない。
多分わざとそうしているだろう。未来は純粋に見えて結構賢い子だ。
さっさと終わらせろと心の中で叫んでいるに違いない。
そんな困惑した空気の中を破ったのは優華だった。
彼女は一歩二歩と乱威智に正面から走り込み、三歩目で左足を左方向に踏み込んだ。
四歩目で仕掛けてくると読んだのか、彼は腕で防御体勢を取る。
だが彼女は四歩目で、右足を軸にして逆時計回りに半回転する。そして彼に背を向ける。
フェイントと挑発というところだろう……
そうすると彼は左足で彼女の左後頭部に蹴りを放った。
彼女は後ろ向きのまましゃがんで低い姿勢を取り、蹴りを
その姿勢のまま、左足を軸に体を逆時計回りに半回転させる。
そして彼の右サイドへと行き、左腕を右足首へ伸ばし掴もうとした。
次の瞬間、彼の姿は消える。彼女の左腕を軸に高速の回転刃が回るように見えた。
回転刃は地面を削り取り、ガリガリと轟音を立てる。
彼女は腕を拘束されたかのように動けない。だがその回転刃も直ぐに消えた。
(地面に穴が空いてないということは跳んだのね……)
あれこそ彼の空気抵抗を極限まで減らした速さの技だ。
説明すると、彼女が足を掴もうと左手だけを伸ばしてしまった。
それが故に彼は彼女の左手と左腕を軸にして、自身の右足自体を扇風機の刃のように高
速で回転させて動きを封じた。
おそらく左足を蹴り挙げた状態だったことから、右向きで前回りしたのだろう。
だから彼の手と腕の甲は今頃、砂と土で凄いことになっているだろう。
空中から彼が帰ってきた。複数の
た消える。そのせいか周囲の地面が多少揺れた。
何故空中に跳んだのか……自己のスピードを短期的に引き上げて、奇襲を仕掛ける為。
どうして敵を掴んで回転するのか……バランスを力ずくで崩させる為。彼と前に外稽古
をした時に教えてくれた。
彼女は左手を前に出したまましゃがんでいたため、バランスを崩して左手を地面に付い
てしまった。
その直後に彼女の真上と真下から、地中にいたはずの彼の蹴りが炸裂する。
「うぐっ!今度は逃がさない……!」
彼女は腹と背を蹴られ、呻き声をあげる。
彼の足は武器であり弱点でもある。多用すればそのうちそれを押さえられる。
彼女は左手を地面に着いて這いつくばったまま、右手と体で地面上の彼の足を抱えてい
た。元々腕の力が未来と同等ほどに強い。脱出困難な状況だろう。
彼の足は彼女の胸部と密着していた。しかもかなり強い力で。
そして先程の空中からの分身も消えてしまっている。
よく見ると彼女の大きい胸部に彼の脚部が食い込んでいる……
私はそれを見て、溜め息をついてしまう。
「はぁ……」
彼女は膝を突いてバランスを取り直す。左腕で更に抱え、逃がさないようにする。
「おりゃあ!」
彼女はそのまま立ち上がる。
彼を地面から引っ張りあげ、自分ごと背後に叩きつけていた。
はずだったが、また彼はいつの間にか脱出していた。地面にはまた穴が空いている。
「えっ……また!?」
彼女は呆れたような言葉を吐く。その後、近くにある地面から突き出た岩を根から掴む。
「おらぁぁ!」
一瞬で岩を地面から切り離し、地面に強く叩きつけた。
これこそが彼女の得意とする怪力。他にも彼女の能力はユニークなものばかりだ。
でもこの怪力を見たのは久々だったのか、彼女の異変にまだ気付かなかった。
先程よりも地面は揺れたが、潜る彼に変化は無い。
だが数秒後、彼女の落とした全長三メートルはある岩にヒビが入った。
その後すぐに岩は砕け散り、体勢を崩した彼女は後方に倒れ込んでしまった。
砕け散った岩の中から彼が飛び出したが……身構えたままだ。
体勢を崩した彼女は立ち上がろうとするが、一瞬止まった。
そして彼女は仰向けで立ち上がるのを諦め、彼に背を向けながら立ち上がった。
ちらりと見えた表情には何かに耐えているような感じがした。
私が彼女の忘れていた何かを思い出したのはこの時だった。
「あっ!そうだ……!」
彼女は過去に虐待を受け続けた結果、彼女は腹部に傷を負い何度も手術をした。
私達と別れる数週間前、未来とも組手をしていたらしい。その時未来が嫌がり、伝伸能
力を軽く暴走させて、重症を負ってしまった。
腹部の傷では収まらず胎盤も傷付き、炎症を起こしていた子宮からも出血。
遂に妊娠が困難な体になってしまった。あの頃の優華を特に見ていたのは仲の良かった
私と愛美だ。
優華の方こそ思い出したくも無い過去なはず……
破壊した岩から飛び出したであろう彼の方を見ると、何度も私に視線を送っていた。
それに気付いた私は、人混みを掻き分けながら、急いで未来の方へ移動する。
「結衣さんどうしたんだい?」
相馬会長が訪ねてきたので、適当にごまかした。
「すみません……!ちょっと知り合いが見えて、ちょっと待ってもらえたりしますか?」
「大丈夫ですよー」
会長は笑顔で答えてくれる。機嫌を損ねていなくて良かった。そのまま未来の元へと向
かう途中で……
「おっと?よそ見なんかしてて良いの!?」
横目でフィールドを確認する。優華は、私を見ていた乱威智を認識したのか、姿勢を低
くして彼の死角から襲いかかっていた。
不意討ちだったのか彼は地面に押し倒され、腕の間接技を食らっている。
「急がないと!」
やっと未来が見えたと思ったら、彼女は膝から崩れていた。
一番辛くて当たり前だ。友達を傷つけたくなかったはずなのに。この前の愛美のことも
あり、彼女はもう限界だろう。
「大丈夫?」
優しく問いかけるとか、泣いていたのかか細い返事が返ってきた。
「うん……」
「大丈夫よ!乱威智はとっくに気付いてるわ。ジーニズ!あの子は……」
ジーニズに優華の抱えている事を話そうとしたが、すぐに返事が返ってきた。
「わかってる。もう僕の能力で彼女を落ち着かせるしかない。それがあいつの考えてる事
だろう」
彼は内容を聞かなくても反対はしなかった。乱威智のことを余程信頼しているのだろう。
昔は彼の事を話しても、小馬鹿にしたような態度しか取っていなかったのに……
「うん……結衣ちゃん、お願い。手を貸して」
いつの間にか未来から震えた声は消え、泣き止んだ決意の声色になっていた。
「まずは私が声をかけたタイミングで、ジーニズを乱威智に向かって投げて。優華はああ
見えて察しが良いから、奪おうとしたら私が力づくで阻止するわ」
「わかった!」
「あいつより随分乱暴で無茶苦茶だなぁ」
未来のやる気に満ちた返事の奥から、ジーニズの皮肉が聞こえてきた。
「あいつの味方をするようになるなんて、随分としつけがなってるわね……!」
「うっ……」
ちょっと力を込めて言うと喋らなくなった。おかげで少し未来も笑ってくれた。
確かに優華や乱威智が言う通り、この子が笑ってるのを見ると安心する。
「いくよ!」
合図をかけ大きく吸い込んだ。
「乱威智ぃーーー!!受け取ってぇーー!」
代表になることは多い。だから声を張るのには慣れている。
未来が投げた赤黒い鞘に入った刀は、砂のフィールドの宙を舞う。
すかさず彼を押さえつけていた優華が反応した。飛び掛かるのはわかっていた。
だから私もフィールドの土を踏み、優華の伸ばした手首を掴み二回転ほど空中で回った。
わざと私がクッションになるように地面に転がり、彼女を軽く押し離した。
これで距離が出来たはず。彼の居合いは打てるはずだ。
『カキィーーン』
やけに高いバットのような金属音が鳴り響く。
目先で優華がバットを構え、乱威智の居合いを受け止めていた。
「ごめん!どっちも投げちゃった……」
未来の笑顔に油断させられていた。
「ちょ、ちょっとぉ……!」
未来の方を振り向き驚くが、立ち上がった優華が暗い声で喋り始めた。
「あんたたちはあたしのこと何だと思ってんのよ……!」
「幼馴染みか?親友か?どちらにしろ危険だと知ったら心配するはずだろ」
彼女の向こう側から答える乱威智の声がはっきりと聞こえた。
「逆に俺から質問する。いつも突っ走るのが得意な奴に聞いたらどうだ?まぁそいつもお
前と同じこと考えてるだろうな」
自分のことばかり考えるなと、嫌味ったれた声が彼から飛んでくる。
『親友は互いに信頼しあって、支え会う関係なんだろ?』
いつも愛美が私達を元気付けようと言ってくる言葉だ。
彼が家族を信頼してるという決意が伝わってきた。
「築きたいならお前からアクションを起こせ。俺はそんなめんどくさい駆け引きは苦手だ
けどな」
彼も私達を信頼してるからこそ、わざわざ叱ってくれる。
「愛美のことに協力できなかったのはごめんね……」
膝から立ち上がり、愛美のことを謝罪した。
「別に良いんだよ。あの時はお前も大変だっただろ……?あれ?」
彼は言葉を止め、何かを思い出すようなそぶりを見せた。
「やっぱり忘れてる……今のうちに言っておく。先程愛美を狙った侵入者がいたんだ」
危険を知らせてくれたのは嬉しい。だが自分だけで解決させようとするのは私だって心
配する。
「僕には記憶操作は効かない。覚えてるから安心してくれ」
ジーニズもその事をしっかり覚えているようだ。
(後で事情をしっかり聞いて愛美に伝えないと……!でもいつか糸が途切れるように、乱
威智に限界が来てしまったら……)
「全然だめね。はぁ……冷めた。降りるわ」
優華が戦いを突っぱねることはあまり無かったので驚いた。
その言葉を残し、彼女はフィールドを去ろうとする。
戦いを自分から終わらせようとしていた。
彼女は去り際に後ろを振り向き、乱威智に忠告していた。
「あんたこそ前ばかりに目を向けて、仲間から逃げていたら後悔するわよ……」
乱威智はその気持ちに気付いていないのか惚けていた。
私は、彼の腕の擦り傷や足の疲れを察して、彼に肩を貸しながらフィールドを退場する
ことにした。
その途中で先程のことをしっかり注意したかった。
「乱威智、あなたも無茶し過ぎってことよ……」
「無茶なんかしてない」
一点張りだ。恐らく自分で決めたことを曲げられるのが嫌なんだろう。
「僕も彼にはケアが必要だと思う。別に後でも良いことをハイペースでやる必要はないん
だ」
一人で抱え込んでた事にジーニズも気付いていたみたいだが、本人の反応は変わらなか
った。
「これは俺のやるべきことなんだ」
足もふらついている。恐らく歩きづらいこともあるだろうが、本調子に戻っていないの
かもしれない。
「はぁ……もういいわ。とりあえず休みなさい。あとは私がやっとくわ」
選手の勝利報告は、代表や生徒会の人なら代理で済ませることが出来るかもしれない。
優華が見つかればいいのだがどこかへ行ってしまった。近くにいるとは思うが。
フィールドを降りると、待っていた未来に乱威智を任せることにした。
「未来?こいつを無理矢理にでも休ませなさい。今後の事についてもしっかり話すのよ。
これが今のあなたに出来ること……!」
そう優しく告げると、彼女は笑顔を取り戻して自信が少しついているように思えた。
「わかった!ありがとう」
いつもの姉ぶった表情で、乱威智を無理矢理にでも引っ張っていく。
彼女は昔から引っ込み思案に思える。だが本来引っ張っていく方が向いてるのかもしれ
ない。
その後は生徒会の人と話をつけて、相馬生徒会長の戦闘を見たりもした。どうやら彼は
火の魔法と騎士の剣術を得意としていた。動きにも慣れがあるのか隙も見えなかった。
戦闘も終わってしばらくすると時刻は四時五十分。
調査隊や騎士団の講評も終わり、最後は生徒会の挨拶で幕を閉じる。
その後は解散という形だった。戦闘の練習に励むために残る生徒も少なくなかった。
私は、急いで保健室に向かった。どうやら愛美もいるらしく、しっかり話して来た方が
良いと、受付で乱威智のお父さんに言われたのだ。
英雄が親しく話す口調に、周りは唖然としていたことを思い出す。
学校には入学前から何度も見学に来ていた。乱威智を無理矢理引っ張ってきた、という
のが正しいかもしれない。
緊急時に地形に詳しいのは強みと言ったが、本当にその通りになるとは思わなかった。
保健室のドアをノックし、失礼しますと一礼し入る。
先生はおらず、誰の反応もなかった。どうやら1つのベットだけカーテンが閉まってお
り、話し声は聞こえなかった。
また気まずい雰囲気になっているだろうと、溜め息をつきながらカーテンを開いた。
ベットで寝ている愛美は布団の中に潜っていることに気付いた。
「愛美……!あんたはなんで……!」
「そんなきつく言うなって……」
名前を強く呼んだが、乱威智の声に遮られた。
確かに始めからこういう言い方は良くなかったかもしれない。
「でも……甘やかすのは良いけど、あんただって無理することはないんじゃない?」
「わかってる。だけど結衣、お前は少し落ち着くんだ」
乱威智に注意をされるとは思ってなかった。だけど彼に言われなかったら気付かなかっ
たかもしれない。感情が昂って愛美に当たってしまったのは事実だ。
「悪かった。ごめんね」
「うん……」
しばらくまた静寂が続いた後に喋りだした。
「どうせあんたは休まないんでしょ?帰らないの?」
おそらく図星だろう。彼は私と目を合わせようとしない。こういうことが起こったらな
ら、なるべく家族の近くにいた方が良い。
「愛美が安全ならな」
「あたしはもう大丈夫よ」
愛美は少し強がるような口調だった。乱威智はただ見守っているだけだったのか。
そうすると、今度はジーニズが頼み事があるのか訊ねてきた。
「結衣、少し大事な話がある。乱威智、帰るなら愛美ちゃんを連れて、お父さんに知らせ
て来た方が良いんじゃないか?」
「な、何で?」
愛美は驚いていたが、彼は更に懇願するように答える。
「頼む……席を外したい。結衣がこれからどうするかを確かめたかったんだ」
彼が私に確かめることというと、また細剣術のことだろう。少し茶化してみることにし
た。
「ホームシック?」
「違う!ってなんでそうなるんだよ……」
私はくすくすと笑い、乱威智もにやけたのを見て、愛美も少し元気になった気がした。
(やっぱり未来と同じだ。笑顔の方がが似合ってる)
その後乱威智は愛美を連れて、先程現れた侵入者の事を話しながら去っていった。
「まだ話してなかったのね……」
彼が彼女に引け目を感じるのは昔からだ。憧れてるのもあるのだろうかと思うと、ちょ
っと複雑な気分になる。
「憂鬱してるのか?」
「別にそんな訳じゃ……」
ちょっと焼き餅していたのを見透かされたみたいだ。
「あいつなら大丈夫だ。いい加減君から甘えても良いんじゃないか?それより……」
(そうした方が良いのは分かってる。でも中々恥ずかしくて……)
「分かってるわ……細剣術のことでしょ?」
「そうだ。そろそろ教えてやってくれ」
やはり予想していた通りだった。説明を加えると……
細剣術とは、那津菜家一家に伝わる那津菜流細剣術のことだ。
この細剣術は、レイピア、細剣専用の神速剣術とも言われている。
必要なのは長いこと前傾姿勢を取り続けられる筋力、体力、バランス、精神力。
更に大前提として、圧倒的なスピードを保っていられることである。
そしてこれらを長時間コントロールできる敏捷性と反応速度。
またこのコントロールが崩された時、危険から身を守る対応力。つまりは危機察知力だ。
王国設立時から那津菜一派として存在し、高難度を極めている剣術のため、会得を諦め
る者の方が多かった。
この中の一つでも欠けると、敵前ではあまりに危険だからだ。
母や父、先代のほとんどが戦闘中の事故で怪我している。
おかげで現在、会得者は私しか存在しない。
「嫌よ」
「あの余計な父親のせいで予定が早まってるんだ!あいつが苦しむ前に頼む!」
そう言われても嫌なものは嫌だ。これ以上乱威智に危険な役を担わせるのは自殺行為で
あり、ストレスや精神的に耐えられるのかもわからない。
「私だけで充分よ。これ以上誰かにこんな危険なものを広めるつもりはないわ」
「今回だけは引き下がれない」
結局二十分程説得を受けたが、無視して乱威智の元へと向かうことにした。
よく喋る刀を無視するのはもう慣れている。
「そうだ!君とあいつがバトルロワイヤルとやらで戦って、決めれば良いんじゃないか?」
「軽く言わないでよ……」
あまりに軽い口調だったため、呆れて沈んだ声で答えた。
軽い単純な意見で、傷付けたくないって気持ちを無下にされたくなかった。
「悪かった……でもあいつは君にビビってるし、本気を見せて出鼻を挫くいい機会なんじ
ゃないか?傷付けたくないのはお互い様だろ……?」
確かにジーニズの言う通り、彼の戦術には私に向けてのみ迷いがある。
でも彼も私のことを気にかけてくれたと気付き、少し安心した。
「これから乱威智は、新たな力を得るために何度も……命を落とすような試練に挑戦する
ことになる。その時、今の体力だけで耐えきる戦法で凌ぎきれると思うか?」
今のままじゃ乱威智もギリギリなのは分かってる。今後ジーニズの兄が未来を巻き込み、
暴走する事があるのなら……と考えると一昨日みたいに無理はして欲しくない。
(でもこれ以上この細剣術に、もう人を傷つけて名を汚させたくない……!)
「大事な人を失うのはもう嫌なの。私がバトルで戦う時、使うかなんてあんたには関係無
い……
私の家には週二回サポートに来てくれる、お手伝いさんがいる。以前は専属のメイドさ
んで葵さんと呼んでいた。
だが二年前、彼女が本当のことを話してくれて……最初は戸惑った。
優華を引き取ったのがこの人だったなんて。だけど唯一心を許せることができて安心も
した。
『今まで通り甘えて良いのよ?あなたのこと大切なのは変わり無いの……!今はいないパ
パとママに負けない位愛してるから……!』
こう伝えてくれた時、二人して泣いて抱きしめあった。家族の暖かさを思い出す。
「すまん、辛いこと思い出させて……」
私は沈んだ顔をしていたのか、彼が察してくれた。
「良いの!嬉し涙よ!大切なのは変わらないわ……!」
彼の声に滲んだ涙を拭って、元気に答えた。彼の待っているであろう前に進んだ。
少しずつでも追い付けるようにと願いながら。
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