第47話 ユグドラシルの苗木
「待避ーー!! 待避ーーーッ!!!」
カーラグラード中心部、地下を突き破ってそびえたそれは、あまりにも巨大な1本の樹木。
凄まじい勢いで街中へ広がる根っこに、連邦軍、315レーヴァテイン大隊は緊急待避を強いられていた。
広場攻略に使ったビルもなぎ倒され、街の半分以上が木の根に侵食。煙が立ちのぼる市街を見下ろすように、木の幹は天へと広がる。
『こちら大隊本部! カーラグラードを震源とするマグニチュード5の地震が発生した! 状況送れ』
「本部、こちらレーヴァテイン01。とてつもなく巨大な木が地下より出現した、地震の原因もそれでしょう」
ラインメタル少佐の言葉に、普段は冷静沈着で知られる本部オペレーターが驚嘆の声を上げる。
『木だと!? 全長は?』
「100メートルはゆうに超えるかと、幹、根っこは数キロ以上に渡り発生。現時点での詳細は不明です」
『......了解した。参謀本部に報告する、なにかあれば現地指揮官の判断による行動も許可する』
「01了解、アウト」
通信を終える少佐、民家の上で木を見合上げる俺たちへ、背後からベルセリオンが近づいた。
「あれは『ユグドラシルの苗木』......、アスガルの運用する異世界とを繋ぐポータルだ」
「異世界とのポータルだと?」
彼女は元執行者、敵の情報にも精通しており、唯一答えを知っているのだろう。
「ポータルって、よく漫画や小説に出てるワープゲートみたいなの?」
いまいち掴めていないらしいナスタチウム中尉が、ベルセリオンへ尋ねる。
「ほぼ同じだ、人間がレクトルと呼ぶ魔獣......あいつらは元々この世界でも、アスガルの生き物でもない。全く違う世界の存在になる」
彼女は『ユグドラシルの苗木』と読んだそれを睨む。
「あれは、そんな別世界の魔獣をこちらへ送り込むためのもの」
ここまで言われれば嫌でもわかってしまう、アスガルの目的も、苗木の危険度も――――
「つまりあそこから......、大量のレクトルが転送されてくると?」
ベルセリオンは、ゆっくりと頷く。
最悪だ、連中の目的は街の占領じゃなく、苗木の植え付け! 俺たちが戦ったオーガ級も、苗木を経由してきたということか。
「大隊長! 速やかな苗木の破壊を具申します、今ここで戦線を作られれば、連邦どころか帝国本土も危険です!!」
「大尉、貴官の意見はもっともだが、あれを見たまえ」
あれとはと少佐の指差す方角を見れば、そこには体勢を整えた連邦軍部隊の姿。
道路には無限軌道が特徴的な空挺戦車が24両と、剥き出しの弾頭をあらわにした対戦車ロケット班。
――――まさか。
「撃てーーッ!!!」
24門の100ミリ
追うようにロケットランチャーが矢継ぎ早に発射され、全弾が命中。
凄まじい威力なのは自明、爆炎が苗木の中腹を包み隠す。
しかし――――。
「目標健在!!」
「もう一度だ、榴弾装填、焼き払え!」
連邦軍戦車部隊は攻撃を続行、対戦車ミサイルを混じえた猛攻を叩き込むが、山を砲撃するように苗木はビクともしない。
それどころか、焦げ1つ付いてないじゃないか......。
「無駄だ、苗木は神壁によって守られている。並の攻撃は全く受け付けん」
「SFでいうバリアか、突破方法は無いのか?」
「こないだジークに聞いた
その時、ベルセリオンの説明を遮って足音が鳴った。
「わたしが......やるわ、魔力ならまだ残ってる。苗木は絶対にここで潰さなきゃ......」
そこには、満身創痍のテオがアルバレス中尉に肩を借りて立っていた。
「やるってお前......、まさかもう一度神装を纏う気か!?」
「それしか無いじゃない、こう見えて一応神なのよ? 苗木の破壊くらい――――わけないんだからッ!!」
熱風が吹き荒れ、神々しい火の粉が空へと散らばる。
【神装・ムスペルヘイム】を発動し、その手には背丈よりも大きい火で出来た弓が握られていた。
なぜ......、こいつはここまでして!
「降りし光は主の恩寵、遥か空の果て――導きの火矢を放たん!『イグニス・ストラトスアロー』!!!」
撃ち放たれた神の矢は、ミサイルをも凌駕する速度でユグドラシルの苗木の根本へ直撃した。
大樹は穿たれ、気化爆弾にも匹敵するような爆発が根っこを吹き飛ばす。
神壁の一部には、大きく穴が開けられた。しかし......それでも苗木は損傷を見せるが健在。
同時に、力を使い果たしたテオがその場に倒れ込んだ。
「テオ!!」
意識は無く、神装も解かれている。これ以上は無理か......。
打てる手は使いつくした、俺が撤退の2文字を思い浮かべた時、ラインメタル少佐がこちらへ振り向いた。
「大隊傾聴! 我々はこれより室内戦装備に換装後、ユグドラシルの根本へ侵入する! 高性能爆薬を調達後、苗木を真下からふっ飛ばすぞ!」
テオが神壁と根本に開けた穴から突入し爆破!? それでも......選択の余地は無いということか!
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