〜神との休日〜
第36話 休日返上
軍人たるもの銃を撃つだけでなく、何事にも対応できる能力が必要とされる。
陣地構築、体力錬成、"上官からの無茶ぶり"。強いて言えば今回は3つ目にあたるのだろうか......。
「ねえねえエルド! このフードコートってとこ、好きなお店から買ってきて良いのよね!?」
ラインメタル少佐からの
普段ならあまり縁のない場所だ、ならなぜ来たか? 付き添い......っというか連れてこさせられた2人の神がその証左である。
「節度をわきまえろテオ・エクシリア。ジークから目立つことはするなと釘を刺されているだろ」
テオとベルセリオン、この2人に休日帝都を満喫させてやってくれというのが、今回俺に与えられたミッション。
さようなら安寧(あんねい)の休日、こんにちはクソったれの理不尽よ。
「では、私もこいつを見張りがてら食事を買いに行く。エルド、席の維持を頼んでいいか?」
「ん? ああ、了解した」
俺の予想とは反対に、ベルセリオンはとてもおとなしくしており、はしゃぐテオを逆に
何があったのだろうか、言動もやたらとラインメタル少佐を気にしている。
なんにせよ、アルバレス中尉がいたら「ありゃ大尉! 女の子を両手に携えて、マジハーレムじゃないですか!!」とか絶対言われてた。
まあ、315大隊も今日はほぼ全員休み。休日返上は俺くら――――。
「何をブツブツ言っている......、ほら、買って来たぞ」
「うおおッ!?」
首筋にヒヤリと冷たい感触が走った。
「ちょっ! どうしたのエルド!? ベルセリオン! あなた何したのよ」
振り向けば、飲み物を持ったベルセリオンと、バーガーセットを預かるテオが立っていた。
「ズボラの首に飲み物を当てただけだ、目も覚めただろう?」
えげつないことをしてくれる、こないだのコーヒーといい俺はそんなに腑抜けて見えるか?
「ああバッチリ覚めたよ......、さっさと置け」
殲滅すべき悪の権化(ごんげ)め! 絶対仕返すと胸中で誓い、とりあえずの昼食。
こう見ると、本当に2人は神なのかと疑ってしまう。いざ私服になるとそこらの高校生とさして変わらん。
ハンバーガーをがっつく元執行者に、俺は雑談を持ち込んだ。
「なあ、お前らの居た『アスガル』っていうのはどんな所なんだ?」
軽い気持ちで聞くと、ジュースを喉へ流し込んだベルセリオンがまず答える。
「――別世界と言った方が早いな、だがこの世界とは古来より繋がりがあったと聞く。ある時代では、人類からもよく崇められていたらしい」
「そうね、私も主からそう聞いたわ」
テオが続けた。
思えばこのような公共でする話ではないのだが、気になったのでしょうがない。一応ICレコーダーは起動してあるからあとで纏めてみよう。
「なるほど、っていうかそんなアッサリ話していいのか?」
「マズいだろうな。だからこそ、私はあの時殺されかけたんだろう」
氷をストローでいじりながら、ベルセリオンは感慨もなく言った。
案外、槍で貫かれたことを怒ってるのかもしれない。......当然だが。
「そうか......、じゃあもう1つ聞きたいんだが」
テオとベルセリオンが2人して顔を上げた。
「お前らのいう『主』ってのは何なんだ?」
場が固まる、いや、凍てついたというべきだろうか。
テオはあちこちに目を逸らし始め、ベルセリオンはリンゴジュースの中身を飲み干すと、端正な顔を向けた。
「分からない」
「はッ!?」
思わず叫ぶ。
分からないだと!? 詠唱にすら出てくる単語が?
「分からないって......どういうことだ?」
「うーん......何て言えばいいんだろ、主に色々教えてもらったっていう記憶はあるんだけど、思い出そうとすると雲が掛かったような感じで」
「私も直接会ったことは無い、だが、刷り込まれたように記憶や意思は存在する。お前ら人間を殲滅せよ......とな」
なんてことだ......。
ここで聞き出せればと思ったが、連中の情報統制は思いの外しっかりしているらしい。
「まあそんなつまらないの置いといて! 食べ終わったんなら早く行きましょう! 私まだまだ寄りたいとこあるし」
「同感だ、ジークから貰った軍資金を使い果たしてやらねばな」
情報収集に半分失敗した俺は、泣く泣く彼女らの休日に引き戻されていったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます